剣と魔法
魔法の修行を始めてから1年、リューライは父親と手合わせをする事に……
師匠と訓練を始めてからはや1週間。
今日も魔力を流す訓練をしている。
魔力を流す訓練は簡単ではない。
庭に一枚の布を履いてその上で瞑想をする時に取る姿勢、座禅をして体の隅々、脳の内側から手指の毛細血管まで血液のように、いや、血液よりも鮮明に隅々まで魔力を流している。
魔法はイメージ……
師匠はそう言った。
でもイメージだけではダメらしい。
そのイメージに追いつくほどの魔力量と魔力の密度、魔力の質が無ければ出来ないらしい。
この訓練は一回で何時間も経過してしまうので、父と母はいつもこちらを見ているらしい。
この訓練をしている時、俺は周りとの接触を一切断ち切っている。と言うより断ち切らなければ魔力の流れを感じることができない。
これが無意識のうちにできるようになったらやっと半人前だと師匠に言われた。
「あの子、本当にすごいな!」
「あぁ、元トップ冒険者の私でも出来たのは10歳の時よ。それを5歳でやってのけるなんて。」
「しかも、周りに漂っている魔力の質もすごく高い。」
訓練中両親に褒められていたことを俺は気づかなかった。
ーーーー1年後
《もっとだ。もっと速く!足にもっと魔力を込めろ。》
(はい!師匠!)
俺は今、庭に生えている大きな大きな木を登っている。
この1年間、俺は毎日魔力の流れを感じる修行をしていたので、遂に無意識に魔力操作が出来るようになった。
そして今はその魔力を使う訓練をしている。
師匠に魔力の質だけで言ったらトップ冒険者にも並ぶと褒められた俺は魔力を使うにはイメージするだけで魔法を使えるので案外簡単だった。
俺はここ3か月くらい身体強化を毎日15時間。睡眠、食事、風呂の時間以外ずっと体の至る所にかけていたので結構慣れてきた。
そんな訓練に明け暮れる毎日。
その訓練に没頭している最中、俺の耳に聞き慣れた声が入ってきた。
「おいリューライ、お前剣を習う気はないか? もしやるんなら俺が教えるぞ。」
今まで静かに見守ってくれていた父からのまさかの提案に、俺は頷いていた。
「何で稽古をつけてくれる事に?」
疑問に思った。何故いきなり稽古をつけてくれる事になったのだろう。
「だってお前、冒険者目指してるんだろ? ここ最近お前を見てたが、魔力も安定してる。お前が魔法使いになったらすごい魔法使いになるだろう。そこでだ、伝説の勇者サンドラという名を聞いたことはないか?」
サンドラ!? まさに俺の師匠ですけど!?
あっ、でも俺この家からほとんど出た事ないから知ってたらおかしいか。
ならば、
「知らない。」
《おい!俺のことを知らないとは無礼者!》
(ごめんって、でもここで知ってたら違和感だろ。)
《まぁ、相棒だから許してやる。それよりも剣はいいぞー。》
師匠がそんなことを言ってる隣で父さんが話を続ける。
「勇者サンドラは魔法はもちろんトップクラスだが、何と言っても剣術もトップクラスで唯一魔法と剣を混ぜて戦う魔導剣士となった人なんだ。人には剣士としての才能、魔術師としての才能、このどちらかしかないと言われていて俺は剣士、母さんは魔術師の才能を持っている。だが、お前はどちらの才能も持っているかも知れない。さっき木に登っていた時もあんなに速く動けてたんだ。あれは剣士の才能を持ってる奴しかできない速さだ。」
多分俺がそんな動きをできたのは身体強化のおかげだろう。
でも、俺に剣の才能がもしあったら?
少しでも強くなれる可能性があるなら?
やって損はない。
《俺は身体強化で魔道剣士やってたぞ。》
俺の心を読んだように師匠がそう言った。
どうやら師匠も身体強化や魔力を上手く使うことで剣士としての才能を補っていたらしい。
俺も無属性魔法を使える以上、師匠と同じようにやってみようと思う。
「父さん!剣術を教えて!」
「おう!」
こうして、俺は父さんに剣を習う事になった。
「構えはどんな姿勢を取ってくれても構わない。」
木剣を渡されて開口一番にそう言われた。
「剣ってしっかりと構えて型に沿って振るうのでは?」
俺が知ってる剣は全てが決められた動作の応用だったので父さんの言葉には少し違和感を感じた。
「一般的にはそうだろう。だが、俺の家に代々伝わってきた剣は剣を振るう人が1番技を発動しやすい構えでやるって決まってるんだ。それがあの人の願いなんだ。」
よく分からないが、俺は構えをとった。
両手で剣を握りお腹の前から相手の首に一直線になるように構えた。
「いい構えだ。」と父さんが言ってくれた。
《相当強いぞ、お前の父親。》
(そうなの?いつも山仕事しかしてないからそうは見えないけど。)
《放ってるオーラが違う。剣士としての実力は間違いなくトップクラスだろう。》
確かによく魔境と言われる森の近くで笑顔で暮らせていたとは思うけど、そんな実力を持っていたなんて……
「父さんは冒険者だったの?」
師匠の言葉を聞いたかんじでは相当強い冒険者だったのだろう。
「まぁ、昔はお前の母さんとよくモンスターを狩っていたな。」
「じゃあレベルはいくつなの?」
父さんは少し不思議そうな顔でこちらを見てくる。俺、何か変な事言っただろうか。
そう考えていると、父さんが口を開いた。
「何でお前がレベルの存在を知ってるんだ?」
あっ、やべっ、そうだった。
レベルのこと師匠から聞いたんだった。
俺が知ってたら違和感しかないよな。
「えっと、なんとなく?」
何を言ってるんだ、俺。もっとマシな言い訳考えろよ。
そう思ったのだが、父さんは、
「やはりお前は何かの才能があるんだなー。レベルの存在を見破るとは。俺のレベルは内緒だ。」
何故かはぐらかされてしまった。
「よし、リューライ、切り掛かってこい。」
《一緒に戦うぞ。》
(師匠、お願いします。)
俺1人では剣の何も知らないので、師匠に協力してもらう事にした。
《身体強化を発動しろ。全身にだぞ。》
俺はこの3か月鍛え続けた魔力による身体強化を存分に使い、剣を握った。
「いい目だ。よし、こい!」
《右下から左上に切り上げろ。》
父さんに向かって剣を振り上げていた俺は瞬時に剣を下げて師匠の言う通りに剣筋を通した。
「おー!下から振り上げるとは、いいセンスだな。」
《真横、上、斜め…………》
俺は師匠の言う通りに動き、身体強化もかけっぱなしだ。
しかし、父さんに剣を当てる事は出来ない。
それどころか俺の体力だけが削られて魔力も底をついた。
「はぁ、はぁ、はぁ、っはぁ……」
「今日はここまでだ。これから毎日この時間に1日一回だけ手合わせをする。どうしたら勝てるのか考えながら戦うんだ。」
1日一回だとっ!もっと相手が欲しい!
父さんは俺の目標になっていた。
そうして、俺は勝つためにはどうすればいいのかを考えながら庭で眠った。