第58話 地面から出て来やがった
アリスの放った炎の大蛇が、ハイゼンへと襲いかかる。
ゴオオオオッ!!
「っ!?」
だが猛烈な炎の渦が、ハイゼンを呑み込むことはできなかった。
「ふん、幾ら威力があろうと、馬鹿正直に真っ直ぐ飛んでくるものを避けるなど造作もない」
素早い動きで炎を回避したハイゼンが、アリスへと躍りかかってくる。
「それならっ……これでどうよっ!」
「なにっ?」
アリスの身体からもう一体の炎蛇が出現し、ハイゼンの前に立ち塞がった。
それだけではない。
先ほどの一体がぐるりと身を転じ、再びハイゼンへと迫る。
「ちぃっ!」
二体の大蛇の攻撃を躱すハイゼン。
一方、アリスは額から大量の汗を流し、
「(やっぱりまだ同時に動かすのはキツイわ……っ!)」
油断するとすぐに彼女の制御を外れ、暴走しそうになる二体の蛇を必死に操っていた。
できる限り早く決着を付けたいアリスだったが、右へ左へと俊敏に移動し続けるハイゼンを、なかなか捉えることができない。
「くっ……だったら、奥の手よ……っ!?」
二体の大蛇がハイゼンの周囲を取り囲み、そのまま蜷局を巻き始める。
そうして逃げ道を塞ぐと、そこから巨大な一つの炎の竜巻と化した。
ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!
ハイゼンを呑み込んだまま、天高く上っていく炎の柱。
「や、やったか!?」
「すげぇっ! 教師に勝ちやがったぞ!?」
さすがにこれではハイゼンも一溜りもないだろうと、男子たちが歓声を上げる。
だが次の瞬間、彼らは思わず言葉を失った。
「この程度で私がやられるとでも?」
「「「っ!?」」」
声が聞こえてきたのは、炎の竜巻とは別の場所、しかも何もない空間からだった。
近くの木々の影が落ちるその地面から、ゆっくりとハイゼンの頭部が生えてくる。
「じ、地面から出て来やがった……っ!?」
「いや違う、恐らく影だ! 聞いたことがある! 影の中を移動する魔法があるって……」
どうやらハイゼンは、炎に呑まれる寸前に、自身の影へと避難していたらしい。
「そんなの、どうやって倒すんですか……っ!?」
コレットが真っ青な顔で叫ぶ。
「ふん、この私を倒すなど端から不可能に決まっている。だがまさか、この魔法を使う羽目になるとは思わなかった。さすがは英雄の孫といったところか」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「どうした? 随分と息が上がっているぞ。そろそろ限界か」
「……限界? まだまだいけるわよっ! なんたって、いつもはもっと厳しい特訓をしてるんだから……っ!」
反発するように気迫の声を上げるアリス。
決して勝算がないわけではない。
恐らく他のチームも森の中で襲撃を受けているのだろうが、アリスたちと同様、襲撃者たちを倒してここまで戻ってくるチームがまだ他にもいるはずだった。
「(特にあいつが襲撃者なんかに負けるなんて、絶対あり得ないし……っ!)」
せめてそれまで時間稼ぎができればと思いながら、再び攻撃しようとしたときだ。
突然、背後から凄まじい衝撃を受けて、アリスは吹き飛ばされてしまう。
「~~~~っ!?」
地面を転がりながら彼女が見たのは、高らかに嗤うディアナの姿だった。
「あはははははっ! まさか、後ろから攻撃されるとは思っていなかったみたいですわねぇっ!」
恐らく彼女が放った風魔法を、無防備な背中で浴びてしまったのだろう。
「くっ……あんたもっ……グルだったのね……っ!」
先ほどハイゼンが明かした陰謀。
それを踏まえれば、伝統的な貴族家の娘であるディアナもまた、計画に参加していてもおかしくないはずだった。
振り返ってみれば、襲撃者たちを倒した後、一度ベースキャンプに戻るべきだと主張したのも彼女だ。
チーム内にハイゼンの息がかかった貴族の生徒を配置しておいて、万一、襲撃者が全滅させられたときには、ここまで誘導してくるよう、あらかじめ打ち合わせていたのだろう。
「これでもう二度と、学校であなたの顔を見なくて済むと思ったら清々しますわ~~っ!」
「わ、私の方が……よっぽど、あんたの顔……見たくない、わ、よ………………」
ディアナの忌々しい笑い声が耳をつんざく中、アリスは意識を手放してしまった。
少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。





