第43話 五十連戦くらいしたことあるし
黒豹のボスを倒したエデルは、新たに出現した扉を開けて先の部屋へ。
「さあて、次はどんなボスかな?」
六体ものボスモンスターと連戦しているにもかかわらず、至って涼しい顔だ。
「ブモオオオオオオオッ!!」
例のごとく上から巨大な影が雄叫びと共に降ってきて、地面を激震させた。
「今度はミノタウロスだね」
現れたのは牛頭人身の魔物、ミノタウロスだ。
ただし並の個体とは比較にもならないほど巨大で、血のように真っ赤な毛並みをしている。
「っ、ブラッディミノタウロス……っ! こいつが私の知るこのダンジョンのボスモンスターだ……っ!」
セレナが叫んだ。
「あれ? ということは、もうこれが最後のボスなのかな? 思ったよりも早かったね」
「どこがだ!?」
「? 普通だったらもっと時間かかるでしょ?」
「た、確かに、通常のルートでは、最低でも一週間は必要だが……それでも、あんなボスと六連戦するより遥かにマシだ……っ!」
「六連戦くらい大したことないよ。僕は五十連戦くらいしたことあるし」
「ごじゅっ」
絶句するセレナを余所に、エデルはミノタウロスへと向かっていく。
「ふ、普段なら、部員総出の三十人以上で挑むボスですが……」
「……彼なら一人でも倒してしまうだろうな」
強化魔法を重ねがけされた屈強な盾役たちがスクラムを組み、ミノタウロスの突進をなんとか抑え込むのだ。
その上で一斉攻撃を見舞い、ダメージを与えていくのだが、その程度で倒せるほどボスモンスターは甘くない。
ブラッディミノタウロスが厄介なのは、相手を恐怖で硬直状態にさせる特殊な雄叫びだ。
相当な精神力がないと耐えられないこの雄叫びは、幸い距離があるほど影響が薄まる。
そのためあらかじめメンバーを後方に待機させておき、動けなくなった盾役や前衛とすぐさま入れ替えることで、どうにか対処するのだった。
「ブモオオオッ!」
前傾体勢になったボスモンスターは、近づいてくるエデル目がけて、猛スピードで突進していった。
まともに喰らえば、訓練された盾役ですら数十メートルは吹き飛ばされる強烈な突進だ。
にもかかわらず、エデルは逃げることも避けることもせずに、それどころか、
「よいしょっと」
角を捕まえ、正面から受け止めてしまった。
「「「ええええええええええええっ!?」」」
ズザザザザザ、と数メートルほど後退したものの、巨体の突進がそこで停止する。
「「「ボスの突進を、止めたあああああああっ!?」」」
両者の体格差は大人と子供どころではない。
なのにボスが後ろ脚に満身の力を込め、必死に押し勝とうとするも、まったくビクともしなかった。
「こんなもんかな?」
ズズズズズ……。
逆にエデルの方が、ブラッディミノタウロスの巨体を押し返し始めた。
「~~~~~~ッ!?」
焦燥を露わにするボスは、角を左右に振ってどうにかエデルの体勢を崩そうとしているが、まるで効果がない。
そこで起死回生の咆哮を轟かせた。
「ブモアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
相手の戦意を挫く特殊な強烈な雄叫びである。
「マズいっ! 至近距離であれを浴びせられては……っ!」
「い、一対一で動けなくされたら、相手の成すがままじゃないですか……っ!」
「うるさいなぁ」
「ブモッ?」
「「って、全然効いてない!?」」
エデルは平然としていた。
そして驚愕するボスモンスターの下顎めがけて足を振り上げ、強烈な蹴りを叩き込む。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」
顎を粉砕され、声にならない叫びをあげるミノタウロス。
衝撃で仰け反り、そのまま後頭部から地面に思い切り倒れ込んだ。
「トドメっと」
白目を剥いたブラッディミノタウロスの喉を踏みつけ、ぐしゃりと潰すエデル。
「わ、我々が、数十人がかりでも苦戦するブラッディミノタウロスが……こんなに簡単に倒されるとは……」
「これ、やっぱり現実じゃないかもですね……」
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