第109話 見つけた
最終種目、C組の優勝がかかったこの大事な競技で、六人のプレイヤーたちのリーダーを任された少年は、名をノルエといった。
「てか、もう優勝は余裕だろ、余裕」
気楽な調子で彼は呟く。
「五ポイント差のF組はこの競技、一人しか出場しないんだろ? 他の組はどんなに頑張っても俺たちに追いつけないし、このままC組の逃げ切り優勝。間違いないって」
場合によっては非常にプレッシャーのかかる役割だったのだが、もはや緊張感など皆無である。
他の生徒たちもそれに同調した。
「まぁ完全な消化試合だよな」
「無理に頑張る必要もないだろ。どのみちトロルなんて、一年生じゃあ一体倒せるだけでも大健闘って相手だからな」
トロルは強敵で、彼ら一年生の実力では、全員でかかってどうにか一体を撃破するのがやっとだ。
そのため上級生と違って、例年この一年生の対抗戦の最終競技は、最後にもかかわらず、あまり盛り上がらずに終わるのが常らしかった。
「トロルを狙うより、F組の一人を確実に倒す方がいいんじゃないか?」
「俺もそう思うんだが、ラーナ先生がそれを避けて、トロルを倒していけって言ってんだ」
「さっきの競技で、赤い髪のやつにA組とB組が全滅させられたせいかな?」
「確かに、あの女みたいな強さだったら厄介だが……」
急に不安そうな顔になった味方に、ノルエは首を振った。
そしてドヤ顔でとっておきの情報を提供する。
「いや、それはあり得ないぞ。なにせあの女、どうやら校長先生の孫らしいからな」
「マジか? 英雄マリベルの孫娘が同学年にいるって噂は聞いてたが……道理で」
「つまり、あのレベルが何人もいるわけがないってことだ」
そうこうしているうちに、競技開始のブザーが鳴り響いた。
とほぼ同時に、建造物の向こうから巨大な影が姿を現す。
「早速、現れやがったか」
「フィールド内に何体も放たれてるんだ、さすがにのんびりしてても遭遇しちまうだろ」
「幸い一体だけのようだぞ。二体同時に相手取るのは厄介だし、とっととこいつをやっつけちまおうぜ!」
トロルの方もまた、彼らの存在に気付いたようだ。
「オオオオッ!!」
耳をつんざく凄まじい咆哮、そして地響きを上げながら迫ってくる。
「足を狙え!」
「ライトニングっ!」
ノエルが指示を出すと、魔法使いの少年が雷撃を放つ。
それがトロルの右足に直撃した。
「よし、やった!」
「いや、まだだ! 大して効いていない! 避けるぞ!」
並みの人間であれば、感電してしばらく動けなくなるような一撃だったが、太い右足がわずかに焼け焦げただけで、トロルはそのまま突っ込んできた。
慌てて左右に逃げていった直後に、岩のような拳が豪快に地面へと叩きつけられる。
「っ、なんて威力だよ!?」
「あんなの当たったら、下手すりゃ即死だぞ!」
「だがちゃんと距離を取っていたら、十分回避できる!」
凄まじい耐久力と怪力を有するトロルだが、幸いその動きはあまり素早くない。
一年生といえども、攻撃を躱すのはそう難しくなかった。
「接近戦組は背後へ回れ! 他は新手に注意しつつ、できる限り遠距離から攻撃だ! 狙いは変わらず右足! どんなに耐久力があろうと、同じ場所に何度もダメージを受け続ければさすがに壊せる!」
六人のうち、接近しながら戦うのは二人だけ。
あとの四人は遠距離からの攻撃が可能なメンバーをそろえていて、この競技の特性を考慮したうえでの構成だった。
ノルエも弓を得意としていて、指示を出しつつ、トロルの右足をピンポイントで狙っていく。
すでに矢が何本か、その膝に突き刺さっている。
「アアアアアッ!?」
そしてついにトロルが膝を地面についた。
右足を破壊されて、立つことができなくなったのである。
こうなれば後は簡単だ。
動けないトロルを蹂躙し、ついに絶命させてしまう。
「よし、やっと一体目。やっぱなかなか大変だな……。だが、今の討伐速度を考えたら、恐らく他のクラスをリードしたはずだ」
そう一息ついたときだった。
「オアアアアアアアアアアアッ!!」
建造物を粉砕しながら、凄まじい勢いで別のトロルが飛び込んできた。
「もう新手!?」
「くそっ、今、倒したばっかだってのに……っ!」
「しかもこのトロル、めちゃくちゃ興奮しているぞ!?」
唾液と瓦礫を周囲に散らし、まっすぐ彼らのもとへと突っ込んでくるトロル。
だが次の瞬間、その頭部がぽんと宙を舞った。
「「「え?」」」
唖然とするノルエたちの前で、頭を失ったトロルが盛大に地面に倒れ込む。
土の上を少し滑ってから、完全に動かなくなってしまった。
「し、死んでる……?」
「何が……」
理解不能な現象に戸惑う彼らのもとへ。
「あ、見つけた。君たちがC組だよね?」
F組唯一のプレイヤーである少年が現れたのだった。
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