第107話 勝負ありだけどね
アリスが放った炎は、氷塊をあっさりと蒸発させると、さらにほとんど威力を落とすことなく女子生徒に迫った。
「そ、そんなっ……」
愕然とする彼女の氷の盾に炎が直撃。
「~~~~っ!? た、盾がっ!?」
アリスの炎はその盾すらあっという間に溶かしてしまうと、かなりその勢力を弱めたものの、そのまま女子生徒の身体に到達した。
「ああああああああっ!?」
絶叫しながら地面をのた打ち回り、どうにか身体に移った炎を消そうとする。
「はぁ、はぁ、はぁ……き、消えましたの?」
何とか消火に成功し、安堵の息を吐く。
幸いそれほどのダメージではなかったようで、強制退場の通知音は鳴っていない。
「勝負ありだけどね」
「ひっ!?」
背後から聞こえた声と、首に添えられた刀身の冷たい感触に、思わず悲鳴を上げる女子生徒。
「こ、降参、ですの……」
両手を上げ、彼女は敗北を宣言した。
その女子生徒が教員に回収されていくのを見送って、一人になったアリスは現在の状況を確認する。
「最初の混戦のせいでちょっと曖昧だけど、あたしたちのクラスは今、五人を倒したことになっているはず。C組は十六人だから、これを抜くためにはあと十二人を倒さないと……」
残っているのはA組とB組だけだ。
最大で十二人なので、二人以上すでに倒されているプレイヤーがいたら、もはやC組に追いつくことすらできない。
「すぐに捜さないと……っ!」
慌てて走り出すアリス。
だがそのとき、彼女たちF組にとって非常に幸運なことが起こった。
「っ! 誰かいるぞ!」
「一人だけか?」
「さっき悲鳴が聞こえたし、戦った形跡もある。恐らくやり合って、一人だけになったんだろう」
先ほどの女子生徒の声を聞きつけたのか、向こうから近づいてきてくれたのだ。
見たところ、A組のようである。
しかも六人全員そろっていた。
まだ一度も交戦していないのかもしれない。
「となると、B組もまだ全員残ってる可能性があるってことね。こっちに向かってきてる可能性もあるし、まずはこの六人をとっとと片づけてやりましょ」
一人だけだと思って、無造作に近づいてくる。
隙だらけの一団に向かって、アリスは炎の矢を次々と作り出すと、高速で連射した。
「なっ!? よ、避けろぉぉぉっ!」
「くっ、油断するな! こいつ、かなりの使い手だぞ……っ!」
「距離を詰めろ! 所詮は魔法使い一人だ!」
炎の矢を浴びせられて慌てた彼らは、盾役を先頭に置いて矢の雨を凌ぎつつ、一気に距離を詰めてきた。
「これならどうかしら」
アリスは複数の矢を融合させると、一本の巨大な槍を作り上げ、それを打ち出す。
ゴオオオオオオオオッ!!
「がああああああああああっ!?」
炎の槍が盾役もろとも敵プレイヤーたちを吹き飛ばした。
これで六人中四人が戦闘不能で退場。
前衛が全滅となり、そこから残る後衛二人を片づけることなど、今のアリスには容易だった。
「ありあり、強い」
「あれで一年生ですか……。さすがはあなたの従妹、いえ、英雄マリベルの孫ですね」
アリスの戦いぶりを見学していた生徒会のメンバーたちは、その実力に感心していた。
「今まで噂を聞かなかったのが不思議なくらいです」
「不思議じゃない件」
「? どういうことですか。フィーリ?」
「ありあり、ロクに魔法が使えない子だった」
「冗談、ですよね? 先ほどの炎の矢の連射も、それを束ねて巨大な一本にしてしまうのも、簡単にできる技術ではありませんよ?」
「マジ案件。ありあり、魔力だけは昔からうちのおばば並み。でも制御が壊滅マン。それが急に改善して、びっくら」
「……なんか、先ほど似たような話がありましたね。まさかそれも、あのエデル少年の……」
とそこで、もう一人のメンバーが嬉しそうに言う。
「そのエデルとかいう一年生、次の競技には出てくるんだろ? めちゃくちゃ楽しみだな! あのシリウスを倒したって実力が本物か、ぜひ見せてもらおうぜ!」
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