おねしょのトリック解説
『それで……結局、どうやってニコさんにおねしょをさせたのですか?』
なんだこの≪見通す女神≫、珍しく盗撮に長々と付き合っていると思ったらそんなことが聞きたかったのか。ていうか、その場面は見ていなかったのか。間の悪いやつ。
「フラボキサート塩酸塩だ」
『……んん? なんですって?』
「利尿剤だよ、利尿剤。なんでもお見通しの女神のくせに知らないのか」
フラボキサート塩酸塩。分子式で表記すると「C24H25NO4. HCl」になるらしい。
エチルだのメチルだのを精製して医薬品として販売もされている膀胱炎などの治療薬だ。ちなみに男性が服用すると前立腺が肥大するので飲んではいけません。筋弛緩効果もあり、排尿を促す効果がかなり高い薬だ。現代日本だとあまりに効きすぎて入手困難だとか。ジェネリック代替品を使うように薬品会社が声明を出したりしていた。
この神学校の理科室みたいなとこや保健室の薬品棚から類似品を見つけてきて、がんばって作りました。いやーつらかった。いかに≪知識蓄積≫のスキルがあるとはいえ、高校で学んだ程度の物理の教科書とネットで見た化学式なんかを元に製薬するのは大変でしたよ。なろう小説のチート主人公や幕末にタイムスリップしたお医者さんの漫画の主人公って、素で覚えてるとか凄すぎるだろ。まあそれくらい頭がよくないと主人公どころか医者になれないんだろうな。
とはいえ手に入らない貴重な原薬などもあったので、他の利尿剤に使われているウルシなんかの漢方も混ぜて煎じてみた。これは自分で飲んでみて単体だとあまり効き目がなかったが、継続して飲むと体調自体が改善されるみたいだからな。すごいね東洋の神秘。
「そんな感じでがんばって作りました、幼女がおねしょするような特製の強力利尿剤」
『うわぁ……それを、ど、どうやって飲ませたんですか』
「そりゃあもう、カメラを入れてる穴から糸を垂らして、そこに薬をつーっと伝わらせて寝ているあのガキの口の中に毎晩毎晩……」
『……うわぁ……』
アナトミアのこれまでにないほどドン引きしている声。
まあ普通に食事に混ぜたり、飲料水もたらふく垂らしてみたり色々やったけどな。加湿器なんてないこのくそ中世で、さぞかし喉と膀胱が潤ったことだろう。
「あの薬が効き目がなかったら、利尿作用のあるスイカを食べさせたり、右手を水の中に入れたり、催眠術とかまで試しておねしょを待つところだったからな。いやー効き目抜群でよかった」
『……手を水に入れるってなんですか?』
「知らねぇの? 寝てるやつにの手をぬるま湯につけておくと漏らすってやつ。まあ都市伝説らしいけど」
『そんな嘘知識まで知りませんよ……』
なんだ女神も大したことないな。
いやでも、本当に「薬効あり!」って感じで感動してる。あまりに作るのが難しくて、もうベッドに水とアンモニアぶちまけて夜尿してると勘違いさせるところだったからな。やらせも出来が良ければ嫌いじゃねぇけど、カメラマンとして真実を撮りたいからな。キリッ。
その結果が、下半身丸出しで必死にパジャマを乾かしている金髪ロリガキのお姿だ。大満足。
一滴一滴、丹念に見つめながらうまくニコのちっちゃなお口に届くよう頑張って糸伝いに利尿剤を入れた成果がありました。まあちょっとこぼれたけど、よだれと勘違いするからセーフ。
「ヴェルミの食事にも混ぜて、おねしょするか実験しなきゃな、ぐひひひひひ!」
『どうも、マッドサイエンティストを生み出してしまったみたいですね……』
「そうだ、見張りのヴェルミにまたドアをノックさせて、ケツ丸出しでビビっている姿も撮っておこう。おい、ヴェルミ聞こえるか」
「……どうした、なにかトラブルか!?」
ザーザー、とノイズ混じりの小型のイヤホンレシーバー越しに女傭兵の声が聞こえてくる。
仕事はまじめにこなしてくださるA級傭兵さんは小声だが、鋭い声で即座に返してきた。うーん、本気で心配してくるヴェルミに深夜の悪戯を頼むのは少し気が引けるなぁ。まあ頼むけど。
「ああ、緊急事態だ。今すぐニコの部屋の扉に行ってノックしてくれ」
「わかった、待ってろ!」
うわぁ、全然緊急なんかじゃないんだけど大真面目に従ってくれたよ。根はいいやつなんだな。
まあしばらくニコの盗撮にかかりっきりで、人前で漏らさせたりしていなかったからな。このままいけばまた恥ずかしい目にあわなくて済むみたいな打算的な考えがあるんだろう。
かまってやんなくてごめんなぁ。よし、そんなに待ち遠しいなら今度天才少女と一緒に人前でおもらしさせてやるか。
「さて、あのガキはバカにしていた裸女が来てどんなリアクションするかなぁ~」
俺はその場面を待ち望み、その録画を学生たちに見せるみたいが待ち遠しい気持ちだった。
完璧だった、計画通りに、そして想像以上の滑稽な場面を盗撮することができた。俺は完全に慢心していた。
だから、まさかこの盗撮を披露するときにあんなことが起きるなんて。
今、笑って映像に見入っている俺は想像もしていなかったのだ。
というわけで正解は「糸を天井から垂らして、利尿剤を13歳女子の口に流し込む」でした。
簡単すぎて、みんなわかったよな? 木目澤真でした。




