魔境
久しぶりに魔境へと飛び出したリューライだが、そこに待ち受けるものとは……
魔境。
そこは、この世界で最も危険区域とされる森。
冒険者はもちろん。知性や理性がない低レベルの魔物までも本能的に近づこうとしない。
リューライはその魔境で冒険者になるまで2年間、修行をすると決めたのだった。
***
「父さん、母さん、いってきます!」
俺は、元剣聖である父さんに惜しくも剣で負けて更なる強さを求めて魔境と呼ばれる少し危険? だと言われている森へと出発しようとしている。
「いってらっしゃい! リューライ!」
「いざとなったら転移魔法陣を使うのよ。」
この2人は本当に優しい。
前世の2人とは大違いだ……
「じゃあ2年経ったら戻ってくるから!」
俺は今日から魔境で暮らす。修行をする。食料は自分で調達して寝床も作る。いわゆる自給自足というやつに挑戦する。
俺は前世からキャンプとかBBQをやった事がなかったので、とても楽しみだ。
……と思っていたのだが、
[グォォーーー!!!!]
この森、地球と違って魔物がいるんだった!
ブラックベア。
前に戦った時は死ぬかと思った、というか師匠が居なかったら死んでいた。
《こいつは前に戦った奴よりも少し強いな。》
(全力で行きます。)
サーーーーーーー
魔力を流す。今では当たり前にできる。
前とは違う。
「身体強化!」
そして、
シャキーン!
ふふっ、家の倉庫からパクってきた剣だ。
バレたら怒られそう。
だが、
「その首、切り落としてやる!」
[グォォーーー!]
爪を使った攻撃。
前に受けたからわかる。
あれは痛い!
ふぅぅぅー、と息を吐いて呼吸を整えた。
「二の剣、登り地獄!」
登り地獄は下から上に剣を振り上げる技だ。
俺に迫ってきている爪を弾けたらいいと思っていたのだが、
[グワァぁー……]
俺の剣は相手の手どころか、体を左右真っ二つに切り落としていた。
「あれ、なんで?」
塵となったブラックベアの代わりに地面に落ちているドロップアイテム、[黒爪]と紫色に濁っている魔石を見つめて呆然としてしまった。
《お前はこの2年、ひたすら魔力というものに触れてきた。そして俺が作ったゴーレムと戦った。おまけに剣聖とまで戦い、その技を取得した。魔境の中でもこの[広域]と呼ばれるところでは相手になる魔物はいないだろう。》
そうか、俺、ちゃんと強くなってたんだ。
《それはそうと、もう少しでここら辺は暗くなるだろう。早めに拠点を決めた方がいいんじゃないか?》
(そうですね。どこか安全なところ探さないと。おすすめの場所とかってありますか?)
《広域と中域の間に洞窟がある。その中はどうだ?》
(洞窟? 中にモンスターは?)
《もちろんいるぞ。たが、その洞窟はレベル2までしかでないんだ。そして洞窟内には無数の横穴がある。その中に入ってれば襲われないだろう。》
(じゃあ今からそこ行きましょうか。どれくらいでつきますかね?)
《あっ、やっぱり無理だ。》
(えっ?)
《あそこに行くまで1週間かかるんだった。》
中域まで1週間!?
どれだけ広いんだよ。
あと1週間安全なところはないって事か。
(ここら辺で安全なところは?)
《強いて言えば木の上だ。広域には飛ぶモンスターがいない。地上を這うモンスターしかいないんだ。でも、木を登ってくるモンスターならたくさんいる。どっちにしろ、寝てる間に見つかったら終わりだ。》
今の状況から考えると木の上で休むのが1番安全だろう。
(じゃあ木の上に簡単なツリーハウスを作ります。)
《ツリーハウス? 何だそれは。》
(ツリーハウスは木の上の家ですよ。秘密基地みたいでとてもワクワクします!)
小さい頃から夢見たツリーハウス。
《そんなものが作れるのか? 暗くなるまで1時間もないぞ。魔境は暗くなったら本当に何も見えなくなる。》
(はい。試したいこともありますし。)
俺は今まで無属性魔法は身体強化、アイテムボックス、強化エンチャントしか使ったことがない。でも、師匠は無属性魔法では何でもできると言っていた。
そこで俺は、無属性魔法で物を動かせるのではないか、と考えたんだ。
そこら中に落ちてる木を集める。
掃除機のイメージだ。この手に吸い込む感じ。
そのためには手、そして木に魔力を流す。
すると、想像した通りにあたり一帯の木々が俺の元へきた。
そしてこれを木の上で小屋の形にする。
俺は前世で小さい頃によく遊んだブロック型の組み立てるおもちゃをイメージした。
こんな感じで組み立てると、
「よし! できた!」
20メートルを超える大きな木の上には、男なら誰もが一回は憧れるであろう[ザ・秘密基地]なツリーハウスが出来上がった。
木登りなら今まで嫌と言うほどやってきた。
「身体強化!」
俺は20メートルの高さを3秒くらいで駆け上がった。
《おー!! 何だこれは!? 本当に木の上に小屋ができたじゃないか!?》
師匠が想像していた10倍はしゃいでくれた。
(じゃあ、今日はここで休みます。)
アイテムボックスから自作の寝袋を取り出して、あとは寝るだけ。
《お前が寝てる間は俺が警戒しとくから、安心して寝ろ。》
(ありがとうございます! おやすみなさい。)
《早く寝ろ。》
そうして俺は少しひんやりとする小屋で一休みした。
「あぁぁ〜、よく寝た。」
俺はコケコッコー、ではなくグォォーーー! という鳴き声で目を覚ました。
朝から恐ろしいな。
《おっ、起きたか。》
(はい。俺は中心を目指して移動していきますが、いいですよね。)
《あぁ、もちろんだ。》
俺は小屋ごとアイテムボックスに入れて歩き出した。
木の下へ降りると、
[キュル、キュルキュルー!]
見たこともないような見た目のモンスターが俺を見つけて鳴いている。
青色の胴体は狼のように毛が靡いていて、嘴がある。でも、翼はなく、大きな爪が左右3本ずつ生えている。
獰猛な見た目で、その目からはものすごい圧を感じる。
《[キュルたん]だな。》
(キュルたん?)
《こいつの名前だ。ちなみにこいつ、レベル3で[ブラックベア]よりも強いぞ。》
俺は思わずこの見た目からは想像もつかないような可愛い名前に動揺してしまった。
でも、ブラックベアよりも強い。
俺はアイテムボックスから剣を取り出して構える。
《こいつは相当速いから気をつけろ。》
(はい。)
「身体強化!」
俺はキュルたんを見て攻撃に差し掛かろうとしていたのだが、
「い、いない…………ぐはっ!」
いつの間にか背後に回り込まれていて、背中に強烈な蹴りを喰らってしまった。
油断した。自分なら大丈夫と思い込んでた。
ここは魔境だ。
一瞬でも気を抜いたら殺される。
《何をしている。早く立て!》
(すいません。師匠。)
相手は目で追えない。
魔力を感じるんだ。
モンスターには独特の魔力が流れている。
それを感じて……
「そこだ!」
[キュル!?]
よし、カウンターをモロに当てた。
相手は動けなくなっている。
「三の剣、光の剣!」
ザクッという音と共に[キュルたん]は塵になっていく。
ドロップアイテム[キュルたんの毛皮]と魔石を落としたので、アイテムボックスに入れておいた。
(それで、中域まで行くのに1週間だっけ?)
《普通に歩けばな。身体強化をかけてダッシュしたら2日で着くだろう。でも、モンスターと戦いながら行くんだったら3日はかかる。》
(じゃあ身体強化をかけながらいこう。)
こうして俺たちは中域を目指して再び走り始めた。