第45話 部活荒らし
「いやいや、部長。さすがに冗談はやめてくださいよ。ほんとに心配したんですから。……え? 本当だって?」
「あー、部長、もしかして、催眠系のトラップにでもかかってたんじゃないですか?」
「きっとそうですね。早く学校に戻って、医務室で診てもらった方がいいですよ」
他の部員たちと逸れてからの出来事をセレナが説明したが、当然のようにまったく信じてもらえなかった。
「嘘じゃないっすよ! 兄貴マジで凄かったんすよ! ボスのミノタウロスの突進を受け止めて、しかも押し返してしまったっす!」
「ぶはははっ! そんな人間がいて堪るか!」
「おいおい、うちの盾役が何人でやつの突進を抑えると思ってるんだよ」
ガイザーが必死に主張しても、馬鹿にしたように笑われるだけだ。
「……予想してはいたが、仕方のない反応だろう。さすがに荒唐無稽すぎる。実際にこの目で見た私ですら、夢でも見ていたのかと思うくらいだ」
「そうですよねぇ……」
一方、セレナとリンは揃って納得を示している。
「まぁ、我々が見つけたルートが確認されれば、本当だったと証明されるだろう」
「うーん、もしかしたら同じ場所からは二度と入れないかもね」
「なに? そんなケースもあるのか……(なんにしても、この編入生の存在はそう遠くないうちに、学校中が知るところになるだろうがな)」
それから一行は学校へと戻ってきた。
本来なら一拍二日の探索の予定だったが、さすがに継続は難しいと判断され、中断しての帰還である。
「次はいつ探索するの?」
「も、もしかして入部する気か……?」
「いや、まだ考え中だけど、候補の一つかなって」
エデルの言葉に、セレナは苦笑気味に首を振った。
「……君はうちの部には入らない方がいい。正直言って、面倒を見切れないというか、レベルが違い過ぎて、君のためにもならないだろう」
「そう? 確かに一人で潜った方が早そうかなとは思ったけど」
「残念ながら、この部に君について行ける者なんて一人もいないさ」
そのやり取りを聞きながら、リンが力強く何度も頷いていた。
「そっちの君なら歓迎するが」
「兄貴が入らないなら、オレも入らないっすよ!」
忠誠心を示すように、お断りの意を伝えるガイザー。
そうしてダンジョン探索部を後にしたエデルは、また別の部活を探すことに。
探索が中断となったので、たっぷり時間がある。
「手当たり次第に行ってみようかな」
その後も二人は、色んな部活を見て回った。
野球部ではエースピッチャーの球を片手バットであっさりホームランにし。
陸上部では百メートル走で上級生たちをぶっちぎり。
水泳部では五十メートルを水上走りして部員たちの度肝を抜き。
フードファイター部ではニ十キロの料理を完食して巨漢部員たちに圧勝し。
美術部では魔界の光景を忠実に再現した写実絵を描いて、めちゃくちゃ恐怖され。
その結果、
「……ダメっすね、兄貴。また門前払いされてしまったっす」
「見学もできないの?」
「そうみたいっす。どうやら部活荒らしをしてる編入生の噂が広がってるようで……」
「部活荒らし?」
「完全に心を折られたっていう部員が何人もいて、どこもまともに部活ができなくなったみたいっす」
「へー、よく分からないけど、大変だね」
まったく心当たりがないというふうに首を傾げるエデル。
「いや、たぶん、兄貴のことっすよ」
「え、僕?」
「未経験の一年生に完膚なきまでに叩きのめされたら、当然といえば当然っすけど」
そのため多くの部活が、次は自分のところに現れるのではないかと、戦々恐々としているのだという。
「でも、中にはトリックを暴いてやる、と意気込んでる部活もあるみたいっすよ!」
「トリック?」
「噂を全部嘘だと思ってるみたいっす! どれも本当なのに!」
「……部活荒らしは間違いだけどね?」
「そういうところに行って、目の前で完膚なきまでに叩き潰してやるとか面白いっすね!」
「それ目的が変わってるよ」
部活選びはひとまず延期することにしたエデルだった。
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