第106話 俺たちは嵌められたのか
「っ!? この魔力はっ……」
必死に猛攻を凌いでいたアリスは、強力な魔力を感じ取って、横目でその出所を探った。
すると先ほどのC組の女子生徒が、この乱戦から少し離れた場所で、詠唱をしているのが見えた。
「(明らかに普通の威力の魔法じゃないっ! あたしたちF組だけを狙って撃つなんて不可能なはずっ! だとしたら……まさかっ!?)」
最悪の想像に思い至った、次の瞬間である。
「まとめて喰らいなさいまし! フリージングっ!」
直後、巨大な冷気の幕がこの一帯を覆いつくした。
生徒たちの身体が徐々に凍り付いていく。
「どういうことだ!? お、俺たちまで!?」
それはF組のプレイヤーだけでなく、共闘しているはずのD組とE組、さらにはC組の仲間すらも巻き込んでいた。
「おほほほっ! 共闘なんて嘘ですわ! 最初からあなた方を一か所に集めて、殲滅するのが目的でしたの!」
女子生徒が高らかに嗤う。
「何だと!? くそっ、俺たちは嵌められたのかっ!?」
「ふざけるんじゃねぇぞ!」
我先にと逃げようとするも、その前に身体が硬直して動かなくなり、氷像と化していく。
完全な不意打ちによって、D組、E組、そしてF組のプレイヤーたちは全滅。
「まったく、仲間まで巻き込むなんて……」
「だって、その方が確実ですもの。それにここで味方を減らしておけば、敵クラスに撃破数を稼がれずに済みますわ。同士討ちはカウントされないですもの。実際、これでC組の撃破数は十七人。残ったA組とB組が、これを超える可能性はゼロですの」
なんとか逃れ切ったのは、その女子生徒を除けば、事前に作戦を聞いていたC組の二人だけ――
「ファイアボール」
ゴウッ、と勢いよく飛来した炎の塊が、生き残ったC組の一人に直撃した。
「がああああああっ!?」
「っ!? な、何がっ!?」
慌てて視線を転じた女子生徒が見たのは、幾つもの氷像が乱立する中、一人だけ無傷で立つ赤い髪の少女だった。
「まったく、とんでもない手を使ってきたわね。うちのクラス、あたし以外、全滅されられたじゃないの」
賞賛と呆れの混じった声で呟くその少女はもちろん、アリスである。
あの瞬間、咄嗟に身体の周囲に炎の膜を作り出し、冷気を防いだのだ。
氷像ごと生徒たちが回収されていく中、アリスは獰猛に笑う。
「だけど……お陰で全力でやれるようになったわ。味方を巻き込まなくて済むもの」
その規格外の魔力を感じ取ったのか、女子生徒が思わず後退った。
「な、なんて魔力ですのっ!? あなた、剣士ではありませんでしたのっ!?」
先ほどの立ち回りからどうやら勘違いしているらしい彼女に、アリスは言う。
「あたしの得意分野は、あくまで魔法よ?」
同時に炎の塊を放つと、それがC組のもう一人の生き残りに着弾する。
「ぎゃあああああっ!?」
「くっ……あたくしもっ、魔法では負けていませんわっ!」
味方が全員やられて頬を引きつらせながらも、女子生徒は対抗して魔法を発動。
彼女の目の前に氷の盾が出現した。
それでアリスの炎を防ごうというのだろう。
身を護る盾を作り出したことで、少し落ち着いたのか、女子生徒は不敵に笑う。
「そもそも氷と炎、相性で言えばどちらが優勢か、火を見るより明らかではなくて? この氷の盾があれば、あなたの炎は簡単に凌げますわ。でも、あたくしの氷、あなたの炎で防ぐことは難しいと思いますの」
確かに彼女が言う通り、一般的に炎が氷を溶かすには時間がかかってしまうため、相性的にはアリスの方が不利である。
「試してみる?」
「望むところですわ!」
女子生徒の頭上に、小さな氷が発生する。
それが徐々に大きくなっていき、やがて先端が尖った人間大の氷塊と化した。
対するアリスは、先ほどと同様、炎の塊を出現させる。
しかし女子生徒の氷塊と比べれば、三分の一にも満たない大きさだ。
「行くわよ」
「そんなものであたくしに勝てると思っているなんて、舐められたものですわね!」
両者同時に魔法を放った。
そしてちょうど二人の中間地点で、炎と氷が激突する。
「避ける準備をしておいた方がいいですわよっ!」
自分の放った氷塊が、相手の炎を貫くに違いないと確信しているのか、女子生徒が勝ち誇るように叫ぶ。
だが現実は彼女の予想通りにはならなかった。
じゅうううううっ、という音と共に氷塊が一瞬で溶解して水蒸気と化したのだ。
「……はい?」
思わず間の抜けた声を出してしまった女子生徒へ、アリスの炎が迫った。
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