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山麓の村

翌朝、ドナルドとクロエは大荷物を持って出かけて行った。4日分の食料を入れてはいるが、どこかの村にたどり着いたら、入植者を勧誘するとともに、帰り道での食料も買うために、お金も持っている。1番容量を取っていたのは、木の棒と板だった。これを使って、道中に看板を立てていく。内容はこのコロニーの場所と入植者募集。そして、看板が目印になるので、ドナルドが望んでいた開拓も進む。

残留組の仕事は大きく分けて2つ。1つはコロニーの周りにぐるりと堀を作る。塀は主にアイザックとデュアンの魔法で地面を3mほどえぐり、内側には腰ほどの高さの柵をつける。これなら、侵入の危険をそれなりに防げる。

もう1つは、製材だ。ゆっくりとしたペースで伐採と製材を続ける。堀からの門や柵に木を使うので、大量に木材がひつようとなる。また、新規の入植者のための家の材料にもなる。

ハジメは休憩時間に堀の様子を見に行く。

「お疲れ様。なかなか深くできてるな。」

「はい、地盤はしっかりしてますので、このくらい掘っても問題なさそうですね。」

「そうか、こっちの森側に堀ができると、ずっと安心感が増すんだ。よろしく頼む。」

「はい!」

アイザック兄弟とニックが作業を頑張ってくれているので、4日もすれば、森側の堀は完成しそうだ。

ベンチ(寝かした丸太)に座っていると、ダネルが水の入ったコップを持ってやってきた。

「明日は、俺が猟に行くから、今日のうちにこっちも進めておくんだろ、旦那。」

「ありがと。そうだね。クロエが出ている分、ダネルさんの狩りの腕が頼りになるんだ。」

「まぁ、戦士のクロエを護衛に出すのは分かるとして、なんでドナルドのおやじを行かせたんだ?体力のある俺が行けば、少しは早く着くと思うが。」

「確かに、ドナルドさんにはきつい旅だけど、勧誘するとなると社交性の高いドナルドさんが適任だと思ってね。」

「あ~!確かに、俺には話し合いなんて向いてねーからな。ははは!」

ダネルは豪快に笑う。

「それにダネルさんとクロエのどっちもいないとなると、ここの防衛力がぐっと下がるので。」

「そうだな、看板を立てちまったら、あぶねー連中まで案内することになるからな。」

「うん、動物や魔獣だけが危険なわけではないからね。」

「まぁ、いろんな考え事は旦那に任せる。肉体労働は任せてくれ。」

「頼りにしてますよ。」

休憩は、二人で門の枠組みを作った。


翌日の作業中に、パロマがハジメのもとにやってきた。手には何か紙のような物を持っている。

「ハジメ様、先ほど、あの赤い連絡鳥が飛んで来て、これを。」

「ありがとう。遂にきたか。」

パロマが指差す方を見ると、ドナルドとニックが住んでいる家の屋根に鮮やかな朱色のカラスのような鳥が止まっている。パロマから受け取った手紙には、グランリベット王国のものとみられる刻印がしてある。中を見ると、「近況を報告したまえ。」とだけ書いてあった。

「返信期限がわからないから、とりあえずすぐ書くか。」

ハジメは作業をやめて、手紙を書いた。狩猟と採取で生活し、家を建てたこと。3人の入植者が増えたことを書いた。鑑定魔法のおかけで、字が読み書きできるのが助かった。

手紙を書き終え、連絡鳥に渡すと、鳥は太陽の方向に飛んで行った。

(こんなに鳥が賢いのも魔法なのか?)


さらに2日経つと、食料の不安が出てきた。遠征組に多目に食料を渡したので、在庫は心もとない。ベリーも近くの物をとりつくしてしまい、本格的に狩猟生活が中心になりそうだ。そこでハジメはダネルと相談し、川魚を捕まえる罠を仕掛けることにした。

「ただな、こればっかりは技術云々より運だな。」

枝で組んだ筒状の罠を5つ作り、川に仕掛けた。これのおかげで、2日に一辺ほどの頻度で、数匹の魚を得た。1食分のスープにはなったので、それなりの効果があった。この川魚の担当はしばらくはダネルが猟の間にハジメがやることになりそうだ。

それとアイザック兄弟の土魔法を使い、トイレの中身を地中で移動させ、同時にトイレの穴を1つ増やした。今後のことを考えると、水道を整備し、トイレも水洗にしたい。


そして、遠征から6日目の夕方。ドナルドたちは帰って来た。それも行商人の馬車に乗って。

「やぁ!おかえり!行商人さんと一緒なんて驚いたよ!」

「たまたま昼過ぎに出会って乗せていただいたんですよ。」

「それはよかったですね。……でどうでしたか?」

「はい、この通り。」

ドナルドが馬車の荷台を示す。そこにはクロエの他に4人の人が乗っていた。挨拶をし、テントに案内した。新しい入植者はラリー、ブレア、ミゲルの家族とブレイクという男だった。ラリーとブレアはダネルほどの年齢に見え、農家をしていたらしい。ミゲルは7歳で、ヒューゴの友達になれそうだ。ブレイクは50歳ほどで、髭が印象的だ。これで全部で14人となり、一月ほどでここまで増えたのは幸運である。行商人からはいつも通りパンなどを買い、骨の細工を売った。

「それで、おじさん。買いたいものの注文ってできますか?」

「あぁ、可能な範囲であれば、努力はするよ~。」

「例えば、馬、それか羊とかの家畜がいいんですが。」

「う~ん、馬はどうにかなるかもしれないけど、若い馬だと1頭で20000、いや22000ゴルドはかかるよ~?」

「そ、そうですか……厳しいですね…」

「羊ならもっと安いだろうけど、ここまで連れて来るのが大変だからねぇ~。」

(家畜はまだ無理か…)

「あ、それとさぁ、ここの名前は決まっているかい?紹介しようにも名前がないと不便でさぁ~。」

「まだ決まってなくて…」

「じゃあさ、明日までにとりあえずでいいから決めててよ~。おじさん、今日はここで一休みしようと思うからさ。いいかな?」

「はい、どうぞ。ゆっくりしていってください。」

行商人は馬を近くの木に繋ぎ、キャンプの用意を始めた。

(ここの名前か…みんなと相談だな)


夕食では、新たな面々の自己紹介とともに、旅の詳細を聞いた。

「‐それで、ミラー一家ラリーたちとブレイクさんを元いた、スプリングバンクス村の領主との交渉で1日使いましたね。」

「まぁ、簡単には出してくれないですよね。」

「最後は、家の家具を置いていくことで、出ることを許可してもらいました。」

「ケチな領主ですことねぇ。」

「まぁ、あれより悪いのもいくらでもいるんだ。」

「それに比べてここは驚きですよ。」

ラリーが話す。

「税もなければ、契約もない。自由な集落です。すばらしい!」

アイザックたちも頷いている。

会話も落ち着いた頃にハジメは話し始めた。

「みんな、そろそろここの名前を決めようと思うんだけど」

「いいですね!私も名前がほしいと思っていました!」

「うん、で、ば、バルヴェニ、なんてどうかな?」

しばしの沈黙。このように自分で考えた名前をつけるというのは何か気恥ずかしい。なおさら、異世界人のセンスと自分のセンスは違うのではないかと不安になる。

「だ、ダメだったら、他の案を‐」

「いいんじゃないでしょうか?」

「うん、バルヴェニ。ここの立地によく合ってますよ!」

「響きも悪くねーよな。」

「じゃあ、これからここはバルヴェニ、そうしましょう!」

ハジメが、明るくそうまとめると、みんな自然と拍手をした。

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