第124話 やっと発見
「はい、摘出完了」
セネーレ王子の腕に埋め込まれていた剣を、無理やり引き摺り出したエデル。
深いレベルでの融合はすでに解けていたため、セネーレ王子の命には別条がない。
もっとも、放っておくとすぐに出血多量で死んでしまうだろう。
「ひぎゃああああっ! あぎゃああああああっ!」
「うるさいなぁ、男ならこのくらいで泣き叫ぶんじゃないって、じいちゃんが言ってたよ」
凄まじい激痛に悶え苦しむセネーレ王子へ苦言を呈しつつも、エデルは治癒魔法を施した。
見る見るうちに傷が癒えていき、あっという間に元通りの腕に戻ってしまう。
「うっ……腕がっ……」
宮廷に所属する一流の治癒士たちですら、これほどの治癒魔法は扱えない。
まるで奇跡でも見ているかのような光景に、セネーレ王子は先ほどまでの激痛を忘れたように唖然としている。
「そ、そもそも魔導兵器といったん融合してしまったら、二度と外すことはできないはず……一体どうやって……」
寝ている間にエデルが剣を脅して融合を解除させたからなのだが、当然彼はそれを知らない。
もしあのまま融合状態が続いていたら、いずれは完全に意識を乗っ取られていただろう。
もちろん、融合が解けたといっても、今まで通り第三王子という地位を笠に、好き勝手に生きていけるというはずもなく。
「さて、剣も摘出して、腕も治して。この場所なら邪魔も入らないし……これで、たっぷり調教ができるね」
「ひいいいいいいいいいいっ!」
「兄貴、昨日は何してたっすか? 休日だったのに、いつもの訓練は珍しく自主練でしたし……」
翌日、ガイザーが不思議そうに聞いてきた。
エデルが彼らに課す厳しい訓練は、今まで一日たりとも休みが存在しなかった。
特に授業がない休日は、ひと際過酷なものばかりだったのである。
それが急に自主練になったのだから、疑問を抱くのも当然だろう。
「うん、ちょっと軽い用事があって」
「あんたの言う軽い用事は絶対軽くないでしょ……」
呆れた顔で言うのはアリスだ。
「しかも休日を丸々使うなんて……もしかしてどこかの難関ダンジョンでもソロ攻略してきたんじゃないでしょうね?」
「あはは、そんなことしてないよ」
アリスの指摘を一蹴するエデル。
そこでガイザーがふと思い出したように、
「そういえば、知ってるっすか? その昨日、イブライア伯爵家の屋敷で大きな爆発があって、屋敷が半壊したみたいっす」
「そうなんだ。イブライア家って、どこかで聞いたことあるような……?」
「イブライア伯爵家って言ったら、今の第二王妃を輩出した名家っすよ。近いうちに陞爵して、公爵家になるかもって言われてるほどっす。まぁ、あんまりいい噂は聞かないっすけど……もしかして敵対する勢力の攻撃かもしれないっすね」
「ふうん」
屋敷を破壊した張本人――正確にはセネーレ王子が自らやったのだが――とも言えるエデルだったが、自分とは関係ない話だと思っているようで、興味なさそうに頷いている。
そんなやり取りをしていると、彼らの元へ二人組が近づいてきた。
「ここにいらっしゃいましたか」
「やっと発見」
先日、ダンジョンで会った生徒会のセルティアとフィーリである。
「どうしたの?」
「シリウス、ミラーヌ、ネロ、ゲルゼスの計四名に、正式に処分が下りましたので、その報告をと思いまして」
彼らは四人そろって生徒会を除籍され、今年度いっぱいの停学処分となったそうだ。
それは実質的に留年も意味している。
「本来ならば退学処分に相当するような行為で、我々生徒会としてもそのように主張したのですが……一部の貴族家からの猛烈な反発もあり、残念ながらそこまでは厳しかったのです。申し訳ありません」
「そうなんだ」
頷きつつも、そもそも停学とか退学とか、エデルにはピンときていなかった。
それよりもしっかり調教を施してくれたのかが、彼の関心処である。
「本人たちも反省しているようですし、何よりあなたのことを随分と怖れている様子でして、恐らく二度とあのような真似はしないでしょう」
「また何かしてきたら、次こそぶち殺して、おけ」
「おけ、じゃありませんよ……」
眠い目で物騒なことを言うフィーリに、セルティアが呆れる。
「それと実は別件がありまして。生徒会の第一席が、ぜひあなたとお話ししたいとおっしゃっています。お手数ですが、生徒会室までご足労いただいても?」
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