第83話 無茶苦茶怒ってるっす
最下級ダンジョン『岩窟』の入り口に、四つの影があった。
「おい、ほんとにここにその一年がいるのかよ?」
「ああ、間違いないはず」
「はっ、もし違ってたら、ゲルゼス、てめぇただじゃ済まねぇからな?」
「ふん、やれるものならやってみたらいい。君の方こそ、ただで済まないだろうけれどね」
「ああん、てめぇ、俺に喧嘩売ってんのかっ!? 今ここでぶち殺してやってもいいんだぞ!?」
「ほらほら、二人とも喧嘩しない喧嘩しない。もしやり合うっていうなら、あたしも参戦しちゃうぞ?」
「っ……す、すいやせん、姐御」
「……」
英雄学校の生徒会、その第七席ネロ、第八席ゲルゼス、第四席ミラーヌ。
そして、第二席のシリウスである。
「見ろ。ここにまだ新しい足跡がある。大きさからして、ちょうど一年生ぐらいだろう」
「ほんとだ! さっすが、シリウスだね~。ていうことは、彼らが中にいる可能性は高いってことか」
「ふん、むしろこんな分かりやすいもの、気づかない方がおかしい」
そう鼻を鳴らすと、彼は先頭でダンジョン内へと足を踏み入れた。
他の三人も後を追う。
「しっかし、何で奴ら、こんなクソみたいな雑魚ダンジョンに潜ってやがんだ? コボルトしか出ねぇ最下級ダンジョンだろ?」
「確かにね~」
ネロが疑問を呈し、ミラーヌがそれに応じて首を傾げる。
「ダンジョン内なら都合がいい。最下級とはいえ、ダンジョンだ。不覚を取る可能性はゼロではない。一年だけでの探索となればなおさらだ」
シリウスが淡々と告げたときだった。
前方からコボルトらしき魔物が近づいてくる。
「シリウスさん、雑魚どもの露払いは俺に任せてください」
そう言って前に出たネロは、あることに気づいて眉根を寄せた。
「このコボルト、なんか異様にデカくねぇか?」
……このときの彼らはまだ知らなかった。
ここ最下級ダンジョン『岩窟』は、エデルの手によって大幅に強化された結果、中級ダンジョンに相当する難易度と化していることを。
「「「ワオオオオオオオオオオオオオオンッ!」」」
「ちぃっ、また来やがった! 強い上に、数が多過ぎだろ!」
「しかもめちゃくちゃトラップあるんだけど~っ! ルートもややこしいし!」
「……明らかにおかしいな。これで最下級のはずがない。中級ダンジョン並みの難易度だ。……おい、ミラーヌ。そのトラップに気を付けろ」
「っと!? 危なかったぁ~。シリウスくん、サンキュ~」
「つか、一年生だけでこんなダンジョンに潜ってんのかよ!? どう考えても一年じゃ無理な難易度だぞ!」
強化されたダンジョン『岩窟』に、新たな侵入者たちが大いに戸惑っている頃。
アリスとガイザーは、その最下層で死闘を繰り広げていた。
「くっ、どうやら無限にエルダーコボルトを呼び寄せてくるみたいねっ! これじゃあどれだけ倒しても無駄だわ! ボスを攻撃しないと!」
「けど、こいつらに邪魔されて、まともに攻撃なんてできないっす!」
幸いボスが呼ぶエルダーコボルトは、これまでの中ボスほどの耐久力はなく、比較的倒しやすかったが、それでも際限なく呼び続けられてはキリがない。
しかも一体でも減るとすぐに新たに現れるため、常に三体を従えているような状態なのだ。
「エルダーコボルトはあんたに任せるわ! 挑発して引きつけなさい! その間に何とか私がボスを討つわ!」
「挑発ったって、どうすりゃいいんすか!?」
ガイザーは狼狽えながらも、ふとある方法を思いつく。
その場でズボンを下げ、お尻を出した。
「ちょっ、何やってんのよ変態!?」
「他に思いつかなかったんすよ!」
アリスが思わず叫ぶ中、ガイザーは丸出しのお尻をコボルトたちに向けると、それをぺしぺしと叩いてみせた。
「そんなことで挑発されるわけ――」
「「「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」」」
「めっちゃされた!?」
何が彼らの逆鱗に触れたのか分からないが、ともかく怒りの咆哮を轟かせ、エルダーコボルトだけでなく、キングコボルトも含めて一斉にガイザーへと躍りかかってくる。
「ひいいいっ、無茶苦茶怒ってるっすぅぅぅっ!」
慌ててズボンを穿きなおすと、決死の覚悟でそれを迎え撃つガイザーだった。
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