掲示板のおねしょ写真
俺の通っていた高校はIT化が遅れていて、電子メールではなく掲示板に連絡事項が貼られていた。
教師たちからの連絡や行事予定だけではなく、部活の勧誘や新聞記事なども貼られておりかなり雑多な印象を受けた。下駄箱前の大きな掲示板を生徒たちがみんな見て登下校をするわけだ。専門学校に入ってからはすっかりクラス単位のスマホメール連絡になってしまったが、あれはあれで趣があってよかった。
そんな掲示板に自分の盗撮写真を貼りつけ、誰もが注目するのはたまらない快感だった。
巨大だけあって、脚立を使わないと上の方に貼りつけたものは取れないし、それも強力なボンドでべったりと糊付けしておいたので教師がはがすまでだいぶ時間がかかった。その間に何百人もの生徒が女子トイレで見知った同級生や先輩後輩の無修正下半身丸出し排泄の決定的場面を目撃した。
あの瞬間、まさに俺は神のように学校のすべてを支配していた気分となっていた。
今思えば、あの時の写真は構図も画質も稚拙だったし、指紋なんかには気を付けたが結局警察には俺がやったとバレてしまった。すごいね、現代の警察は。まあ光画部の俺が怪しまれるのは当然だったのだが。
だから、いつかどこか誰かの学校でリベンジをしたいと思っていたのだ。
その夢がようやく果たせたというわけだ。
「おーおー、大人気じゃねぇの」
きゃあきゃあと、目の前で大騒ぎをする修道服のシスター白魔導士見習いたちに、俺はあの時の痛快な気分を再び感じていた。
ろくに娯楽もないくそ中世、その中でもさらに戒律で厳しく縛られた神学校において、くそ生意気な飛び級の神童の醜態はさぞ興味をそそる話題に違いない。くくく、俺の作品に反応する群衆の反応、表現者冥利に尽きるというものだ。
「きゃーっ! なにこれ、あの生意気なガキがおねしょしてる!?」
「ぷぷぷ、クマちゃんパンツを汚して隠そうとしているわよ」
「おしっこを我慢する才能はないんですねぇニコちゃんは」
「あらあら、つるつるのあそこが丸見えじゃないの、あわれね」
「け、けしからん、なんだこれは! の、ノゲーラ先生を呼んできなさい!」
あの日、13歳の幼女に馬鹿にされまくった最上級生たち、下級生の生徒たち、騒ぎを聞きつけた隣りの教会の神父たちまで駆けつけて大騒ぎだ。誰もが神学校の有名人に目が釘づけだ。清廉ぶった宗教家らしく、眉をしかめていても大きく印刷された鮮明なプリント写真からは視線を逸らせない。
当然だ、俺の写真だからな。
最初のおねしょから数日、毎晩おねしょをするニコの姿を様々なアングルから隠し撮りした。夜尿症になってしまったかと、べそかきながら濡れたシーツやパジャマを乾かすのに必死なロリ魔導士は部屋の壁に何か所も設置した隠しカメラには気がつかなかった。それからはもう好きなだけパシャパシャ撮りまくった。魔術の照明に合わせて光量をしぼることだけに注意はしたけどな。
その努力の結晶が、フルカラーで鮮やかに描かれた、おねしょシーツを持ってきょろきょろしながら濡れたパンツ一丁で泣きながら慌てるニコ・N・フラーウゥスさんの激無様ピンナップというわけだ。おお、愉悦愉悦。
「はぁ、手伝っておいてなんだが、すげぇもんだな」
『すごい数の写真ですね……ぜんぶニコさんのおねしょ姿ですか……』
ヴェルミもアナトミアも掲示板の前の人波に呆気にとられていた。
この学校の全員が集まっているのではないかという押すな押すなの大盛況、大きな掲示板にたかる迷える子羊の群れはなかなかに珍しい光景だろう、少し離れて様子をうかがう俺たちには熱狂ぶりがよーくわかる。誰も俺たちなんか気にもしていない、学内スキャンダルに夢中だ。
「見て、これ、こっち向いて、おしっこを漏らしているわよ!」
うんうん、それはねぇ、ヴェルミに扉をノックさせてビクってなって驚いてクマちゃんパンツから失禁させた会心の見返りショットですねぇ。お目が高い。
「こっちもすごいわ、お尻のしわまでくっきり描いてある!」
それはねぇ絵じゃなくて写真だから写ってるって言うんですねぇ。天井に向けた桃尻のドアップですね、顔が写ってないのがポイントのダイナミックな構図です。
「うわぁ、ベッドがあるだけなのに、おねしょの跡がすご……」
渋いねぇおたく、シーツのおねしょ水たまりを斜めに入れた、本人不在の羞恥ショットでございます。そのおしっこの量が無言で屈辱を語る逸品です。
「ふ、ふふ、ざまぁみなさいよ……あたしよりみっともないおもらし女が!」
君はあの日、レーザーにびっくりしてた生徒だな覚えてるよ(直観像記憶)パジャマの裾をめくって、お腹まで濡れているのを確認するニコの写真で仇を討ってやったぜ。
「けけ、け、けしからん……こ、こんな……むほぉ、す、すじが……おお神よ……!」
ロリコン神父のやばい性癖をこじあけてしまったみたいだな。今日こそはおねしょしないようにとトイレで頑張ってしゃがんで放尿している画に充血した目で魅了されている。
みなさん修行が足りないぜ。落ち着いて鑑賞してもいいんだよ。
俺はニコニコと、押し合いへし合いもみくちゃになりながら少しでも近くで金髪ロリ天才幼女のおねしょに食いついているのを満足して見ていた。感想ってありがたいよね、励みになる。
「ふふ、夜なべをして印刷をした甲斐があったぜ」
「あの映像をどうやってあんなにたくさん写し取ったんだ?」
「電気の力だな、事情は伏せてノゲーラや同級生に頼んでな。心配するな、おまえのおもらしも写真にしてやるよ」
「やめてくれマコト……」
ヴェルミの声を適当に聞き流し、印刷の苦労を思い返す。
アナトミアに部屋から送ってもらった印刷機のコンセントが溶けたら終わりだからな、単三の充電池に電気が溜められるかというところから試していって、外付けバッテリーに溜めてコンセントを差して無事に印刷することができた。ある程度の魔力があれば、この学校の生徒教師なら誰でも電気を貯めることができるのが実証できた。一定の電圧にするのが大変みたいだったけどな。
で、複合レーザープリンターの印刷機で高画質な写真を量産することができたわけだ。
そう、インクジェットではなくレーザープリント。レーザーを使うメスガキをレーザープリントで一泡吹かせてやったのだ。おもしろいね!
これだけ好き勝手にやっても、警察は来ない。最高だな異世界。
大陸の地図より先に、そちらを調べた。赤髪の女傭兵がいたようなギルドが犯罪を取り締まっていたが、秘匿されている映像魔術に関する法はどこにもない、このくそ中世には軽犯罪法なんて存在していなかったのだ。初めて異世界に来てよかったと思った。異世界転生最高!
ま、他国のスパイ行為をした魔導士は王国に始末されるみたいな歴史はあったが今は気にしなくてもいいだろう。たかが13歳の少女のおねしょ映像にそこまでするはずもなし、いざとなればヴェルミとのいざこざがあったことにすればいい。
ビシュン!
そこまで考えていると、鋭い音と閃光、そして空気の焼けるイオン臭。掲示板の写真に丸い穴があいていた。あーあー、俺の渾身の下半身丸出し幼女のせくちぃショットが台無し。
どうやら、本当にいざこざが起こりそうだな。
「な、な、なにを、なにを見ていやがるんですか! この才能のないサルども!」
怒りで顔を真っ赤に染めて、唇を震わせて激昂して叫ぶ金髪ツーサイドアップのチビ修道女。
天才おねしょ魔導士ニコがそこに立っていた。
「さて、最後の交渉の時間だ」
『脅迫の間違いでは……?』
それなんかちがいある?
おねしょも治らない幼女を、俺の仲間にしてしっかりと躾けてやるよ。
二人目の仲間、絶対に無視のできない話し合いが始まろうとしていた。




