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第4話 恋愛はとても難しい

ここからイチャイチャパート入ります。

 時が経つのはあっという間だ。


 だってもう日曜日なんだもんっ。

 デート当日なんだもんっ。


 だもんって何だ。完全にテンションがおかしくなっている。


 10時に駅前集合だが、1時間も早く来てしまった。

 

 やばい。


 不安とか期待とか緊張とかアレとかソレとか色んな気持ちが混ざり合って、美術の時間に絵の具混ぜすぎて最終的に黒っぽい色になったやつみたいになっている。


 そうだ。俺は今日、告白する。

 赤川に『好きだ』とちゃんと伝える。

 曖昧な関係は終わりにして、ちゃんと恋人になるんだ。


 それにしても、服装とか大丈夫だろうか。

 普段気を使わないから不安だ。

 兄貴と姉貴に指摘されて、色々整えてきたが……。

 

 赤川が来るまでの間、リラックスしておこう。


 手に『人』と書いて飲むと落ち着くらしい。

 何でなんだろうな。


「お待たせ」


 来た。


 赤川の声だ。


 まだ俺の視界の外にいるが、距離は近い。


 深呼吸を一つ置いてから、ゆっくり振り返る。





 そこには、今まで見た事ないほどの美少女がいた。





 言葉が出ない。


 なんて言ったらいいんだ。


 赤川の綺麗な赤髪が際立つ、白を基調とした花柄のワンピース。


 一部分がレースになっていて、足や肩が透けて見えているのにドキッと感じてしまう。 






「どうかな、今日の服」







 似合ってるに決まってるだろ。


 100点満点中500点くらいだな。






「黙ってないで、何とか言いなさいよ……」






 赤川が不安そうな声を出す。


 そうだ。ちゃんと口に出して褒めないと。


 直視出来ないほどのかわいさだが、ちゃんと相手の目を見て言うぞ。





 そして、赤川と目が合う。


 大きくて少しつりあがった目。


 見れば見るほど綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。





「綺麗だな」





 その目を見ていると、自然と言葉が溢れた。


「あ、ありがとう……」


 赤川が安心したように表情を緩める。


 一方俺は、さっき言った自分の言葉が恥ずかしすぎて顔に熱が集まった。


 ただでさえ暑いから、脳が溶けそうになる。


「西口、早いわね。まだ1時間前よ」


「それはお前もだろ」


 お互いに集合時間の約1時間前に着いてしまった。


「どうしよっか」


「そうだな……」


 一応、駅周辺の事を色々調べておいた。

 この時間帯だと、そもそも開いてる店が限られる。

 喫茶店くらいしかないな。


「喫茶店で時間潰すか」


「うん」


 赤川が俺の隣に並ぶと、自然と俺の手を握った。


 だから、俺も握り返す。


 強すぎず、弱すぎずで。





✳︎✳︎✳︎





 しばらく時間を潰していたが、あまり会話が弾まなかった。

 そもそも俺は口下手だから、赤川が話してくれないと会話が発生しない。

 彼氏として、これはどうなんだ。

 退屈させてないだろうか。

 色々不安になってくる。






 異様に長く感じた時間も過ぎて、ようやく映画館の館内に入った。

 今日観るのは『俺の名は。』という恋愛映画。

 名を名乗って一体どうするんだろうか。





✳︎✳︎✳︎





 劇場内に入って席に着く。

 手は握られたままだった。


 手握るの好きなのか、赤川は。


 上映開始前のまだ明るい劇場内で、赤川はキャラメルポップコーンを口にしていた。


 赤川に料理を振る舞ってみたいな。まあ、今日は映画デートだから無理だったが。


 そんな事を思いながら赤川を見つめていたら、ふと目が合う。


 ここに来るまでも何回も目が合ったが、その度に俺の心臓に負荷がかかる。


「食べる?」


 ポップコーンを欲しがってるように見えたのだろうか。

 ちなみに俺は途中でトイレに行きたくないから、飲食物は何も買っていない。

 せっかくだから少しもらおうか。


「ああ」


 赤川の持つポップコーンに手を伸ばす……前に、赤川手が俺の口元に伸びる。


「あ、あーん」


 ちょっと待ってくれ、本気で俺を殺しに来ているな。

 赤川は露骨に目を逸らす。

 無理してやってるな。

 ならば応えてやらねば。


 赤川の指でつままれたポップコーンを口で受け取る。

 少し唇が指先に触れたような気がするが、気のせいだ。気のせいだということにしておこう。


「ありがとな」


「うん」


 俺の手を握る赤川の手が、少し力を強めた。






 恋愛に関する創作物に触れるのは初めてだ。


 登場人物の心情を見ると、こいつら色々考えてるんだなと感心してしまう。


 好きな人に『好きだ』と伝えればいいだけなのに、そこには色々な感情が渦巻いていた。

 俺はついこの前まで恋愛を簡単に考えていたが、今なら分かる気がする。


 恋愛はとても難しい。


 『好きだ』のたった一言を伝えるのさえ、相当の覚悟がいるんだろう。






 そして、クライマックスのシーン。


 主人公がヒロインにキスをする場面だ。


 赤川の手が俺の手を強く握りしめた。


 それに応えるわけではなく、俺の手も自然と赤川の手を強く握りしめていた。





✳︎✳︎✳︎





「何か、凄かったな」


 感想になってない感想。


「うん、凄かった」


 特にキスのシーンな。

 あんなに長時間やるのか。息続くのかアレ。


「この後どうしよっか」


 時間はお昼時だ。


「お前、腹は減ってるか?」


「ううん、あんまり。喫茶店で食べたし、ポップコーンも食べたしね」


 そうか。俺もあんまり腹は減ってない。


「西口は行きたい所ないの?」


 俺の行きたい所……。

 そうだ。赤川とやってみたい事があった。


「体動かさないか? ボウリングとか」


「あ、いいわね」


「じゃあ行くか」


 俺が歩き出すと、赤川はようやく俺の手から手を離した。

 ずっと手を繋いでたから、さすがにもうドキドキはしていないが、離してしまうのか。

 ちょっと寂しい。





 すると、赤川が自分の腕を俺の腕に絡ませてきた。


 距離が一気に近くなる。


 手を繋ぐよりも色んな感触を感じる。


 主に柔らかい感触。


 そりゃ人間の身体だったら大体の所は柔らかいのだが、特に柔らかい所が俺の身体に触れる。

 

 それに、いい匂いもする。


 いつも以上にいい匂いだ。


「香水とかつけてるのか?」


「あ、気付いてくれたんだ」


 赤川がはにかんだ笑顔を見せる。


 くそ、女神か。


 俺たちは腕を組みながら目的地まで歩く。


 やっぱり、あまり会話は弾まなかったが。

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