ヴェルミの述懐 路銀稼ぎ編
要塞都市パリエスにいられなくなったアタシは旅に出た。
正確には、マコトにありとあらゆる野外おもらしプレイをやらされた挙句、ギャラリーの反応がありきたりになって飽きたので他の町に連れていかれるということだったが。
女神の神託を受けて世界を救うなどと嘯いているひょろ長い男だが、とてもそんな崇高な使命を果たそうとしているようには見えない。他の町でまで変態プレイをさせられるのはご免なので、アタシはどうにか逃げようとしたが、そのたびに居場所を突き止められて連れ戻されてしまう。
≪見通す女神≫アナトミアは、すべての事象を観測するとかなんとか言い伝えがあったが、どうやらそれだけは本当のようだった。アタシはもはやマコトを殺すこともヤツから逃げることもできない。
「ごごご、ごめんなさい! ごめんなさい! 逃げようとしてごめんなさいぃ!」
結果、アタシは今日もまたヤツに土下座をさせられていた。
「あーあー、ショックだなぁ。世界を救う旅の仲間に選ばれたっていうのに、怖くなって逃げだそうとするなんてさぁ」
ニタニタヘラヘラと、少しもショックなど感じていない薄っぺらな顔でマコトが言う。
怖いのは旅じゃなくてお前だよ、と喉まで出かかったが何とか我慢した。
「まぁいいよ、本当に反省しているならお前を連れ戻すために戻った道すじの分のお金、ちゃんと稼いでくれるんだろうな?」
「……そ、それはもちろん、魔獣とかを退治して」
「あのさぁ、そんな画は撮り飽きたんだよ。もっと奴隷にふさわしい稼ぎ方があるよなぁ」
腐臭がするような沼のごとく濁った眼でマコトはアタシを見つめていた。
逃げ出そうとしたことを心底、後悔した。
*****
それからというもの、アタシはありとあらゆる行動を監視されていた。
特にトイレなどは、どのような手段を使ったのかすべてをあの魔導具で恥ずかしい姿をすべて収められてしまっていた。
「う、うぅ……」
じょろろろろ……
宿屋のトイレで、人間が身を隠す場所などないはずなのに、アタシがビキニパンツを下ろして、しゃがんで放尿している場面が映像として鮮明な姿で残っていた。視線を感じていたので、どうにか身をよじって隠しながら済ませようとしたのだが、その時は尻を丸出しにしている背後からばっちり撮られてしまっていた。
そんな姿を、旅の男たちに見せて路銀としてマコトは徴収して稼いでいた。
しかも、金額にこだわっていないようで、塩スープ一杯分という粗末な値段でアタシの恥ずかしいおしっこの場面を切り売りされていたのには気が遠くなりそうだった。
「ど、銅貨三枚って……アタシのあんなところを、そんな値段で……」
「ごめんごめん、俺異世界転生したからさぁ、物価とかよくわからなくてさぁ。次から銅貨一枚にしとくわ。そんなもんだろ、お前のケツの値段なんて」
悪びれる様子もなく、さらに子供の小遣い以下の値段に下げられてしまった。
なんとなくトイレを見られるのとは別の屈辱だった。
一度などは、外で済ませればあの魔導具の射程外になるのでは、と思って、全力で荒野を走って地平線の彼方まで行って小便を済ませた時があった。我ながらあの時は、風よりも早く魔力全開で疾走したものだ。
「はぁ……久しぶりにゆっくりションベンできるぅ……♥」
じょばばばばばば……!
そうやって周囲に何もない荒野で中腰になって膝まで黒ビキニを下ろしたところで放尿した。
気兼ねなくおしっこを存分に堪能して、すっきりした。そのだらしない姿ももちろん撮られてしまっていた。
「俺の超望遠レンズをなめるなよ!」とマコトはわけの分からないことを言ってニタニタ笑っていた。
「へぇ、若い娘さんがこんな、ねぇ、ほら銅貨」
「なんという魔術の無駄遣い……はい、銅貨」
「これ有名な傭兵の女じゃん、こんなことして金稼いで恥ずかしくねぇのか。はい銅貨」
「うひょお! あそこもケツもまる見えで、うっわぁ、ションベンすげぇ勢い! はい銅貨」
「けしからん、こんなもので金稼ぎなど! 今の若いものは……はい銅貨。続きは?」
娯楽のない旅路では、旅人の男どもは誰もかれも小銭を支払っていく。それでも銅貨一枚では大した稼ぎにはならない。たまにいる連れの女などは、露骨にアタシを見下して嘲笑し、おしっこシーンをタダ見した上に男たちとくすくす罵倒していた。腹立つ。
そうやって、動画を夜ごと上映して、アタシの鍛えて引き締まった尻を見る旅人たちは増えていった。パリエスに行くはずの商人が、アタシとマコトについてきて引き返すくらいだ。
旅の最後の方は、くだらないお芝居もさせられた。
「う、うぅ……運転手さん、まだつかないのか……」
「まだ出発したばかりだよ傭兵のお嬢さん」
大型の乗合馬車、その幌の中でぎゅうぎゅう詰めの客の中でアタシは朝から我慢させられていたおしっこが、馬車が揺れるたびに小さく悲鳴をあげさせられていた。マコトは黙って向かいでニタニタ笑って見ているだけだ。
「も、もう、我慢ができないぃ……漏れちまうぅ……!」
じょぼぼぼぼぼ……
「ちょ、ちょっとお嬢さん!?」
「いやー-、汚い! ドレスにつくじゃない!」
「おいおい、あんなでかい図体しておしっこも我慢できないのかよ、何歳だよ」
アタシは木製の座席に座ったまま、ビキニ越しに小水を大量にあふれさせてしまった。
マコトからの命令で、馬車の中でわざと漏らせと言われていた。とはいえ、客が少なくなって目的地に着くまで我慢しようとしていたのに、つい大きく揺れた際に尿道口がゆるんでしまったのだから本当におもらしをしたも同然だ。ヤツもそれに気がついているようで、嬉しそうに魔導具でアタシの失禁を見つめていた。
「うぅ、ひっぐ、えぐぅ……ご、ごめんなさいぃ……あ、アタシは、ヴェルミ・P・エンドアックスは、19歳にもなっておしっこを我慢できずに漏らしてしまいましたぁ……! A級傭兵にもなって、パンツを穿いたまま汚してしまい、もうしわけありません! 小便たれのヴェルミをゆるしてくださいぃ……!」
「ははっ、迫真の演技」
事前に言うように命令されていた、自分の名前や年齢を、馬車の客たちに聞こえるように放つ。
股間が濡れたビキニアーマー姿で、みんなに呆れたような視線で射抜かれたまま、泣きべそをかいて恥ずかしいことを言わされるのはとても恐ろしかった。ひざががくがくと震え、じょろろとおしっこがさらに漏れ出してしまう。演技などではない、アタシは本気で鼻汁垂らして泣いていた。
それを分かっていながら、マコトはひざをポンと叩いて喜んでいた。最低の男だ。
もちろん、その夜の宿で、その最低の自己紹介おもらし映像はお金を取って上映された。
目的地の首都まで、あとまだまだかかるだろう。
アタシの羞恥映像はそれまで、どれくらいの旅人たちに見られてしまうのだろう。
早くこの旅が終わることをアタシは祈っていた。