ビデオテープ時代における、アニメ・特撮ヒーロー番組の映像ソフト事情を振り返って
本エッセイは、ビデオテープが映像ソフトの主流だった時代における、アニメや特撮ヒーロー番組のソフト化事情を、私の主観で振り返った物です。
ビデオテープ時代末期、レンタル店にアニメや特撮ヒーロー番組のビデオを借りに行っていた少年時代の私の思い出がベースになっています。
【はじめに ビデオテープ時代のアニメや特撮の映像ソフトについて】
DVDやBlu-rayが映像ソフトの主流である今日において、アニメや特撮ヒーロー番組が映像ソフトとして発売される際は、全エピソードのパッケージ化が半ば当然になっていますね。
特番やエンディング映像など、版権の都合からソフト化出来ないコンテンツも有りますが、本編エピソードに関しては概ね映像ソフトに収録され、本放送を見逃しても視聴出来るようになっています。
それも基本的には、第1話から最終話までの全エピソードが、放送された順番通りに収録されている事がほとんどですね。
全く、良い時代になったものです。
しかしながら、映像媒体の主流がVHS規格のビデオテープだった時代は、その限りではありませんでした。
このエッセイでは、アニメや特撮ヒーロー番組の映像ソフトがビデオテープでリリースされていた時代特有の、今では珍しくなった収録状況を御紹介いたします。
【ケース1 傑作選】
VHS規格であれベータ規格であれ、光学ディスクであるDVDやBlu-rayに比べて、ビデオテープは製造コストが割高でした。
そのため、鮮度の新しい放送中の作品はともかく、旧作のアニメや特撮ヒーロー番組をソフト化する際は、版元は慎重にならざるを得ませんでした。
いきなり全エピソードを映像ソフトとして発売して、それで売れなかったら大赤字ですからね。
そこで、まずは人気の高いエピソードを優先的に収録した傑作選という形で販売し、その売れ行きが良かった場合は、残りのエピソードを収録したソフトを随時発売する方式が取られました。
そのため収録エピソードの順番はバラバラで、第1話と第2話が続けて収録されたかと思ったら、いきなり中盤や後半のエピソードに飛ぶという事態も、しばしば見られました。
また、初期の巻で人気エピソードを優先的にソフト化したり、監督や脚本家などの法則性に則った収録を行ったりした結果、最終巻の収録エピソードがカオスになる事もありました。
それでも、全てのエピソードがソフト化されれば良い方で、ビデオソフト化が途中で打ち切られる作品も少なくありませんでした。
そのため、ビデオテープの時代では、全エピソードのソフト化以外の方法で、作品の全容に迫れるように工夫した映像ソフトもリリースされていました。
【ケース2 第1話と最終回を最優先して収録する】
ヒーローの誕生を描いた第1話と、敵との決着が描かれた最終回。
物語の始まりと結びは、確かに優先的にソフト化すべきエピソードですね。
ところが、第1話と最終話だけの収録だと、ストーリーの途中で発生した重要イベントが全てすっ飛ばされちゃうんですね。
主人公のパワーアップエピソードや、新キャラクターの加入エピソード。
そして幹部の交代や第三勢力の登場といった、敵組織の変遷など。
そうしたストーリー全体の流れを把握しているならともかく、本放送を見ていない人が後追いで視聴するには、少しハードかも知れません。
少年時代の私も、ムック本でストーリー内容を予習した上で、このようなビデオソフトを鑑賞していました。
【ケース3 全エピソードの予告編を収録する】
重要エピソードや傑作エピソードを収録した上で、残ったビデオテープの容量を使って予告編を収録する方法です。
予告編だけが収録された映像ソフトも御座いましたね。
テレビシリーズの本編エピソードなら、1話につき大体25分程度。
標準速度で120分収録のビデオテープですと、頑張っても5話が限界ですね。
その点、15秒か30秒の予告編なら、ビデオテープでも全て収録出来ますね。
この全予告編集、番組がどのように変遷していったのかを一気に見る事が出来るので、私としては好感が持てました。
しかしながら、予告編は本来ならば、本編への興味と関心を喚起するための物。
本編を見たくて仕方ないのに、それが予告編集しかリリースされていない作品だったら、生殺しになってしまいますね。
【ケース4 総集編】
物語全体の起承転結が分かるように、テレビシリーズの全エピソードを再編集する方法です。
重要イベントをキチンと押さえた上で、物語の始まりから終わりまでをコンパクトにまとめた総集編。
今回のエッセイで紹介致しました手法の中で、私が最も好きな物が、この総集編で御座います。
何しろ、テレビシリーズの総集編を劇場公開する事でブレイクした作品は、アニメ界には幾つも御座いますね。
また、ストーリーの繋がりを自然にするために、再編集によって新要素が盛り込まれる事も御座います。
例えば、新規撮影したカットの挿入や、ナレーションの新規収録などですね。
そうした新要素を含んだ総集編ですと、本放送をキチンと追っかけた人にも、新鮮な感覚で楽しめますね。
【終わりに】
映像媒体の主流がビデオテープだった時代。
旧作のアニメや特撮ヒーロー番組のソフト化は、今日以上に厳しい条件を強いられていました。
本エッセイで取り上げたビデオテープ時代の特殊な収録方式は、全エピソードのソフト化が基本となった今日では、奇異な物に見えるかも知れません。
しかし、これらの特殊な収録方式は、「作品の全容に迫りたい」というファン達のニーズを可能な限り満たすため、版権サイドが創意工夫を行った結果とも解釈出来ます。
映像ソフトリリースの黎明期における、ファン達の熱意と版権側の創意工夫。
それが今日のサブカルシーンに繋がっていると思いますと、先人達に敬意と感謝の念を改めて捧げたくなってきますね。
また、ビデオテープ時代に試みられた全予告編集や総集編などは、全エピソードのマラソン視聴が容易な現在であるからこそ、新しい楽しみ方が色々と出来るコンテンツだと思います。
何らかの形で、再び日の目を見て欲しい…
懐古趣味かも知れませんが、そう思ってしまう今日この頃です。