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天才白魔導士13歳

 古い木の扉の奥、神学校の教室からは女性の悲鳴、そして罵声や怒号のようなものが聞こえてきた。


「いやっ! やめてぇ!」

「きゃあっ! な、なにしてるのやめなさいよ!」

「こ、こどものくせに調子にのらないでください!」

「そうよ!」

「だれかぁ、先生を呼んできて!」


 トラブルの予感に、俺はうきうきと高揚して手にかけた扉をスライドさせ中を見る。喧嘩か? いいぞ、本性を表して争え!

 教室内では女生徒たち、高校三年生くらいだろうか、そのくらいの年齢のシスター服の女子が輪になって騒いでいた。教諭であるノゲーラの注意も聞こえないほど興奮している、今にも掴みかからんばかりの勢いだ。だが、どうも怒っている生徒の目線が低く、なにをつかもうとしているのかよく見えない。


「ふぅ、うるさいですね……事実を言ったまでです」


 喧騒の中心には、ひときわ小柄な女性……小学生くらいの幼女がいた。

 落ち着いた、というよりは他人を見下すような小生意気な目つきではるか頭上の生徒らをねめつけている。身長はせいぜい130センチあるかないかといったところか、他の女子とはそれこそ子供と大人くらい背幅が違う。

 フードはしておらず、ぶかぶかの袖や裾が余っているくらいの修道服に、金髪のツインテールの頭をちょこんと乗せている。いや、後ろ髪を流しているからツーサイドアップってやつか。俺はコスプレ撮影もしていたから女子の髪型には詳しいんだ。

 もちろんバストサイズも薄いシスター服でも目立たないくらいまっすぐに覆われており、他の生徒とは違う意味でのコスプレ感、着せられている感があった。

 あどけない童女の可愛らしい顔に似ない、ふてぶてしい態度が目を引いて、俺は胸に入れた小型カメラを起動させていた、これはペン型でありながらフルハイビジョンで数時間録画できるという優れモノだ。


「ちょっと、そんなに怒鳴ってどうしたのよ」

「こ、この子が、わたくしのことを才能がないって……」

「事実です。あなたに才能がないからそう言ったのです。質問なんかで私の時間を無駄に奪わないでください」


 ふんっ、とのけぞって無い胸を反らし、偉そうに鼻を鳴らす金髪幼女。

 どうやらこのガキが慇懃無礼な態度で先輩にたてついた、というかあからさまに挑発をしたのだろう。舌足らずな可愛らしい声で、とんでもない毒舌をかましていた。わー、やなガキ。


「ニコ・N・フラーウゥス! また貴女ですか!」

「せ、先生……」


 激昂していた周囲の生徒たちを、さらに大きな怒鳴り声でノゲーラが黙らせる。

 うわぁヒステリックなキイキイ声、うーんこれぞ学校って感じがしてきたな。机を倒して、ニコと呼ばれた幼女を取り囲んでいた女生徒たちもバツが悪そうな様子だ。


「私は何もしていません、先生ではなく同級生の私に質問をするほど頭が悪いから、才能もないくせに邪魔をしないでくださいと言っただけです」

「あのねぇ……飛び級とはいえ同級生なのだから、そういう態度はおやめなさい」


 薄々そうではないかと思っていたが、このロリは後輩などではなくれっきとした最上級生のクラスの生徒であったようだ。いや何年飛び越えてんだよ。異世界ではよくあることなのか?

 それで尊大な態度や、周囲の悔しそうな顔の説明はついたが。にしてもしゃべれば喋るほど可愛くないメスガキだな。ぶん殴りてぇ気持ちも分かる。


「では先生が代わりに教えてください。私より才能がなくて教師をやっている人でも、仕事なんだからそれくらいできますよね」

「っ! あなたねぇ、ノゲーラ先生にまでそんな失礼な態度……!」


 シスターの女教師にまで見下した態度を貫くニコに、周囲の顔色も変わる。存外、慕われていたらしいノゲーラ先生を侮辱され、髪をカチューシャで留めた生徒のひとりがついに手をあげて平手打ちをしようとした。いいぞやっちまえ! クソ生意気なガキをわからせてやれ!


「やれやれです……」


 つい、と幼女が袖にくるまれた人差し指を掲げる。

 その先端に光が収束して、瞬時に一筋の閃光となって解き放たれる。俺の網膜に一本の線が焼き付いたかと思った直後、振りかぶった手をそのままに女生徒のカチューシャは吹き飛んでいた。

 じゅ……と何かが焼けるような音がして振り返ると、背後の黒板に穴が穿たれていた。

 ……え、なに? ビーム……?


「あ、あ……」

「正当防衛です、才能のない下民が私を叩こうなんて許されないです」


 ぺたん、と木の床にへたり込んだ生徒に今度こそ正真正銘の上から目線で語る金髪の白魔導士。

 女生徒は哀れにも、ひざを震わせて失禁していた。シスター服の股間が濡れて、教室の床に水たまりと尿の芳香が拡がっていく。うおお、見に来てよかった撮影撮影。

 胸の隠しカメラをおもらしに向けながらも、俺は横目でニコ・N・フラーウゥスという少女を見つめていた。袖は少し焦げており、彼女が光線を放ったのが事実であることを示している。あれが白魔導ってやつか、レーザー兵器を持っているようなものだ、そりゃ国家の戦力にもなる。


「ニコ! ≪灼光≫の術を同級生に向けるなんてなにを考えているんですか!?」

「正当防衛といいましたです、一度で覚えてくださいです頭が悪くても」


 もはや誰も声を出せずにいた。教室で拳銃をぶっ放して悪びれないみたいなものだろう。

 そんな危険人物に同級生たちはおろか、教諭のノゲーラですらおびえた様子で見つめることしかできない。ヴェルミも小声で毒づくのみだった。


「とんでもねぇガキだな……」

『≪灼光≫は上級の白魔術、あの生徒さんは口だけではなく本当に才能があるみたいですね』


 女神の解説に俺は納得した。小学生の少女があれほど大口を叩けるのは確かな実力を備えているからなのだ。だからこそ俺は決めた。このガキを必ず仲間にすると。

 俺は手を叩いてニコに声をかける。

 もちろん、拍手で隠しカメラの射線が遮られないよう、生徒のおもらしも撮り続けながら。


「いやぁ素晴らしいですね! 飛び級の神童ということですか」

「……誰です? どうして男なんかが教室にいやがるんですか」

「どうですニコさん、A級傭兵ヴェルミ・P・エンドアックスのパーティに加わりませんか?」

「いやです」


 即決で断られてしまう俺の勧誘。

 いいよいいよ、そうこなくちゃ。

 そうやって他人を見下す舐めた態度でいてくれよクソガキ、その生意気なツラが泣き崩れるのがより楽しみになるからな。ほらもっと毒舌を叩いてみろよ。


「なんで私が、そんな頭の悪そうな裸女のパーティに入らないといけないんです?」

「な、なんだとこのガキ……!」

「文句があるですか?」

「う、うぐぅ……」


 ニコが指を向けると、赤髪の女傭兵はうめいて黙ってしまう。武器の大斧は部屋に置いてきていた。

 うわぁ糞の役にも立たないなこの≪大嵐斧≫。

 それどころかじょろろ……とビキニアーマーの股間が濡れて、軽く失禁までしていた。お前も漏らすんかい。勧誘の難易度をあげてくれてありがとうな、おもらし奴隷のヴェルミさん。


「はぁ……またおもらしですか。恥ずかしくないんです年上のくせに」


 金髪の幼女も、頭にくくったツインの髪束を揺らして呆れていた。同感です。


「いやー確かにお恥ずかしい。だからこそ、あなたのような才能ある方に世界を救う協力をしていただきたい、女神の啓示を受けた我々のね」

「女神ですか……? おまえらがです?」


 ふん、と心底見下げ果てたという態度でため息を吐き捨て、振り返りもせずにニコは教室を出て行った。

 ああ、そうだ、今はそうやって俺たちを無能と見下してろ。その態度がデカければデカいほど、立場を失ったお前は死ぬほどプライドを傷つけられるんだからな。


 そうだよ、学校っていうのはこういうところだ。

 俺みたいな気持ち悪いやつを見下す女子がいて、そのムカつく女の恥ずかしい姿を俺が盗撮する。

 それこそが学校だ。


 待ってろよメスガキ、俺がしっかりと躾けてやるからな。

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