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エピローグ 俺の彼女

 1年の時に仲良くなった女友達の赤川だが、今年のクラス分けで別々になってしまった。


 話す機会が少なくなるのは寂しい。


 そこで、俺は手料理を食べてもらおうと考えた。


 なんでもいいから、赤川に日ごろの礼がしたかった。


 そこで、女子の意見を貰うべく部活中に梅咲に聞いて見る事にした。


「なあ、梅咲」


「何? 西口くん」


「女子に贈る手料理って何がいいと思う?」


「ええっ、西口くんって……その、彼女さんがいたの?」


 彼女……?


「いや、友達だ」


「そっか……ビックリした……」


 梅咲は大袈裟に胸を撫で下ろす。


「それで、何がいいと思う?」


「うーんと……」


 ボウルの中身をかき混ぜながら頭をひねる。


「女子とか関係なく……その人の好物が……いい、と思う」


「好物か。あいつの好物ってなんだろうな」


「その人の……名前は?」


「赤川理恵だ」


「赤川さん……私は知らない人だね」


「本人に聞くしかないか」


「……だね」


 それから何度も聞こうとしたんだが、なんだか気恥ずかしくて、ずっと聞けかなかった。





 ある日突然、梅咲が情報を持ってきた。


「赤川さんは、プリンが好き……なんだって」


「へえ……。なんでお前が知ってるんだ?」


「今日……会ったの」


「え、どういう経緯で?」


 梅咲は人差し指を立てて口元に当てる。


「……秘密」


「……そうか」





✳︎✳︎✳︎





 そんなやり取りがあったのも、もう1ヶ月以上前。

 俺はあの日からプリンの研究に勤しんでいた。

 赤川に贈るに相応しい赤川専用プリンを。


 まさか、恋人になってから贈る事になるとは思わなかったがな。


 思えば、あの時から既に赤川の事が好きだったのかもしれない。俺が無自覚だっただけで。






 早朝に起きて、弁当の準備を始める。

 今日のデートはピクニックにした。

 理由は、俺の手料理を食べて欲しいからだ。


 赤川専用プリンは昨日作って置いたから、今は唐揚げとかウインナーとかの準備。

 後はたくさんのサンドイッチを作ってバスケットに詰め込む。

 ピクニックといったらサンドイッチ、というイメージが俺にはあるが、間違ってないよな。多分。





✳︎✳︎✳︎





 ピクニックに行く公園は、電車でそれなりにかかる距離の大きな公園だ。

 駅で会って一緒に行く事にした。

 朝の8時に集合にしたが、やっぱり1時間前に来てしまった。


 だって、楽しみだったんだもん。

 だもんってなんだ。完全にテンションがおかしくなっている。


 とはいえ、2度目のデートだ。

 前回ほど緊張はしないだろう。

 彼氏としてしっかり振る舞うぞ、俺。


「西口、お待たせ」


 お、来た来た。

 俺の彼女が来た。


 ほら、こんなに心の余裕があるじゃないか。

 大丈夫、大丈夫。


 さて、赤川のお姿を拝見するか。


「どう……かな……?」


 ……くそ、なんだこれは。


 もはや俺の彼女は人間を超越してしまったのか。


 このかわいさは反則だ。


 人間国宝レベルだ。


「な、何とか言いなさいよ」


「きゃわ、かわいいぞ」


 噛んじゃった。


 誰だ、心の余裕があるとか抜かしたやつは。もういっぱいいっぱいじゃないか。


 ふんわりしてそうな白いブラウス。


 下は薄手のジーンズにスニーカーと、動きやすそうな服装だ。


 麦わら帽子もよく似合っている。


「ありがとう」


 パっと満面の笑みを浮かべる。


 朝の日差しによってより一層輝く。


「……かわいいな」


「もう、2回も言わなくていいわよ」


「お前がかわいいのが悪い」


「ちょっ、何よそれ……よくそんな恥ずかしい事言えるわね」


「自分でもビックリだ」


 綺麗な赤髪をいじりながらジトっと俺を睨みつける。


 くそ、ありがとうございます。





✳︎✳︎✳︎





 予定より大分早く、7時くらいに乗ったわけだが電車内にそれなりに人はいる。

 席は2人分空いてたので、無事に座れた。


「バスケット、大きいわね」


 俺がひざ元に抱えるバスケットを見ての感想。


「たくさん詰め込みたかったからな」


「私もお弁当持ってきたけど、食べきれるかな」


「夕方になればまた腹は減るんじゃないか」


 それにしても、この距離。


 近い。すごく近い。


 肩とか思いっきり当たってる。


 すると、微かに指先が赤川の手に触れる。


 くそ、手繋ぎたい。


 だが、さすがに電車内でそれはな……。


 俺は中時間の電車内、ひたすら己の欲望と闘い続けた。

 理性という名の剣を持って。





✳︎✳︎✳︎





 公園には昼前に着いた。


「わあ、広い!」


「だな」


 一面、緑一色。

 今日は快晴。

 もう夏に入ったから暑いが、それでも清々しい気分になる。


 持って来たレジャーシートを広げる。

 姉貴に借りた花柄のレジャーシート。

 緑にマッチしているな。


「ふ~」


 赤川がシートの上で仰向けに寝転がる。


「あ、眩しっ」


 上体を起こす。

 その様子に思わず吹き出してしまう。


「笑ったでしょ」


「まあな」


 赤川がおもむろにスマホを取り出す。

 パシャリ、とカメラを撮る音。


「おい、何するんだ」


「西口の笑顔って珍しいから」


「そうか?」


「そうよ」


 満足げにスマホの画面を眺める。

 これ、俺の笑顔を待ち受けにしたりするんだろうか。


 いやいや、流石に自惚れ過ぎだろ。


「腹減ってるか?」


「ううん、まだ」


「じゃあ、どうするか」


「お喋りしない?」


「ああ」


 赤川の隣に腰をかける。


 ……もう、手繋いじゃっていいよな。


 そっと自分の手を赤川の手に重ねる。


「……」


 赤川は何も言わずに握り返してくれた。


「あのさ」


「ん?」


「西口は、私のどんな所が好きなの?」


 ……そういえば、なんだろう。


 うーんと……。


「一生懸命な所、だな。掃除当番とか、みんなが手を抜きがちな事もちゃんとやってただろ」


「ふーん、そうなんだ……」


 なんだこれ、恥ずかしいな。


「お前はどうなんだ? 俺のどんな所が好きなんだ」


 今まで色々あり過ぎてちゃんと考えてなかったが、赤川はどうして俺を好きになったんだ?


 俺なんて大した魅力もないのに。


「私の事、怖がらずにいてくれるから」


「……それだけか?」


「うん、それだけ」


 意外とあっさりした理由だった。


 そんな事、俺にとっては当たり前の事だ。


 むしろ、周りの奴らが赤川をよく見れてないだけだ。


「それだけだけど、私にとっては大きな事なのよ」


「そうなのか」


 人の気持ちっていうのは分からないものだ。


 赤川と一緒に過ごしただけ。

 

 何の変哲のない会話をしただけ。


 たったそれだけで、赤川は俺の事を好きになってくれて、俺は赤川の事を好きになった。


 そして、恋人になった。


 俺はものすごく幸運なのかもしれない。


「……ランチの後にと思ったんだが、温くなるかもしれないからな」


 というのは言い訳で、一刻も早く渡したくなった。

 俺はバスケットの奥にしまった例のものを手探りで探す。


「お前のために作った」


 小さいカップのプリン。

 菓子はあまり作った事ないから、兄貴に教えてもらった。

 パティシエの専門学校に通ってる兄貴の監修なら、まずいという事はないだろう。


 ……いや、何を甘えた事を言っている。


 彼女への贈り物だぞ。


 美味しくないとダメに決まっている。


 大丈夫。これは俺の自信作だ。


 美味しいと感じてくれるはず。


「プリン? すごい」


「お前、好きなんだろ」


「うん、お菓子の中では特に。でも、なんで知ってるの?」


「え、えっと……前に言ってたじゃないか」


 本当は梅咲に教えてもらったが、わざわざ相談してた事を知られるのは恥ずかしい。


「私、言った? ま、いいか」


 用意したスプーンで俺のプリンを掬い取る。


 プルプル震えながら口に運ばれていくプリン。


 任せたぞ、お前なら出来る。


「……」


 モグモグする赤川かわいい。


「……」


「ど、どうなんだ」


「えっと、なんていえばいいのかな。感動した」


 感動?


「その、彼氏が作ってくれたと思うと、すごく嬉しくて、感動した」


 ……味の感想が欲しかったが、赤川はとても幸せそうだった。


 その笑顔を見てると、俺も幸せになる。


「キャラメルが濃厚でおいしかったわよ」


 味の感想も言ってくれた。


「隠し味とかあるの?」


 隠し味……。


 強いて言えば、俺の愛、だな。


 ……なんて言えるか馬鹿。


「いや、正統派のプリンだ」


「そうなんだ」


 赤川は次々とプリンを口に入れる。

 

 その姿がとても愛おしくて、ついつい頭を撫でた。


「赤川、俺を彼氏にしてくれてありがとう」


 赤川は綺麗な瞳をこちらに向ける。


「西口、私を彼女にしてくれてありがとう」


 そして、俺達は……。










 甘い口づけを交わした。




 

 

 書き終わった感想の前に告知です。


 この後、おまけを少しだけ投稿します。

 おまけは、書きたかったけど本編の流れ的に蛇足だと判断したものや、本編のイメージとそぐわないエピソードなのでエピローグの後にすぐに読むのはオススメしません。

 あくまでおまけ、という事で。


 さて、書き終わった感想です。

 イチャイチャシーンが書いてて1番楽しかったです。やっぱり自分は恋愛小説というジャンルが合ってるんだと再確認しました。

 反省点としては、シリアスシーンが連続し過ぎかなと思いました。

 今までの作品もですが、自分は作品のテーマをシリアスシーンに詰め込み過ぎなのかなと感じました。

 間に、ほのぼのシーンとか混ぜないと読者を過度な負担を与えてしまうと、自分で読み直して思いました。

 1番大変だったのはデートシーンです。だって、作者はデートなんてした事ないからね。


 最後に、読者様からご指摘など頂けると今後に活かせます。よろしければ感想、評価などよろしくお願いします。


 ここまで読んでくださって、ありがとう御座いました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 料理の得意な西口君が、赤川さんのために、 プリンを作ってあげて、それを喜んで 食べるシーンからの、二人のありがとうの会話が、 とても良いですね。 シリアスといってもギスギスした感じはなく …
2020/05/06 16:14 退会済み
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