第85話 普通に殴った方がいいと思って
「編入生のお前は知らないかもしれないが、我々はナインスターズと呼ばれる生徒会だ。学内で特別な権限を与えられている我々が、わざわざダンジョンの最下層まで来たのは外でもない。お前を英雄学校から排除するためだ」
生徒会の第二席、シリウスが告げる。
「お前の存在は、貴族中心の学校を希求する我々にとって、看過できないと判断した。幸いダンジョンの探索中に死んだとなれば、死体を発見できずとも不自然ではない。我々が手を下した証拠は残らないことになる」
アリスとガイザーの二人を閉じ込めた結界は、彼が発動したものだ。
中から外を一切見ることができないため、自分たちの姿を見られる心配はなかった。
「そういうこと~。可哀想だけど、運が悪かったと思って諦めてね? あはははっ!」
場違いな笑い声を響かせたのは、第四席のミラーヌである。
さらに第七席のネロが言う。
「あ~あ、せっかく久しぶりに楽しめると思ったんだがな。仕方ねぇ。おい、ゲルゼス、せめて半殺しに留めておけよ?」
「くははははっ! 残念だけれど、こいつはこの僕がズタズタに斬り刻んであげるんだぁっ!」
「ちっ、こいつ完全に魔剣に呑み込まれてやがる」
朱色の禍々しい魔剣を手にした生徒会第八席のゲルゼスが、先日、学内で対峙したときとは比較にもならない速度でエデルに躍りかかる。
「死ねぇぇぇっ!」
「っと」
繰り出された斬撃をエデルが剣で受け止めた。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねえええええええええっ!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!
剣と剣が幾度となく激突し、響き渡る暴音。
豪雨のごとく降り注ぐゲルゼスの斬撃だったが、エデルはそのすべてを余裕で捌いていた。
「お、おいおい、マジかよ、あの一年……? ゲルゼスのあの猛攻を、完璧に凌いでやがるぞ……?」
ネロが唖然としたように呟く。
それにミラーヌも応じて、
「ちょっ、何なのあの子~っ? めちゃくちゃ強いじゃん! てっきりゲルゼスちゃんが、何かやらかして負けたとばかり思ってたのに!」
シリウスもまた、眼鏡を中指で上げながら眉根を寄せた。
「……なるほど、想定していた以上だな。このダンジョンをたった三人でここまで踏破してきただけのことはあるようだ。だが、あの魔剣を手にしたゲルゼスを相手に、どこまでやれる?」
彼らが見守る中、猛攻を仕掛けていたゲルゼスが、いったん飛び退って距離を取った。
「くははははっ、やはりやるじゃないか! だけど、平民ながらその強さを身につけたこと、霊界で後悔するがいい!」
そう叫び、魔剣を掲げた次の瞬間だった。
刀身がぐにゃりと曲がったかと思うと、大きく伸びながらゲルゼスの頭から腕、胴、足へとぐるぐるに巻き付いていく。
「これこそが、この魔剣の神髄だ!」
やがてそこに現れたのは、血の色をした全身鎧を纏うゲルゼスだった。
僅かに顔の一部が見えているだけで、それ以外はすべて鎧に覆われている。
「……魔剣が鎧になった」
「どうだい、こんな剣、見たことないだろう?」
ゲルゼスは勝ち誇ったように言う。
「魔装化状態となった今の僕は無敵だ。なぜならこの鎧は、ありとあらゆる攻撃を完全に無効化してしまうのだからね。……え? 代わりに剣がなくなって、一体どうやって攻撃するのかって?」
「別に聞いてないけど……」
「くくく、その心配は要らないよ。なぜなら、今やこの鎧のありとあらゆる場所が剣なのだからねぇっ!」
腕も足も、頭も胴も、そこに触れただけで斬り刻んでしまう。
すなわち、全身が剣そのものになったと言っても過言ではない。
「完璧な防御力と完璧な攻撃力っ! それこそが、この魔剣の力だ……っ!」
エデル目がけ、真っ直ぐ突進していくゲルゼス。
対してエデルはというと、学校支給の鋼の剣を、ぽいっと捨てた。
「まさか剣を捨てるとは! しかし賢明だよ! そんな剣じゃ、今の僕の前にはまったくの無力! 少しでも軽くして、逃げ惑うのが最善だ! もっとも、逃がしはしないけれどねぇっ!」
「いや、剣より普通に殴った方がいいと思って」
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