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≪光雀蜂≫ニコ

「ま、まさかこんなことが起きるなんて……」


 俺が巧みな話術によってネゴシエーションして平和的なディスカッションによってwin-winの関係をコミットしようと思った矢先。口を開いた瞬間に、ニコは≪灼光≫の魔術によってレーザービームを指先から放った。言葉よりもはるかに速いそれは、運よく俺の肩先をかすめるだけで済んだ。

 俺がカメラマンで、指先の閃光に反応して避けたから命拾いをした。やはり一流カメラマンは違うぜ。

 嘘です、ビビってのけぞったらたまたま外れただけです、心臓狙ってただろアレ。


 兎にも角にも交渉は決裂以前の状態。

 なぜか俺が犯人だということがバレていた、う~んなぜだろう。


「お前と≪大嵐斧≫が来てから、あんなことになったのです! どうせお前らが何かしたに決まっていやがるのです! 生かして返さないですから!」

「うーんさすが天才魔導士、頭いいな。やっぱり毎晩毎晩ヴェルミにノックさせたら、そりゃ不自然だったな。いやー失敗失敗」

「だからやりすぎだって言ったんだアタシは! どうすんだよマコト!」


 俺は女傭兵に抱きかかえられながら、ニコの光線の雨から逃げている。

 いやマジで想定が甘かったなこれは。以前はなぜか俺にビビって漏らしたヴェルミがおもらし映像とハッタリに屈服してくれたのだが、実際に写真が印刷できてこけおどしではなくなったというのに。脅迫する以前に文字通り光速でぶっ殺しに来やがった。考えなしのガキみたいな行動だが正解だ、俺を殺せばもう印刷自体ができなくなる。判断が早い。やはり天才だったか……。

 それに今の俺は死にたくない。せっかくプリンターも復活して、軽犯罪法もないから盗撮し放題だと分かったのに、あのクソガキのおねしょ写真を国中にバラまくまで死ねるかよ。死にたくねぇ、あいつの絶望顔を見るまで絶対に死にたくねぇ。


「おいヴェルミ、一流の傭兵なんだからあんなガキさっさと取り押さえられないのか!?」

「できればやってるよ! これだけ距離があるのに、あれだけ≪灼光≫をビュービュー撃たれたら近づくのも……うひぃ!?」


ビシィ


 例の大斧を持って防御をしようとしたビキニアーマーの傭兵だったが、その鋼鉄の刀身に丸い穴が穿たれている。ヴェルミの代名詞の武器ですらレーザー光を止めることができないらしい。どんな貫通力だよ、強すぎぃ。

 しかもそれに恐怖を覚えたのか、黒ビキニパンツから赤髪の女はちょろちょろと雫を漏らしていた。おいおいおい、恐怖失禁なんかしてる場合かおもらし奴隷、少しでも止まったらお前の頭に穴があいて死ぬぞ。


「ひ、ひぃぃ、い、いやだぁ、し、死にたくないぃ……!」

「バカバカ、泣いてる場合か、走れヴェルミ!」


 小脇に抱えられた俺は、ビキニパンツからはみ出たA級傭兵の引き締まった尻肉をぺしぺし叩く。膝をがくがくと震わせて、明らかに速度の落ちた駄馬はそれでも必死に光の射線から逃れていた。身体強化の淫紋もいつになく輝いていた。

 こいつもここまで役立たずになるとは……ちょっと旅の道すがら、いじめて心を折りすぎたか。

 じゃ、俺のせいじゃねーか。

 がに股で、股間からちょぼちょぼ地面に小水をこぼしながら逃げ続けるが、先程からどうも光線が近づいているような……このままでは本当にまずい、何か手を考えなければ。


「おい、女神! 姿を現せ! あのガキを説得しろ!」

『え~いやですよ、≪灼光≫に当たったら女神ですから死なないにしても痛いですから』


 こーの役立たずの出歯亀女神が! 見てるだけかよお前はよぉ!

 女どもの使えなさにくらくらしてきた、っていうか振り回されて酔ってきた。おえっ。

 そうだ、MPだMP。あれだけ何発もバカスカ撃ちまくってたら魔力切れするんじゃないか? それまで逃げ切ればこちらのものだろ、あいつは刻印もしてなかったし(盗撮で裸はチェック済み)たぶん見た目通り子供の身体能力しかないだろ。逃げまくっていればいずれ終わるんじゃないか?


「おい、逃げろ、あいつの魔力が切れるまで逃げ続けろヴェルミ!」

「無駄です。この≪灼光≫は収束と発射の精度調整は困難ですが、魔力の消費量はごくわずかです。お前らゴミどもを殺すまで何百発も撃ち続けてやるですよ」

「は、はわわ……」


 慇懃無礼なその言葉に俺は久しく感じなかった絶望感を覚え、ヴェルミはさらにじょろじょろ失禁した。もう太ももはびちょびちょだ。

 ふざけんなよ13歳のガキが拳銃何百も発射できるとか、アメリカかメキシコかよ(偏見)


「きゃーっ! なにあれ、あの生意気なガキが魔術を乱射してる!?」

「クマちゃんパンツをおねしょで汚したからって必死ね」

「おしっこを我慢する才能はないんですけど、やっぱり魔術の才能はあるんですねぇニコちゃんは」

「あらあら、あそこがつるつるでもさすがは飛び級の≪光雀蜂(アピス)≫ね」

「こ、こらやめなさい! の、ノゲーラ先生なんとかしてください!」


「うるさいですね……」


 すっかり野次馬と化した生徒たちの声に、金髪幼女はぎろりと睨みをきかせて指をそちらの方に向ける。写真を見て滑稽なおねしょをするガキを侮っていた女子らもさすがに沈黙。場はすっかりあのしょんべんたれに支配されてしまっていた。

 今のうちにどこかに隠れようと指示するかと思ったが、すぐに萌え袖越しの凶器を向けてきて≪灼光≫の発射を再開した。さすがにそこまで甘くはないか。


「無駄です、彼女はまだ大陸ではあまり知られていませんが、大型の魔獣すらも校外実習においてあの≪灼光≫の連続で倒しています。それで生徒たちが付けた二つ名が≪光雀蜂≫。いずれは世界中にその名が知られるでしょう」

「いや解説してないで早く止めてくれよ」


 いつの間にか来ていたノゲーラが、眉をよせ難しい顔で呟いていた。

 なんだよあぴすって、どういう字で書くんだよ音だけだと分かんねぇよ。おい、なんで十字を切ってるんだよ、早く止めろってあの校内乱射事件を。


「彼女が本気で魔術を行使したのならこの神学校に、いえ、白魔導士では止められるものはいないでしょう。王国の騎士団が必要になってきます。残念ですがキメザワさん……」

「あきらめるのが早すぎだろうが、黙祷すんのやめろ!」


 どうやら女教師のアラサーシスターもはっきり実力の違う天才を止める気はさらさらないようだった。フラグとは何だったのか。

 てめぇ覚えてろよ、おまえのトイレ写真も必ず世界中に知られるようにして結婚できないようにしてやるからな。まあシスターだから元から結婚できないんですけどね。なに考えてんだ俺、完全に混乱してるわ。

 絶体絶命のピンチに、俺は完全にあきらめかけていた。


『どうしたんですか真さん、あなたは世界を救うのですからこんなところであきらめないでください。ほら、いつもの盗撮みたいに卑怯な作戦を考えましょう』

「ぐぬぬ……」


 自分は何もしないくせに口だけは出す女神、ほんとムカつく。お前も絶対盗撮して貶めてやるからな。

 大体卑怯な作戦ってなんだよ、がんばって隠し撮りのために塗料作ったり薬を作ったりしてるだけだろうが、努力型なんだぞ俺は。そもそも何も準備してないのに今からあの凶悪なレーザー兵器を持った頭のイカれたメスガキに勝つ方法を考えろなんて無茶苦茶だ。


「ひっく、ひぐぅ、い、いやだあ……こ、こんな、おしっこ漏らしてるの見られてぇ……光で貫かれて死ぬなんてやだよぉ……ま、マコトぉ、たしゅけてぇ……」

じょぼぼぼ……

「あーあーわかったわかったよ、やってやるよ、やりゃあいいんだろ」


 鼻水まで垂らして、歴戦の傭兵はブーツにじゃぽじゃぽと音が鳴る位に小便を溜めて泣いて懇願してくる。もはや尻の谷間まで失禁した水で濡れそぼっている。確かにヴェルミやアナトミアがここまで使えないと想定できなかった俺のミスだ。

 あの金髪クソガキファッキン魔導士に勝って、ぶったおして奴隷にしてやる。おねしょ奴隷にな。

 ニコもノゲーラもヴェルミもアナトミアも、俺に逆らう使えない女すべての恥ずかしい姿を写真で印刷して二度と逆らえないようにしてやる。


 俺は≪知識蓄積≫のスキルをフル回転して、逆転の方法を模索する。

 なに、元々負けても死ぬだけ、とっくに死んでたおまけ人生、勝てばそれだけ得するだけのゲームだ。そう考えると気も楽だ。

 俺はいつの間にか笑っていた。どうせ盗撮したのはバレたんだ、我慢する必要ない。

 楽しんであのガキを屈服させてやろうじゃないか。

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