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第119話 ついにその覚悟ができましたか

「(ともかく、ここなら絶対に安全なはずだ)」


 安堵の息を吐き、少し冷静になったところで、不意にセネーレの心には別の感情が湧き出してきた。


「(……この私としたことが、なぜここまで奴を怖れている? 所詮は英雄学校の一年だ。そもそも私は英雄学校を優秀な成績で卒業し、王国軍ではすでに大佐の地位についている。そんな私が、なぜこんなところに隠れ込まなければならない?)」


 王子としての、そして、戦士、軍人としての矜持を思い出したのである。

 英雄学校時代、第一席にこそ届かなかった――王子であっても忖度しないという学校の方針のせいで、これは大いに彼のプライドを傷つけた――ものの、生徒会に所属し、剣や魔法の腕にも自信を持っていた。


「(私が本気になれば、ハイゼンやディルにも負けない。仮に奴らが返り討ちに遭ったのだとしても、この私なら――)」


 ドオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 凄まじい轟音と共に、実験室の扉が弾け飛んだ。

 慌てて視線を向けると、そこに立っていたのは一人の少年である。


「こんなところに隠れてたんだ。逃げても無駄だって言ったでしょ?」


 セネーレは思わずよろめきながら、絶叫した。


「本当に来たああああああああああああああああああああっ!?」


 もちろん現れたのはエデルである。

 実物と初めて会ったセネーレだが、本当に十二歳かそこらの子供にしか見えない。


 しかし先ほどまでの感情は一瞬で消し飛び、震える声で問い詰めた。


「い、一体どうやってここまで入ってきた!? 地下への入り口はそう簡単には見つけられないはず……っ! いや、そもそも屋敷は厳重に警備させていたっ! 屋敷内に侵入することすら容易ではなかったはずだっ!」

「厳重? 全然そんなことなかったけど。地下の入り口もすぐに見つかったよ」


 何でもなさそうに少年は言う。


「と、トラップはどうしたんだっ!? ここに来るまでに、部外者を排除するトラップが幾つもあったはずだろう!?」

「トラップ? あはは、あんな子供騙しみたいなトラップ、引っかかる大人はいないよ」


 一笑する少年に、セネーレは「もしかしてこちらが間違っているのか?」とすら思ってしまったが、


「子供騙しじゃと!? そんなはずはない! どれもこれも、この儂が仕掛けた極悪なトラップじゃ!」


 やはりこの少年がおかしいらしい。


「おじいちゃん誰?」

「儂はこの研究所の所長のオーエンじゃ! 貴様のようなガキの立ち入りを許した覚えはないぞ!」


 勝手にここまで部外者に入って来られたことが、そのプライドを傷つけたのか、オーエンが激昂して怒鳴りつける。


「オーエン! 奴はただの子供じゃない! ハイゼンが失敗に終わったのも、恐らくこいつのせいだ! 下手をすれば、あの機竜も自壊ではなく、こいつにやられた可能性がある!」

「なんじゃと!? 機竜を生身の人間に、倒せるはずが……」

「いずれにしても生半可な戦力では敵わない! すぐにこいつらを起こして奴にぶつけるんだ!」

「しょ、承知でございますぞっ!」


 セネーレの命令に応じて、オーエンが慌てて魔導兵器と融合した人間たちを起こしていく。


「もしかして武器が身体と融合してる? へえ、そういうの()()()()()()()()()()


 その様子を見て、少年が何やらおかしなことを呟いていたが、それを掻き消すような声でオーエンが叫んだ。


「お前たち! あのガキを排除するのじゃ!」

「「「了解」」」


 目覚めた男たちが、各々の魔導兵器を起動させていった。

 実験室内に次々と魔力の嵐が吹き荒れる。


 そんな中、セネーレは苦虫を噛み潰したような顔で老人研究者に呟く。


「……オーエン、念のため、先ほど言った兵器を準備しておくんだ」

「おおっ、ついにその覚悟ができましたか!」

「あくまで念のためだ。こいつらだけで、無事にあの子供を排除できれば……」


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