ノゲーラ先生は仲間にならない
俺たちの急な来訪に対応しに出てきた女教師は30過ぎの性格のきつそうな女だった。
たまにアニメで見る修道女がしているような頭巾、ああウィンプルというのか(直観像記憶)あの白い頭巾の上から青いベールをして、ワンピース状の青い修道服を着ている。どうも清貧ゆえか体にぴったりした薄い素材でできているようで、地味に胸の大きいことや体のラインがよくわかる。
どうしてこう、この異世界はビキニアーマーといい、いちいちコスプレ臭いのか。
とてもいいと思います。
通された部屋の来客用のソファに座った俺たちの対面で、背もたれに体を預けずにピンと背筋を伸ばした姿勢からもしスタートしての生真面目さがうかがえる。
こういう女はまじめな顔してぶっといものをひりだすんだよなぁ。俺の撮影データの統計的に。
「なるほど、あなたが国境沿いで有名な女性の傭兵でしたか。お噂はかねがね」
言葉と裏腹に、ノゲーラと名乗った女教師はさほど有名人に会った驚きや喜びは感じられない。
これでも俺は人の観察には自信がある方だ。仕事中に白魔導士を紹介しろという厄介な依頼を迷惑がっているというか、心の底ではヴェルミを地方出身の女と下に見ている節が感じられた。
まぁ半裸の女傭兵なんて、シスターから見れば痴女と変わらないのだろう。俺から見てもそうだし。
いいよいいよ、そういう人を舐めきった態度。お前も旅の仲間にして辱めてやろうか。
お前も蝋人形にしてやろうかー、みたいなこと言ってるな俺。状態変化は性癖にしてもニッチだ。
「ええ、A級傭兵として名をはせたヴェルミも仲間を探してパーティを組もうという話になっておりまして……ぜひ教会のお力をお借りしたいと考えております」
「仲間を探している」という簡単な説明をしたヴェルミの後を継いで、俺はこの手の女が気に入りそうな紳士ぶった態度で再度丁寧な言葉で雇用の意思を伝える。
その俺の横顔をヴェルミが気味悪そうに見ていた。なんつー顔してんだよ、お前が信用されてなさそうだから俺が代わりにマネージャーみたいなことしてやってんだろうが。
あーあー、大体こういう交渉事は苦手なんだよな。カメラマンに交渉のテクニックも必要みたいなことを専門学校の先生も言っていた気がするが、そういうのが面倒だか無許可で盗撮やってるみたいなところがあるからね俺。結局、周囲に怪しまれないように風呂入ったり服を洗濯したりひげを剃ったりと、最低限の社会性は必要だったりするんだが。
「ええと……キメザワさん、でしたか。あなたもパーティの一員ということですか?」
「いえいえ、私なんて地味な下働きの雑用みたいなものでして、実際の戦闘などは彼女や白魔導士の方に任せるつもりです」
『実際の立場は逆なんですけどね』
女神が見えないのをいいことに茶々を入れてくるが無視。戦闘なんかはヴェルミに任せて、地味にトイレにひそんだりするんだから嘘ではないだろが。
ていうか、女教師の潔癖さを感じ取って、パーティに男が基本いないという設定にした俺のアドリブきいた話術を褒めてほしい。ほんと、どこの世界でも宗教にハマった奴というのは面倒だからな。
気をよくした俺は、調子にのって身を乗り出してノゲーラに語り続ける。
「どうでしょう、あなたのようなしっかりした方にヴェルミと組んでいただければ、私も安心なのですが……」
「え、わ、私ですか……?」
この時点で俺は、この少しとうが立った女シスターを仲間にしてトイレシーンを盗撮する気満々だった。アラサーくらいならギリギリ俺の許容範囲だ。現代でも俺は40過ぎ50過ぎの女の盗撮映像もネットにアップしたが、それなりの売り上げにはなっていた。どこにも需要というものはあるものだ。
男に褒められ慣れていないのか、ノゲーラ先生も満更でもない様子で驚いている。
ぶっちゃけ充電が目当てなんだから戦闘力なんぞ二の次、性別容姿年齢が大事だ。
「……こほん。光栄ですが、私は教職もありますし、前線から離れて久しいのでお力にはなれないかと思います」
「そうですか、残念です……」
「代わりといっては何ですが、実力のある生徒を紹介いたします」
ちっ。アラサーシスターの放尿シーン盗撮の撮影プランも考え始めていたのに。
という不満はなるべく出さない、あまり信用を無くしてブサイク女を紹介されても困る。咳ばらいをして、落ち着きを取り戻したノゲーラはまじめぶった態度に戻って話を進める。
しかし生徒ねぇ。戦闘力は二の次とは言ったがやはり辺境の傭兵と組むなんて話はきちんとした白魔導士にはいかないのかね。まぁ若い女ならこちとら文句もないが。
『生徒といっても、中央の神学校といえばエリートの集まりですからね。そのあたりの白魔導士とくらべても遜色ないですし魔導の才能は保証されているでしょう』
(ふーん、ならいいか)
「ちょうど、授業が終わったようです。様子を見に行きますか?」
俺の不満を見通したとでも言うようにアナトミアが解説してくる。魔法に関してはよくわからないし、とりあえずは納得しておくか。
というところで鐘の音が校内に響き、生徒たちのざわめきが聞こえてくる。お嬢様な神学校らしく喧騒もひそやかだ、男子も別棟でいないのか。俺たちは立ち上がってノゲーラについていく。
「ふーん、まあまあかな」
「おい、獲物を狙う目でじろじろ見るなよマコト」
案内される教室までの道すがら、幾人かの修道服の生徒たちとすれ違う。
さすがに化粧っ気もないし、髪もまとめていたりして地味ではあるが田舎の要塞都市に比べると若い女性のにおいが漂ってくる。どうも若者は中央に出て勉強するか、戦争に行くかみたいな中世まる出しの村にしか行ったことがなかったので、その首都であるこういった学校にはいろいろなタイプの女子がいるようだ。これは期待できるかもな。
と、にやついていた俺に小声でヴェルミが注意してくる。
ハーレム物のアニメとかなら「なんだなんだ嫉妬か?」って感じだが、赤髪の傭兵はマジで俺の表情を気色わるがっていた。そんなに不審者っぽかったか? いかんな、紳士ぶらないと。
とはいえ生徒たちは男性が珍しいだけのようだ、好奇の目で見られる分には悪い気はしない。
「すみません、男性の方は物珍しいようでじろじろと……。あとで注意しておきます」
「いいんですよ、これから仲間になるかもしれないんですから素直に見ていただかないと」
さっきよりも気色わるがってんじゃねぇよヴェルミ。ここで漏らさせたろか。
「最上級生は、一流の白魔導士の資質を備えています。きっとお気に召すと思います」
「それは楽しみです。ですが、ノゲーラ先生の勧誘もまだあきらめたわけではありませんのでお忘れなく」
これは本音。
女だらけの園だと分かった以上、この学校のすべても俺がいつか盗撮してやるからな。その時は、アンタの隠し撮りをできるのを楽しみにしているよ。
俺の言葉にノゲーラ女史は少し頬を赤らめて黙っていた。なんという脈ありな反応。お前とフラグが立つのかよ。
そのまま俺たちは黙って階段を上がり、目的の最上級生の教室にたどり着いた。古めかしい気の扉だが、確かに昔通っていた学校の雰囲気がある。ここに俺の新しい獲物がいるのか、待ちきれないよ早く紹介してくれ。
ノゲーラが扉に手をかけた瞬間、教室の中から悲鳴が聞こえた。