第122話 大迷惑だね
「ちょっとビリッとしちゃった」
雷撃を躱したエデルだったが、その余波で身体が少し痺れてしまったようだ。
「くははははははははははっ! どうだ! 素晴らしい威力だろう! だが今のはまだまだほんの挨拶代わりだ! 今の私が本気を出せば、この地下研究所ごと吹き飛ばすことも容易い! 今は運良く躱したようだが、直撃すれば貴様の身体など消滅するに違いない!」
セネーレ王子は高らかに哄笑を響かせる。
一方、エデルは相変わらずそんな脅しなどどこ吹く風で、
「魔界にいたライトニングドラゴンだったら、都市ごと吹き飛ばせるけどね」
さすがのじいちゃんとエデルも、しっかりした耐雷装備を施していなければ、討伐できない強力な魔物である。
中でも何千年生きているとされるライトニングドラゴンの王は、上級魔族たちですら恐れ戦くような存在だった。
そんなエデルの経歴など知る由もなく、セネーレ王子は勝ち誇ったように叫びながら、追撃を放ってくる。
「くはははっ! 果たしていつまで躱し続けられるかなぁっ!?」
雷塊が次々と飛来し、エデルが避け続けると、実験室のあちこちに着弾して穴が開いていった。
「もっともっともっともっとだああああああああああっ! ひゃはははははははっ!」
己の力に酔いしれてしまったように絶叫するセネーレ王子。
ついには穴が空き過ぎて、重みに耐え切れなくなったのか、地下空間が崩落し始めてしまった。
大量の土砂が降り注ぎ、実験室が埋まっていく。
エデルは空いた穴の一つから地上へ。
突然、あちこちの地面が沈み始めたため、屋敷は大騒ぎになっていた。
建物が傾き、崩壊しそうになっている部分もある。
「あーあ、自分の家を自分で壊しちゃった。完全に力に呑まれちゃったみたいだね」
その屋敷の一部が爆発した。
地上から空へ、逆方向の雷が立ち昇ったかと思うと、そこから理性を失ったセネーレ王子が飛び出してきた。
「この私こそが新たな王だ! 愚民どもよ、私の前に平伏すがいい!」
そんな叫び声を響かせながら、己の力を誇示するかのように地上へ幾つもの雷を降らせている。
そこから次々と火の手が上がった。
「大迷惑だね」
やれやれと溜息を吐きながら、エデルは地面を蹴り、セネーレ王子に躍りかかった。
「頭が高いぞ、愚民めぇっ!」
すぐに接近に気づいて雷撃を放ってくる。
「あんまり手当たり次第に建物を壊さない方がいいと思うんだけど」
そう指摘しながら右手を前に突き出したエデルは、避けずに雷撃を片手で受け止めた。
バリバリバリバリバリバリッ!!
掌で爆音が轟くが、ぎゅっと強引に凝縮させて、そのまま握り潰してしまった。
「ふぅふぅ、さすがに熱いね」
真っ赤になった右手に、息を吹きかけて冷まそうとするエデル。
「………………は?」
これには興奮の絶頂にあったセネーレ王子も、思わずそんな声を出してしまう。
「い、今のをっ……消し潰しただとぉっ!? 馬鹿なっ!? そんなこと、できるはずがなぁぁぁぁぁいっ!」
己の目で見た光景ながら信じることができなかったのか、即座に再び雷撃を放つセネーレ王子。
「いや、何度やっても同じだよ」
だがそれもエデルは片手であっさりと握り消してしまった。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁぁぁぁぁっ!」
今度は連続で撃ってくる。
もちろんエデルは何度でも同じように処理できたが、あえてそんな芸当を見せる必要もない。
「少し痛いし。あと、ビリッとするの好きじゃないんだよね。……じいちゃんとの罰ゲームで、散々喰らった嫌な記憶が蘇ってきちゃうし」
赤くなった右手は、特に治癒魔法を使うこともなく元に戻っていたが、あまりやりたくはないようだ。
かといってエデルが避けると、また周囲の建物に被害が及びかねない。
「とっとと倒させてもらうよ」
直後、一瞬にして雷撃の嵐を搔い潜ったエデルは、セネーレ王子の無防備な懐へと飛び込んだ。
「なっ?」
「ほい」
ズゴンッ!
「~~~~っ!?」
そのまま彼の下顎へと、強烈な拳をお見舞いするのだった。
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