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異世界での初盗撮

 それからはひたすらストーキングの毎日だ。

 盗撮のため、ヴェルミの本当の姿を視るためには名前住所、職場に帰宅経路、日々のルーチンワークを調べる必要がある。この辺は探偵の浮気調査と変わらないだろう、人間決まった行動をとるものでラブホなんかは同じ場所を利用する。その習慣の中の秘密、習慣から外れた行動にシャッターチャンスというものは潜んでいるのだ。

 赤髪の女傭兵の日々の暮らしは非常にシンプルで、その点は楽だった。

 朝は夜明けとともに起きて町の外で斧を振る肉体訓練、朝にはギルドに顔を出してから街を回り、昼食後に鍛錬、夕暮れには要塞都市の周辺に件の魔獣が湧いてくるようで門の付近に急行して始末、夜まではギルド兼酒場で飲んでから割と早く帰宅して就寝、昼に魔物が出る日もあったが基本はこの繰り返しだ。

 う~んストイック。スポーツマン(今こういう表現はジェンダー的に問題か? まぁくそ中世だからいいか)タイプの生活サイクルと言える。

 こうなると撮影場所は絞られる、自宅、鍛錬場所、ギルド、この三つだ。


(魔法の隠れ家なんかあったらお手上げだったからな、これは助かる)


 それから聞き込み調査でプロフィールもまとめる。

 本名ヴェルミ・P・エンドアックス。19歳。恋人なし。性体験は不明。

 このPというセカンドネームはこの要塞都市パリエス出身の貴族階級の人間につけられる文字らしく、14、5歳の時に家を出てギルドに登録してから傭兵として暮らしているそうだ。お嬢様なのは意外だ。

 盗撮にとって大切なのはどこに暮らしているかで、屋敷の場合は侵入など大変だったろうが俺と同じレベルの安宿をねぐらにしているようでこれも幸運なことだ。

 ギルドも全国にある支部のひとつということで、酒場を兼ねていることもあり規模が大きくなく出入りはザルだ。なんでもA級のランクを持つ傭兵は希少とかで、この辺境の支部ではただ一人のA級傭兵が彼女だとか。そういった酒場に出入りして聞き耳を立てたりして得た情報で異世界の輪郭も見えてくる。

 まぁ盗撮に役立たない情報は一旦置いておく。どうせS級とかもいるんだろうが女じゃないなら興味ないし。


「さて、始めるか」


 せっかく傭兵を盗撮するんだ、安宿ではなくギルドで撮るべきだろう。

 そう決めてからは、日を置いて壁の修繕などの労働に従事し金を貯めて、夜は酒場に足しげく通うようにした。日本人の俺の顔やカメラマンジャケットなどの服は目立つみたいだが、撮影機材を持ち運ぶ関係で服装はなるべく変えたくないので常連になっておく必要があったからだ。

 黒ビールみたいな苦い安酒と塩を振っただけの雑な肉料理(これ魔獣の肉じゃねぇだろうな)なんてあまり美味くもないが我慢して流し込んで咀嚼する。俺自身のルーチンワークとして見せつけておかなければならない。

 ちなみに傭兵ギルドに俺が登録する方法も考えたが体力テストであっさり落とされた。くそが。


「がはははははは、姐御ももっと飲めよ!」

「うるせぇな、アタシのぺーすってもんがあんだよ」

「たまにはもっといいもんくいてぇなぁ」


 ぎゃーぎゃー騒ぐ下品で屈強な男どもも俺を風景として認識しているそんな日、今日こそが盗撮にはふさわしいと判断した。

 ちなみにアナトミアに盗撮する旨を告げたら、少しひきつった感じの声で「がんばってくださいね」と朝に言ったきり今日は話しかけてこない。なにをドン引きしてんだ、お前が連れてきたんだろうが。まぁ耳元でささやかれても集中できないのでこれも助かったということで。


「はーあっ、ったく、バカどもが……」


 俺は横目でヴェルミが席を立つのを確認した。さほど酔っていないのか足取りはしっかりしている。

 赤髪女がトイレに立つ回数は平均で2回、その最初のタイミングが来たというわけだ。

 すべてが計画通りに進行している喜悦に、俺は笑みがこぼれるのを止められなかった。


「ふぅー」


 ヴェルミがトイレの扉を開けて中に入るのを()()()()()()見ていた。

 壁の前面に仕掛けた設置式の小型盗撮カメラは問題なく映像を送ってくれていた。雑な木の板で組まれたトイレの壁内に仕掛けるのは俺にとって造作もない作業だ。むしろ今、店のやつらに気がつかれないようにノートパソコンで映像の確認をする方が大変だ。

 あとで見たほうが安全なのだろうが、構図を確かめずにはいられない。

 このためにテーブル席の隣の椅子にPCを置いているのだ。荷物を入れていた袋でうまく現代の技術の粋を集めた科学製品は見えないように隠れている。設置カメラもそうだが、人間の死角は十分に研究してきた。


「ん……しょっ」

「ぐひひっ」


 ヴェルミが例のビキニアーマーの黒いパンツを伸ばして、太い腿の筋肉を経由して膝まで下ろす。衣擦れの音まで収録されていることに、久しぶりの盗撮の快感に俺は喜色わるい声を漏らしてしまう。いかんいかん。録画してある映像とはいえ人前だから静かに鑑賞しないと。

 割れた腹筋、なだらかな腹斜筋、その下の股間があらわになる。

 下も赤毛なためか、日焼けしていない肌がよく見えた。


「ふんっ」

じょぼぼぼぼぼぼ……!


 見られていると知らないのだが当然だが、なんの恥じらいもなく勢いよく放尿するヴェルミ。

 下腹の筋肉や、内股に力を込めてさっさと排尿を終わらせようとしている赤裸々な姿が、高画質で鮮明に保存されていく。アルコールを摂取したためか、おしっこの音は長く続き木の板をびたびた叩いて個室内に響き渡る。

 こんなに全力で出していたら扉の外まで聞こえそうなものだが、実際には酒場内の喧騒で掻き消えている。俺だけがこの恥知らずなソロコンサートを楽しんでいるのだ。


(ぶははっ、は、腹の淫紋が発光してる……w)


 よく見れば例の周囲の魔を吸収するとかいう紋章、下腹に刻まれたかっこいいタトゥーがトイレ内のマナを吸収して尿道括約筋を強化でもしているのかぼんやりと淡い光を放っていた。

 静かにすると決めた手前、俺は笑い声を懸命にこらえるが面白すぎる光景だ。

 そ、その紋章、トイレのたびに光ってるんすか?(笑)

 俺はファンタジーならではの盗撮に涙が出るほどウケていた。思えば異世界に来て心の底から笑ったのはこれが初めてかもしれない。声を出せないのがもどかしい。


「はあ~」


 わりと我慢をしていたのだろうか、A級傭兵の小便はまだ終わらない。

 眼を閉じて、開放感に体を震わせる様子は普段隠れてみていた鍛錬する真面目な姿とのギャップでより煽情的に見える。これもストーキングと盗撮の醍醐味ですねぇ。

 顔を覗くやや下からのアングルに仕掛けていたので、顔もよく見えるし尻穴も少しだけ見えた。小水を断続的に出すたびにケツの穴もひくひくしている。

 け、ケツの穴の筋肉も淫紋の力で強化してるんすか?w ウケるw


「んっ、んっ」

(も、もうやめてくれw 腹筋がwww 笑い死ぬwww)


 じょぼじょぼ、と勢いが弱まった噴水が、尻の方に垂れていく。

 そのため美女傭兵は腰を前後に振って、つきまとう雫を振り落とそうとする。

 腰を前後にゆする動作は半裸の長身女がやっているさまはあまりに滑稽で、そのたびにまた腹の紋様が朱色に輝くのも無様だった。

 俺を笑い殺そうとしているのならあまりに効果的な攻撃だった。


「ん、っと……」


 ごしごし、と傍らの葉っぱを手に取ってヴェルミが股間を拭いていく。

 このクソ中世にはトイレットペーパーなどという高尚なものは存在せず、なにか植物の葉を置いておきそれで尻を拭くらしい。蛮人どもめ。俺も使っているが痔にならないか心配だ。

 でも立ち上がって股間を葉っぱで清拭する赤髪女の姿が面白いからオッケーです。

 最後に葉を便槽の底に落として、ビキニパンツを引き上げて立ち上がる。その際にぱぁん! とパンツが尻肉を盛大に叩く音が響いた。だから笑わせるのやめろw


「ふぅー、おい、酒がたりねぇぞおまえら!」

「お、どこ行ってたんすか姐御!」


 小便中は気持ちよさそうに開放感でよがっていたくせに、トイレから出たとたん、豪放磊落な頼れる姐御キャラに戻っていった。

 ああいう普段とのギャップが盗撮の真骨頂ですねぇ。

 さて、事前のストーキング調査通りなら、彼女の一晩でのギルド酒場でのトイレ回数は二回。

 まだあと一回はあの醜態を楽しめる計算だ。


(まだまだ夜はこれからだな……)


 おれは虚空に向かってビールの入った木のコップを掲げ、乾杯をした。

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