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白魔導士VS盗撮魔

 考えろ考えろ考えろ。

 撮影技術と直観像記憶、そして盗撮のために考える思考力だけが俺の武器だ。この三つを使って天才白魔導士の隙をつく。そのための手段を考えろ。


 まず相手の武器はひとつ。ノゲーラが言っていた、魔獣を倒したのが≪灼光≫の連発だという話。事実ならそれ以上の攻撃はないということだ。燃費が良くて、貫通力のある最大火力以外の手段は無駄だし、あるなら既に逃げ回っている今使っているはず。仮にも天才だとか煽てられているのだから、無駄なことはしない。あれでヴェルミごと俺たち二人を仕留めるのが最短手順なのだ。

 であれば、あのレーザー兵器さえ攻略してしまえばいい。方針は決まった。


「ヴェルミ、俺を掲示板の方に投げろ」


 ぼそっ、俺を抱えて走り回っている赤髪の長身女にだけ聞こえる小声で指示を出す。

 息が上がりはじめていた彼女は、少し逡巡していたようだがしばらく疾駆したあとに、命令通り俺の体をおねしょ写真の貼られた木の板の方に投げ出した。あいつからすれば、俺の身の安全なんかどうでもよかろうし、むしろ死んでくれたら奴隷から解放されるんだから放り出さない理由がない。

 今までは置いて逃げたら後で俺にどんなお漏らしプレイをさせられるか分かったものじゃないから助けていたにすぎない。奴隷が俺を心から心配してると思うほど頭貴族じゃないんで。


 で、それはいいとしてあいつ、割と力いっぱい投げやがったな。俺は高校の柔道の授業の受け身を思い出す。中空で天を仰ぐように半回転し、背中を丸めて衝撃を受け流す。同時に衝撃。いったい。

 だが幸い動けないほどの痛みではなかった。体育の先生、あんたは糞だったが今だけは感謝してやる。

 レーザーがこないと分かってはいたがすぐに動いて、()()()()()()()()()()()()生徒たちに紛れる。


「……ちっ、黒くてゴキブリみたいなやつです」


 ニコの言葉通り、俺はあの夜の屋根裏のように四つん這いになって必死にシスターの股の間を逃げ回る。オッケー、想像通り≪灼光≫の追撃はない。それこそ害虫のような動きで逃げ回りながら観察する。お、スカートの中が見えたパシャリ。たとえ火の中水の中スカートの中って歌があったなあ。

 あの金髪魔導士は生徒たちには危害を加えられないのだ。

 犯人が学外の俺たちであると分かった以上、いくら嘲笑されていようと自分のこれからを考えたらそうそう魔術で同級生の殺人などできまい。就職の決まった大学四年生が内定取り消しにならないよう悪いことができなくなる、みたいなものだ。あれで卒業間近の最上級生だからなチビが。

 ……まぁ、それでもあのガキの頭がマジでイカれてて、事故だと主張して生徒たちごと俺を撃ち殺すことも考えられたが。あとうまく隙間を狙われたりな。だから必死で這いまわっているわけだ。


「はあ、はあ、くくく、四つん這いで隠れるのは得意なんだよ」


 それこそあの屋根裏での盗撮で這っている前から、潜入で身を低くするなどいつもの日常だ。さすがに野外だと肘がすりむけて痛いが。消毒薬を後でパクってこないとな。うーんかっこわるい。


「……まずは、傭兵の方からです」

「ひいいっ!?」


 ヴェルミの悲鳴と失禁音。うまく俺から標的がそれたようだ。あといつまで漏らしてんだあいつ。

 少し速度をゆるめて、次の手を考える。

 俺を抱えて多少身軽になったとはいえ、ヴェルミだけ狙われてはジリ貧なのは変わらない。だが、もちろん俺に直接的な戦闘能力はない。最後はあの傭兵の斧をニコのやつに届かせなければ。


「おい、傍観者気取りで見ているだけの役立たずビビり女神」

『……なんですか。ヴェルミさんよりはビビってませんよ』

「よしよしいたな。役立たず呼ばわりされたくなければ、俺の指示をヴェルミに届けろ」


 優位な点として、アナトミアという透明な存在が俺たちの仲間にいる、ということがあのロリに知られていないという点があった。ノックをしてビビらせて漏らさせた時のように、うまく遠くからヴェルミと連携するためにはこの透明女神が役に立つ。今はレシーバー外してるからな、あれば女神もいらなかったが通信兵として役になってもらおう。

 通信技術による情報戦は戦争の革命だからな。うーん、なろうアニメっぽくなってきた。


『はいはい、わかりました……合図は?』

「俺のカメラのシャッターだ、いいな」


 打ち合わせを終えて、俺は見えないがアナトミアが離れただろうと再び匍匐前進を開始。

 キャーキャー言ってる生徒たちがうまく俺の身動きを隠してくれる、しかし白いパンツばっかりだな神学校だけあってパシャリ。と無駄にパンチラ盗撮してる場合じゃない、ニコに近づかなくては。


「こ、この、この、このぉ!」

「……ふん、これだから頭の悪い傭兵は嫌いなんです。無駄に振り回してどうするつもり……」


 そこで気がついたのだろう、≪大嵐斧≫と呼ばれるビキニアーマーの女傭兵が猛烈な勢いで巨大斧を振り回して、結果つむじ風のような旋風が起こり、さらに


ドゴォ!


 と地面に淫紋による強化された肉体で思いっきり獲物を叩きつければ、()()()()()

 天才なら知ってるよな? レーザー光のような光は雨や霧、そして埃なんかで拡散することを。

 俺もカメラマンだからな、雨や湿気が撮影に影響するのはよーく知っている。直観像記憶で漫画の知識でも確かめたし、レーザーの魔術を操る天才幼女が知らないはずもない。


 さぁ、そして最後だ。

 あのおねしょ女は、俺のことを知らない。俺に攻撃能力がないことを知らない。


「≪灼光≫!」


 だから、こんな俺のことを知っているなら明らかなハッタリの叫びにも反応する。

 いや、しなければならない。デジカメのフラッシュを最大にして焚いて、明らかに()()()()()()()()()()()のだから。パシャリ、とな。

 寝ている間に反応するほど敏感なのだから当然だ。あいつも微小な電磁波を感知して慌てた。


「くっ!? そ、そこですか!?」


 ここが一番ビビったな、すぐに伏せたものの、真上を死の光線が通過していったのだから。

 ビシッ、と背後の掲示板にまた穴があく。ああ、ちっちゃな乳首が写ったいい写真だったのに。


「嘘だよ、パイパン娘が! 毛が一本も生えてないガキを騙すのは楽だなぁ!?」

「こ、の……こ、殺してやるです!」


 明らかなハッタリに続いて、みえみえの挑発。それでもプライドの塊のような小娘はキレるよな。

 ここまで思考力を奪って、注意を引けば砂埃に紛れて一流の傭兵なら接近するのも楽だろ?

 そして赤い颶風と化したヴェルミが駆け抜ける。ニコの身長よりはるかに巨大な兵器を持って迫る長躯の女はさぞ恐ろしいだろう。俺もやられたからわかるよ。


「あ、あ、し、しまったです……あ、あひぃ……」


 ビシュン、と≪灼光≫の光がそれでも一筋だけ女傭兵に発射された。だが、俺に気を取られ六に集中できなかったのか狙いも定まらず、そのうえ埃で減衰した光線は身を低くしたヴェルミには命中せず、斧の先っちょに当たって貫通することなく弾かれ消えた。

 もうすぐ眼前に迫る≪大嵐斧≫を次弾で狙う余裕は≪光雀蜂≫にはなかった。


「おらあああっぁぁぁっ、死ねぇ!」

「ひ、やめっ、ですううぅぅうぅ!」


 バゴンと、ニコの鼻先をかすめた巨斧は再び地面に叩きつけられ、ヴェルミの激しい声とともに大地を砕いた。ガキっぽい情けない悲鳴をあげて、ぶかぶかの修道服を引き裂かれて数メートル後方に天才白魔導士は吹っ飛んだ。うおお、ナイスぅ! パイパンまんすじもろ見えの土煙の効果も効いたいい画が撮れたぜ、本日のベストショット!


「あ、あ、あ……ひっ、ひぃ、ひぐっ、ひえええ~ん!」

じょぼぼぼぼぼ……


 だがベストショットはすぐに更新された。修道服の前を斬り開かれ、ぺったんこの胸から股間まで晒したニコが太ももを投げ出して、その足の付け根から小便を噴出したからだ。М字開脚で寝そべりながら憐れみを誘う鳴き声を響かせ、鼻汁を両方の穴から垂らしてギャン泣きする。おむつを替えてもらうのを待つ赤ちゃんそのものの、これ以上ないほど惨めなザマだった。


「ぎゃはははははは! あれだけイキってたメスガキがあのざまだ! よくやったヴェルミ! 最高! つるつるのあそこを後で拭いてやれ!」

「アタシが拭いてほしいわ……」

「わ、わらうなですぅ、お、おしっこもらすのみてわらうなぁ! うびゃああぁぁあぁ!」


 つったって、よだれまで溢れさせて顔をあらゆる体液でぐちゃぐちゃにして泣いてるのを見て笑うなって方が無理だろ。てしてし、と足をばたつかせて地面を叩いているのも面白すぎ。そうやって暴れるものだから、なおさらおしっこがあちらこちらスプリンクラーのようにまき散らされて、足元を汚していく。土埃が湿気を吸って収まっていくのが幻想的だなぁ。


「きゃーっ! なにあれ、あの生意気なガキがおしっこ噴射してるw」

「クマちゃんパンツも引き裂かれて、尻の穴までまる見えね」

「やっぱりおしっこを我慢する才能はないんですねぇニコちゃんは」

「あらあら、≪光雀蜂≫のあそこは本当につるつるなのね」

「の、ノゲーラ先生、私はトイレに行くのであとはなんとかしてください!」


 ビームを連射して暴れていたニコに怯えていた生徒らも、すっかり忘れて醜態をさらすバカロリおもらしっ子を見てげらげらと笑っていた。笑顔のあふれる学校っていいよね! あふれてるのはションベンだけどな!


「いやびゃああぁぁあぁ! わらうなですぅ! あたまのわるいばかどもがぁ! びえええぇぇぇん! わたしはテンサイなんですよ! おまえらとはちがうんです!」

「そりゃ、そんなみっともないおもらし、お前にしかできないだろうよ」

「うびいいぃぃぃい! ままあああぁぁぁ、たしゅけて、ママあああぁぁぁ!」

じょぺぺぺぺぺぺっ


 俺の言葉に周囲は大爆笑、そして金髪ツーサイドアップの赤ちゃんは大号泣、大失禁。

 あー楽しいなぁ、くそ生意気なガキんちょが裸で漏らしまくってるのを堂々と撮影できて幸せだなぁ。あー生きてるって最高、メスガキ屈服たまんねぇ……。

 その後、数分間はたっぷりと俺は金髪天才幼女のおしっこショーを楽しんで撮りまくった。


 この哀れな姿を見て、誰もがニコ・N・フラーウゥスを忘れないように、一枚一枚魂を込めてシャッターを切った。勝利の興奮と、決着の余韻に包まれながら……。

 俺はもう、写真を撮ることしか考えられなかった。

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