If the word is a farce, I am always brandished by the farce.
「俺、お前のこと好きだよ」
その言葉に苦笑が洩れた。いつもの言葉だ。
私は笑って礼を言った。
彼にとってはどうでもない言葉なのだろう。
しいて言えば、彼はその言葉で人を自分に縫いとめようとしているだけ。
私は笑って「私も好きだよ」と言った。
彼は異性にも同性にも同じ意味の言葉を言う。
女性に言う時には私に言った言葉を。男性には「気に入っている」という言葉で。
彼は人を自分に縫いとめようとする。
彼のことをよく知らない人だったら、もし言われた人が女性ならいきなり告白されたと勘違いするだろう。
実際いきなり告白されたと思った人が何人かいた。
そのたび彼は
「これは俺なりの友愛表現! ていうか冗談」
と笑う。
彼に好意を持っている人なら、その返事にガッカリし、意識していなかった人なら良かったと胸を撫で下ろす。
私から見てみれば、彼はとてもおかしな人だった。
他人から見ても、彼はとてもおかしな人だった。
いつもいつも笑っている。
昔からの彼を知っている私でも、彼の笑顔以外の表情を見たのは片手で数えられる程度だった。
鼻歌を歌いながら私の前を歩く彼は、とても楽しそうだった。
さっき私に唐突に言った言葉は、まるで世間話。世間話よりも短い単語。
彼にとっては、どうでも良くないけれど、あまり重要性も無い言葉。
あぁ、私この人に振り回されてるな。と溜め息を吐いた。
「なぁ」
またいきなり立ち止まって、彼が振り返る。
顔には笑顔。仮面のように作った笑いではない。
本当に心から楽しい、と語ったもの。
彼は誰に対してもそうだ。
家族にも私にも周りの人にも赤の他人にも。
彼は笑顔で私に聞いてきた。
「俺のことどう思う?」
私はそれに、いつもの君だね、と答えになっていない言葉を言う。
彼は不満そうに笑った。
器用な事もできるんだな、と感心していると、「そうじゃなくって」と彼が言う。
「俺のこと、好き?」
本当に何気ない会話だった。
私は、「好きか嫌いか、って言われたら好きかな」と言うと、彼はとても嬉しそうに笑った。
「俺も好きだよ」
眩暈がした。
その言葉を、私は都合良く受け取りたかった。
でも彼はきっとその言葉を違う意味を持って言っている。
彼は純粋に、子供が何かを好きと言う風にでもなく、友達としての好きと言うのでもなく、男女の関係の好きと言っているでもなく、彼は自分のためにその言葉を吐いている。
彼は愛されなかった人だから、せめて自分から人を愛そうとしている。
でもそれは私にとっては残酷な言葉だった。
どっちつかず、どんな意味にでも変えられるその言葉。
私はその言葉に微笑んであげた。
すると彼も嬉しそうな顔をするので、私の心は暖かくなった。
あぁ、振り回されてるな、私。
くるりと向きを変えて歌を口ずさむ彼に、ついていく。
買い物に付き合ってと言われてついてきたことを私は後悔した。
この茶番は、いつ終わるんだろう。
どんな言葉でもいいから、自分に他人を縫い付ける言葉以外のものが欲しい。
そう願っても、どんなに渇望しようとも、自分のことしか考えていない彼には届かない想いだった。
自分を見て欲しいから、その言葉を吐く。
その言葉を受け止めた彼女は、彼に片想いをした。
男女間の愛ではなく、自分が愛されたいためだけに吐く言葉。
その言葉の意味を知った彼女は、彼に贈り物を贈った。
彼は形の無いそれに気付くことはない。
題名の意味。
その言葉が茶番なら、私はいつだってその茶番に振り回されている。




