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襲来!

ハジメは畑に来ていた。ドナルドとラリーが土を耕している。

「ジャガイモがだいぶ育ちましたね!」

「ええ、この調子なら一月半もすれば収穫できると思います。」

「それは楽しみですね。こっちは新しい畑ですね?」

「はい、こちらには、さっきの遠征で買ったニンジンを植えます。こっちは、少し小さいですがスピニッチを植えます。」

「ニンジンって、収穫はいつになるんですか?」

「これは今植えると、真夏にとるようなことになりますね。スピニッチも夏には食べられますよ。」

「じゃあ、秋にはだいぶ食卓が豊かになりそうですね。」

魔法の効果で作物はすくすく育ち、収穫はやや早い。また病気もある程度防げているようだ。ハジメはここ最近栄養バランスを心配していたので、野菜が安定して手に入るのはありがたいことだった。ちなみにスピニッチがほうれん草の類だと知るのは少し後のことになる。

堀も順調に進んでいた。ダネルとハジメはすぐに森側に門や柵を建てた。作業場所の近くでは、ラリーの妻、ブレアがレンガを作っている。ブレアは土魔法を使えるが、アイザックたちのように掘ったり積んだりするような大きく形を変えることは得意ではなく、凝縮して固めることが得意だった。そのため、レンガを量産し、建築に使えるようにしたのだ。アイザックたちの土魔法で壁などは作れるが、小さな物づくりには向かないし、密度もそれほど高くない。

ブレアのレンガを使って、作っている物がいくつかある。

「旦那!バーバラ!こんなもんでどうだ!」

ダネルの声が響く。

「おー!立派じゃないか!」

バーバラの家の一角にレンガでできたかまどが作られた。バーバラは中や高さを確かめながら。

「上々ね!助かるわ!」

「旦那、これで次は俺の番だな!」

「ああ、鍛冶場の建設を始めよう。」

「よしきた!」

ダネルは張り切って、作業に取りかかる。まだ鉄鉱石は見つけていないが、これから必要になるものだし、何よりダネルのモチベーションにも関わるので、作ることにした。


人員が増えたことで、時間に余裕ができた。そのおかげで、ハジメは戦う修行を始めてみようと思えた。理由はこの一月、建築系の作業を頻繁に行っていたことで、今まで1だったステータスが2に上がったのだ。

(たぶん、戦闘スキルも訓練すれば3に上がるはずだ!)

戦闘の訓練はブレイクにお願いした。ブレイクは戦闘スキル12の達人で、傭兵をやっていたようだ。

「よろしくお願いします。」

「お怪我なさらぬように。」

15分後、ハジメは動けないほどこてんぱんにやられていた。

「領主様、失礼ながら、領主様は戦いよりも他に秀でた才能があるのかと……」

(戦闘センスなしってことか…)

「はい、そうかもしれないですね。」

(たぶん、スキルの伸びには得意不得意があって、俺は戦闘向きじゃないんだな)

ブレイクが達人である分、その目利きは間違いない。こうして、ハジメのチート能力無双の夢は完全に途絶えた。

(クロエが帰ってきたらヒールしてもらおう……)


1週間が経ち、新たに家を二軒建て、堀も7割方完成していた。それ以外にも鍛冶場ができ、井戸の建設も進んでいた。井戸の堀り方に関しては、ブレイクが知識があり、土魔法がなくてもそれなりに堀り進めることができていた。

ハジメは、ニックの骨細工作りを手伝っていた。

「ニックは手先が器用だよね。どこでこういう作り方を学んだの?」

「ぼ、ぼくのおばあちゃんが、得意で……色々と教えてもらったんだ……」

「おばあちゃんに教えてもらったんだね、他にはどんな物を作れるの‐」

そのとき、外から悲鳴が聞こえた。飛び出すと、ダネルが棒を持って、走っていくのが見えた。咄嗟にそれを追いかける。すると、肉の燻製器の周りに5、6匹の狼とブレイク、尻餅をついているパロマがいた。

狼は唸りながら、ブレイクの周りを囲む。膠着状態に見えたが、ダネルが飛び込んだことで狼は陣形を広げた。

「気を付けろ!黒いのは魔獣だ!」

ブレイクがダネルとハジメに叫ぶ。狼の中に一匹だけ黒くて大きな個体がいる。恐らくこれが魔獣だ。

「領主様は隠れていなされ!」

「そんな訳にはいきません!」

「……では、せめてこれを!」

ブレイクは自分の持っていた剣をハジメの方に投げた。それを見た直後に魔獣が一吠えすると、二匹の狼が丸腰のブレイクに飛びかかる。ブレイクはすぐに近くにあったナイフを持ち、応戦する。

「このいぬっころめ!」

ダネルは、離れた一匹の狼に棒を振るが、ひらりとかわされてしまう。ダネルの背後から別の狼が飛びかかるが、ダネルは棒を盾にして、やりすごす。狼の連携にダネルもうまく立ち回れていない。

(俺一人じゃ剣を持ってても足手まといだ。クロエも狩りでいない……なら……。)

ハジメはダネルの元に駆け寄る。そして、背中合わせに立ち、ダネルの後ろを守る。

「ダネルさん!背後はなんとかするので、一匹でもどうにか!」

「助かる!」

ダネルは、目の前の狼に突きを放つ。ダネルの背後にいる狼は、ハジメを警戒して攻撃してこない。

(俺にできるは、ここを守れるように見せかけるだけだ!だから攻撃をしてこないように、警戒させ続けろ!)

ハジメは、剣の切っ先を狼に向け、さもこれから切りかかるような雰囲気だけを出していた。そうしている間に、ダネルの突きが狼の脇腹に当たる。狼はひるみ、その間に頭に一発重い一撃が入る。それを見て、さすがにもう一匹も飛びかかる。ハジメはなんとか剣で防ぐが狼の勢いで後ろに倒れる。ダネルが狼を蹴り飛ばし、首を薙ぐように叩く。狼は倒れたが、ハジメの腕や太ももには狼の爪で深く切られている。

「旦那!」

「大丈夫だ!ブレイクさんの加勢を!あとこれを!」

ダネルは不安そうな顔をしたが、ハジメから剣を受け取り、ブレイクの方に向かう。

ブレイクは、狼3頭を相手にナイフで均衡を保っていた。しかも、背後の少女を守りながら。そこにダネルが剣を降って入る。狼は後ろに跳び、1度距離を取る。

「ほら、これはあんたが使え!」

ダネルは剣をブレイクに渡す。

「助かる。娘は任せた。」

ブレイクは3歩前に出る。そして剣を構えると、狼に切りかかる。刀身は赤く、熱を帯びている。魔獣は一撃で腹を裂かれ、血の海に倒れる。大将が切り伏せられたのを見ると、残りの2匹は森に走り去った。凄まじい剣技にダネルは呆然と見とれる。

「俺らの加勢はいらねーじゃんか。」

「いや、来てくれて助かった。その娘を守りながらでは、こうはいかなかった。」

ブレイクは剣の血を布でぬぐう。

幸いなことに、パロマは怪我をしていなかった。燻製用の肉を運んでいるときに、狼に気づいて悲鳴を上げたとのことだった。ハジメは、事態が落ち着くと少しずつアドレナリンが切れ、痛みを感じだした。ベンチに座り、傷口を押さえながら、クロエを待った。ドナルドたちはすぐに森の中のクロエを探しに行き、10分ほどしてクロエはハジメのもとに来た。ヒールをかけてもらい、ハジメもなんとか助かった。

夕食はすこししんみりとしていた。

「肉が全部食われてなくてよかったな。」

「ああ、早くにパロマが見つけてくれたから、少しの被害で済んだんだ。」

「それに何よりブレイクのおやじがそんなに強いなんて知らなかったぜ!みんなに見せたかったくらいだ。」

「ダネル殿と領主様の助力あってこそだ。」

「いえいえ、ホントにブレイクさんがいなければ、どうなっていたか。」

「妹をありがとうございます!明日から、大急ぎで堀を作ってすぐに完成させます!」

アイザックは涙目で感謝を述べていた。

(今回は被害者がいなくてラッキーだ。ラッキーだっただけだ。ここは危険と隣合わせだってことを忘れてはいけない)

狼に襲われ、命の危機を感じたハジメは、改めて村の防衛の重要性を思い知った。

翌日からは、堀の完成を第一とし、作業に取り組んだ。そのおかげで、5日後には、バルヴェニ村をぐるりと囲む深い堀が完成した。馬車道側の門には大きく「バルヴェニへようこそ」と書かれた看板を建てた。

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