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悪役令嬢 誕生

 

「エミリア・ファセリア公爵令嬢、君は、私の人生の悪役令嬢だ。よって、婚約を破棄する! 」


「はい? 私が、悪役令嬢で、婚約破棄ですか? 」

「そうだ」

「私が悪役令嬢、なぜですか? 」


「まず、暗くて、冷たい」

 殿下は、私に向かって言う。


「まぁ、私が暗くて冷たいなんて、そんなに落ち着いていて冷静ですか? 嬉しいですわ。王太子妃教育、頑張ったかいがありますわ」

 うふふ、早速、昨日の王太子妃教育で学んだ『短所は長所に言い換えられる』を実践よ。私は、殿下のネガティブな言葉を見方を変えて、ポジティブな言葉に言い換える。


「えっ、褒めてないぞ」

 むすっとして殿下は言う。


「それから、それから・・・・」

 私は、目を輝かせながら聞く。言葉の言い換え楽しいわ。それに、本当に婚約破棄ができるかもしれないわ。


「その上、出しゃばりだ」

「まぁ、私、出しゃばりですか? そんなに私、しっかりしてますか? 嬉しいですわ、殿下。それから、それから・・・・」

 さらに、私は、目を輝かせながら聞く。


「はぁ? 褒めてないぞ。それから、従妹のベロニカ伯爵令嬢をいじめてる」

 殿下が言う。

 覚えがないわね。


「まぁ、私がいじめてる? いじめてたなんて、気付きませんでしたわ。どんなことですか? 」

「それは、ベロニカ嬢に服を貸してあげなかったり、わざとぶつかったり、私と仲が良いからと嫌がらせをしていると聞いた。そうだろう? 」

 殿下は、隣にいるベロニカに声をかける。


「はい、殿下。エミリア様は、私が、「この服、素敵ですわね。いいなぁ~ 」と言っても服を貸してくれないんです」


 えっ、ベロニカ、あなた今まで私に服貸してなんて言ったことは、ないわよね。いいなぁ~ がもしかして、貸してって意味なの? それ、わかりにくいわ!


「それに、職員室の前で、私にぶつかってきたんです。謝ってもくれないんです。きっと、殿下と仲がいいから嫉妬されているんですわ」

 ベロニカは目を潤ませながら、上目遣いで殿下を見る。


 それ、私は、職員室の前で立ってただけで、ぶつかってきたのはベロニカよ。それに、殿下が他の女性といても私、嫉妬しないわよ。だって婚約破棄したいんですもの。でも、そんなことは、どうでもいいわ。今は、婚約破棄のチャンスよ。


「誤解を与えてしまったようですね。ベロニカへの配慮が足りなかったようですわ。ごめんなさい」

 と軽く頭を下げる。そして続ける。


「婚約破棄ですね。承知しましたわ。私が、落ち着いていて冷静で、しっかり者だから、殿下の人生の悪役令嬢なのですね。私は、悪役令嬢で、配慮が足りなかったわけですから、婚約破棄もしょうがないですわ。ですから、もう王太子妃教育は、行きません。では、さようなら」

 私は、笑顔で言う。


「はぁ? 」

 殿下は、きょとんとして、困惑した顔をしている。


 私は、カーテシーをして、殿下の前から、スキップして去っていった。


 やったわ! 婚約破棄よ。

 もう、立ち振る舞いも気にしなくていいのよ。スキップだってできちゃう。

 淑女の鏡になんてならなくていいのよ。

 王太子妃教育をもうやらなくていいのよ。

 誰にでも優しく、落ち着き冷静で、謙虚でいる必要はないのよね。

 いい子でなくていいのよね。

 うわ~、嬉しいわ!



 そうだわ、せっかくだから、殿下が言うように皆の人生の悪役令嬢になってみようかしら。


 うふふ、やってみたかったのよね。いじわるを・・・・。







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