第80話 これに魔力を注いでっと
ボス部屋の壁を破壊したその先。
別の小さな部屋にあったのは、淡い光を放ちながら宙に浮かぶ、直径五十センチほどの水晶のような物体だった。
「あった。ダンジョンコアだ」
あらゆるダンジョンに存在し、ダンジョンの心臓とも言えるダンジョンコア。
これを破壊すると、ダンジョンそのものが崩壊してしまうため、ダンジョンとしても簡単に発見できるような場所に置いておくはずもない。
それゆえダンジョンコアの存在自体、人間界ではほとんど知られていないのだが、エデルは魔界でじいちゃんに教わって、何度も見たことがあった。
「凄く小さいね。含有魔力も弱いし」
ダンジョンコアの大きさは、ダンジョンの難易度に比例すると言っても過言ではない。
魔界でエデルが見たことのあるダンジョンコアは、大きいものなら直径百メートルを超えており、凄まじい魔力を宿していた。
「まぁいいや。これに魔力を注いでっと」
その小さなダンジョンコアに、エデルは自身の魔力を分け与えていく。
そのまま魔力を注いでしまうと、波長の違いで拒絶反応が起こるので、波長を改変しながらの注入である。
すると小さかったダンジョンコアが、見る見るうちに巨大化していった。
「こんなもんかな? あとはコアに干渉して……」
さらに、ダンジョンコアに魔力を通じて強制命令を出し、ダンジョンの改変を促す。
こうすることで、ある程度、自分の意図通りのダンジョンにすることが可能なのだ。
もちろんこうしたやり方もすべて、魔界でじいちゃんに教わった。
魔界の場合、一部の強力な魔族の中に、こうやってダンジョンコアを育て、ダンジョン自体を高い防衛機能を誇る自らの住処にしていた者もいたほどである。
「魔物は数も質も増強して……構造はとにかく複雑にして……トラップは厄介なデバフ系を各所に設置して……そうだ、中ボスも配置しておきたいね。もちろんボスも強化して……」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
エデルがダンジョンに入って行って十分ほどが経った頃、奥から地鳴りのような音が響いてきた。
何の変哲もない岩穴にしか見えない入り口から、禍々しい気配が漂ってくる。
「な、なんか、凄まじい寒気がするっす……」
「同じくよ……」
ダンジョン前で待たされていたガイザーとアリスは、ぶるりと身体を震わせた。
やはり鬼スパルタ教官のエデルである。
この訓練にも相当な覚悟が必要なようだ。
やがて指定されていた十五分が経過した頃。
二人は互いに顔を見合わせて、
「い、行くしかないわよね?」
「そう、っすね……。さすがに、死にはしないっすよ……たぶん」
そうして恐る恐るダンジョンへと飛び込んだのだった。
ごつごつした岩壁の道を進むアリスとガイザー。
「本来ならコボルトしか出ないダンジョンだけど……」
「……きっとそうはいかないと思うっす」
恐らくコボルトなどとは比較にもならない、危険な魔物が次々と現れるに違いない。
そう確信する彼らは、周囲に警戒を払いながら、慎重に進んでいった。
そのとき前方に動く影を発見し、二人は素早く身構えた。
影もまた彼らの存在に気づいたようで、すぐにこちらへと近づいてくる。
一体どんな狂暴な魔物が襲いかかってくるのか。
極限まで集中しながら待ち構える彼らの前に姿を現したのは、
「ワオオオオンッ!」
二足歩行で進む犬頭の魔物だった。
「「コボルト!?」」
そろって思わず叫んでしまう。
予想を下回った相手に、つい拍子抜けしそうになった彼らだったが、しかしその魔物がさらに接近してくると、すぐにただのコボルトではないことに気が付いた。
「って、デカすぎない!?」
「このコボルト、ムキムキっす!」
普通のコボルトはせいぜい身長160センチほど。
だが目の前のコボルトは軽く180を超えている。
しかも筋肉が大きく膨れ上がり、毛並みの上からでもそれと分かるほど。
その体躯はもはやオーク、いや、ミノタウロスにも匹敵するかもしれない。
「やっぱり一筋縄にはいきそうにないわね!」
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