第34話 誰かいるっすか
「兄貴、どうだったっすか、格闘技部?」
「うーん、悪くはないけど、せめてもうちょっとまともに戦える人がいたらなぁ」
「残念っすけど、多分それは望めないと思うっすよ? 正直、兄貴は強すぎるっす。対人競技じゃ、どの部活に行ってもあんな感じだと思うっす」
「そうなの?」
格闘技部を後にしたエデルたちは、次に見学する部活を求めて構内を歩いていた。
だがガイザーが言う通り、幾ら五十近い部活がある英雄学校でも、エデルが満足できるようなところはそうそうないだろう。
「他にどこか行きたい部活はあるっすか?」
「そうだなぁ。さっき言ってたダンジョン探索部は面白そうかも」
「じゃあそこに行ってみるっす! 相手がダンジョンだったら、規格外の兄貴でも楽しめるかもっすね!」
そうして二人がやってきたのは、部室棟内にあるダンジョン探索部の部室だ。
部活の性質上、メインの活動は休日なので、授業のある日の放課後は、部室に集まって次のダンジョン探索のためのミーティングをしているのだという。
部室のドアを開けると、まさにそのミーティングの最中だった。
それほど広くない部屋で、二十人ほどの部員たちが真剣な顔で色んな意見を出し合っている。
「やはり今回はこちらのルートの方がいいのではないか?」
「この地点は見通しがあまりよくない。魔物の接近に気づくのが遅れやすく、休憩場所としては不適切だろう」
「物資の配分については事前に通知しておいた通りだ。まだ確保できていないものは出発までに用意する」
そんな中へ、ガイザーがまったく遠慮することなく入っていった。
「いきなり失礼するっす!」
「……うちの部の者ではなさそうだな? 何の用だ?」
「編入生の兄貴が、部活の見学をしたくて来たっす!」
「編入生? それは珍しいな。……ちょうど次の探索の会議をしていたところだ。よければ見学していくといい」
リーダー格らしき女子生徒に、会議に加わるよう促される。
思いのほか、すんなりと受け入れられ、二人は空いている席に腰を下ろした。
「私は部長のセレナだ」
「僕はエデル」
「オレはガイザーっす! 兄貴の付き添いっすけど、よろしくっす!」
「ガイザー?」
セレナが眉根を寄せる。
「どこかで聞いたことのある名前だな。一年の……そうだ、もしかして剣技部の?」
「そうっす! オレは剣技部に所属してるっす! よく知ってるっすね?」
「うむ。私は学内の優秀な生徒は、可能な限り把握するようにしているのでな。確か、剣技部の次期エースとして期待されているのだったか。しかし……なんというか、聞いていた性格と違うような……?」
「兄貴のお陰で心を改めたっすよ!」
「ふむ……詳しいことは分からないが、随分と謙虚になったようだな。良いことだ」
うんうん、と頷くセレナ。
「あれ?」
と、そこでエデルは気づく。
部屋の中に、見知った顔があったのだ。
ただし名前は知らない。
というのも、昨日、エデルの後を付けていた謎の女子生徒で、今まで話をしたことは一度もなかった。
「(ひぇっ……やっぱりあの化け物一年生です……っ! 慌てて隠密状態に入ったのに、あっさり気づかれましたああああああっ!)」
その女子生徒は思い切り頬を引き攣らせている。
「ほう? 今は抑えているとはいえ、リンの存在に気づくとはなかなかだな」
セレナが感心したように言った。
「え? どういうことっすか、兄貴? あそこに誰かいるっすか?」
「いるよ。見えないの?」
「うーん……確かに言われてみれば、何か人影があるような気がするようなしないような……」
必死に目を凝らすガイザーだったが、微かに存在を感じ取れる程度のようである。
「リンは隠密能力に長けていて、そこにいると分かっていても、なかなか見ることが難しい。彼女が本気を出せば、まず見つけることは不可能だ。無論この能力は、ダンジョン探索においても大いに役立っている。……もしかして、リンと知り合いなのか?」
「知り合いってわけじゃないかな。後を付けられてただけで」
「(やっぱりバレてましたああああああああああああっ!)」
少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。





