第82話 明日また続きに挑戦だね
「まだクリアじゃないよ? だって今の、ただの中ボスだから。一応、まだ全行程のほんの五分の一くらいかな?」
「ちゅ、中ボス!?」
「じゅ、十分の一!?」
聞きたくなかった情報に、思わず裏返った声で叫ぶアリスとガイザー。
「うん、そうだよ。だから今日のところはここまで。明日また続きに挑戦だね」
「「……」」
どうやらまだこの過酷なダンジョン攻略は終わらないらしい。
二人は絶望的な顔で絶句するのだった。
それから何日もかけて、大幅に強化されたダンジョン『岩窟』に挑み続けたアリスとガイザーの二人。
ただひたすら魔法陣から出てくる魔物を倒すだけの訓練も、もちろん非常に過酷だったが、やることが絞られている分、まだマシだった。
こちらはどこから魔物が現れるか分からない上に、厄介なトラップまであって、常に色んなことに注意を払い続けなければならない。
しかも複雑な迷宮だ。
現在地が分からなくなったら、幾度も同じ場所を行ったり来たりしなければならない。
「ワオオオオンッ!?」
「はぁはぁ……こ、今度こそ、ボスを倒した……?」
「違うよ。今のも中ボスだよ」
「どんだけ中ボスがいるっすか!? しかもちょっとずつアップグレートされてってるっす!」
加えて、なかなかボスのところまで辿り着くことができない。
幸いすでに攻略した地点までショートカットすることができたものの、どこまで進んでも中ボスに次ぐ中ボスで、一向にダンジョンの終わりが見えなかった。
「これが本当に最下級ダンジョンだったの……?」
「……とてもそうは思えないっす」
こうした過酷なダンジョンで、彼らは来る日も来る日も戦い続けた。
そんな彼らの間には、いつしか友情が芽生え――
「ちょっと! 何でまたトラップ引っかかってんのよ!? 今の見ただけで分かるでしょうが! 馬鹿なの!?」
「自分だって、さっきトラップ発動させて、天井から魔物を降らせたじゃないっすか!」
「あ、あれは魔物の攻撃を避けた場所に、運悪くスイッチがあったからよ! あんたみたいにただ歩いてるだけで踏んだりしないわよ!」
「オレにばっかり前を歩かせておいて、よく言えるっすね! 自分も前を歩いてみたらどうっすかっ?」
「はあ? 後衛の私に前を歩かせるとか、意味分からないんだけど! 盾役のあんたが先頭を行くのは当然でしょうが!」
――ることはなかった。
むしろ幾度となく互いを罵り合い、険悪な雰囲気になってしまっている。
それでもついに、真のボスの部屋へと到達したのだった。
「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」
彼らを待ち構えていたのは、今まで倒してきた中ボスとは比較にもならない巨体と、凄まじい威圧感を放つコボルトである。
「こ、こいつは間違いなくボスでしょ!?」
「これでまた中ボスだったら心折れるっす!」
本来ならごく普通のエルダーコボルトが、このダンジョンのボスだった。
しかしエデルによって強化されたことで、キングコボルトへと変化。
それどころか、様々な特殊能力すらも身に着けていた。
「オオオオオオンッ!!」
「「く、口から雷撃っ!?」」
咆哮と共にその口から飛んできたのは、雷のブレスである。
だが通常のキングコボルトにこのような能力はない。
「ただのキングコボルトじゃないってことね……っ!」
「雷撃っていうのが厄介過ぎっす! 多分、まともに喰らったら麻痺状態にされるっすよ!」
言ってみれば、キングコボルトの変異種だ。
そしてさらに二人を絶望させたのは、中ボスのエルダーコボルトも行っていた配下の召喚である。
「「「ワオオオオオンッ!」」」
「「って、エルダーコボルト!?」」
加勢に現れたのは、なんと中ボスとして幾度となく彼らの前に立ちはだかったエルダーコボルトだった。
しかも三体である。
「も、もしかしてクリアさせる気ないんじゃないの!?」
「でも、やるしかないっす!」
何とか気力を奮い立たせ、最後の戦いに挑むアリスとガイザーだった。
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