土魔法の力ってすげー!
コロニーに家ができて2日後の朝、目覚めたハジメは、伸びをする。
(やっぱり家っていいなぁー、早くみんなの分の家も作らないとな!)
家から出ると、みんな元気に挨拶をしてくれる。大きな瓶から水を取り、布を濡らして、顔を拭いた。風が心地よい。
「おはよーございまーす!」
ヒューゴは元気に声をかけてくる。
「やぁ、おはよう。調子はどうだい?」
「うーん、昨日よりは元気!はい、これ朝ごはんです!」
「ありがと。」
ヒューゴは、燻製肉と野草の入ったスープを持ってきた。もちろんおいしいが、やはり炭水化物がほしい。
(ジャガイモができるまで、あと2ヶ月はかかるって言ってたしなぁ……今日こそ商人のじいちゃん来ないかなぁ)
ここ数日は、毎日今日か今日かと行商人が来るのを待っていたが、なかなか現れなかった。
午前の主な仕事は製材と家の基礎となる石集めだった。新しい家を建てる予定地はもう決まっていたが、昨日は少し雨が降ってしまい、作業が進まなかった。今日は基礎造りまで終わらせたいと思っていた。
基礎のための石を集め終った頃、パキパキと枝を折る音が聞こえた。一定のリズムで軋む車輪の音に目を向けると、待ちに待った行商人の来訪だと分かった。
「どうも~、アイラ商会でーす。」
「やっときたか!みんな一旦作業を止めましょう。」
建築作業をしていた男たちだけでなく、バーバラも手を拭いて、向かってくる。
「どうも!また来てくれてありがとうございます」
「いえいえ、これから永い付き合いになるかもしれないからねぇ。」
愛想よく行商人のおじいさんは応える。
「それでね、商品を見る前に、まずは、こちらの方たちを。」
そう言って馬車の荷台を開けると、中から、若い男2人と若い女1人が出てきた。
「こ、こちらは?」
「前に言ってたでしょ?」
「え!?もしかして……」
「はい、こちらの村に住まわせてもらおうと思ってきました!」
男の一人がハキハキと言った。
「村なんて呼べたもんじゃないけど、もちろん大歓迎ですよ!」
「ありがとうございます!俺はアイザック、こっちの無口な男がデュアン、それとパロマです。よろしくお願いします!」
3人は頭を下げる。
「一応ここの領主になります。ハジメです。よろしくお願いします。まずは荷物を下ろしましょう。ダネルさん、お願いしてもいいですか?」
「おうよ。」
3人はダネルと荷下ろしをした。
そして、今回の交易では、ニックの作った骨飾りと、動物の皮、乾燥ハーブ(バーバラ製)を売った。2000ゴルド近くの値になった。代わりに、パンを15本、塩一袋、それに釘とロープなどを買った。
行商人にお礼を言い、また来てもらうことと、コロニーの宣伝をお願いした。ついでに木の実も一掴み分ほど渡した。
行商人を見送ると、昼ごはんにしながら、アイザックたちがここに来た経緯を聞いた。
アイザックたちは兄弟で、住んでいた村は戦争でなくなってしまったらしい。王都に難民として向かっていたときに、行商人と出会ったそうだ。3人の持ち物は衣服とナイフ、本、ランプ、それに少しの食料とお金だった。お金と食料はこのコロニーに寄付してくれた。3人にはとりあえず、ハジメが使っていたテントに住んでもらうことにした。
午後の作業に入るときに、アイザックとデュアンを建築予定地につれていき、これからの家を建てることを説明した。
「アイザックはどう思う?」
「……うーん、そうですね……この丸太を柱にして、あとは土壁にすれば、2日もあれば、形になるかと。」
「2日!?そんなに早くできるのか?」
「たぶん、ですけどね。」
(さすがは大工の家の出だな!)
アイザックたちの両親は大工をしていた。アイザックとデュアンはその手伝いをしていたので、建築に明るい。二人の建築スキルは11と高いのもそのせいだろう。さらに。
「じゃあ、ここに基礎を置きましょう。」
アイザックとデュアンは基礎となる石を並べると、地面に手を当てた。すると、石は地面に飲み込まれるように沈んでいく。
「土魔法ってこんなにすごいのか!」
ハジメが二人のステータスを初めて見たときから期待してた通り、土魔法は建築にはもってこいだった。穴を掘って基礎の石を埋めることは手間も労力かかる。それがこれならすぐに終わる。そして、全員で協力しながら、すぐに骨組みを建てた。そして、アイザックたちはまた手をかざすと、柱と柱の間の土が盛り上がり、壁ができた。四方の壁を積み上げると、二人は手を止めた。
「すみません、ここでストップでいいでしょうか……もう魔力が……」
アイザックとデュアンは息が上がっている。
「あ、ああ!十分だよ!」
ハジメが二人の状態を見ると、さっきまではなかった「魔力消耗」という黄色の文字があった。
(魔法を使いすぎるとこうなるのか)
夕飯を食べ終わる頃には、アイザックとデュアンは元気になっていた。しかし、まだ魔力消耗の表示は消えず、魔力の回復にはそれなりに時間がかかることが分かった。
その日の夜、遠くにオオカミの遠吠えを聞きながら、ここには来ないでくれと願うことが日課になっていたハジメ。
(魔獣や野盗の襲撃に備えるために、武器の生産が必要だよな……いや、簡易的でも柵か壁を建てるのもいいよな、アイザックたちがいればそんなに時間はかからないだろう。でも、まずは家の完成が先か?)
ゲームであれば試行錯誤の末、最善手が考え付くが、ここは現実世界。気軽にトライ&エラーで答え探すわけにはいかない。この前のダネルの不調で、ハジメの危機感は一層高まっていた。
ハジメは、寝袋に入ろうとしたとき、ドアをノックする音が部屋に飛び込んだ。ゆっくりとドアを開けると、そこにはクロエの姿があった。
「お休みのところすみません。お時間よろしいでしょうか?」
「…よ、よろしいです。」
クロエを椅子に座らせ、ロウソクがわりの魔石に火をつけ直した。突然の美少女の訪問でドギマギするハジメ。普段はなんともなく話すことができるが、こんな夜中に一人で家にやってこられては、何かを想像してしまうのは仕方ない。
「こんな時間にどうしたの?」
「はい……実は、ご相談が……」
(な、なんだ、前から好きでした的なことか?いや、「領主様にご奉仕を」みたいな?)
「何か困ったことでもあったとか?」
「いえ、そんなことでは……しかし、私ごときがこんなことを言うのは差し出がましい気持ちで……」
「大丈夫だよ、なんでも言ってみてよ!」
(よしきた。これはそういう提案だ!)
「……はい、実は……」
(よし、こい!)
「新しい方たちと契約はなさらずともよろしいのでしょうか!」
「……え?」
「ですから、アイザックさんたちに何かしらの指輪契約で制限をつけなくてよろしいのでしょうか?」
「あ、そういうことね。」
ハジメは少し浮いた腰を気づかれないように椅子に落とした。クロエの話では、新しい人たちが契約がないままでは、何かと不便だし、怪しい考えがないかを調べるためにも契約をしておくのが世間では常識とのことだった。
「保険はあった方がいいかと思って……」
「確かに、クロエの言う通りだね……でも、うーん、いいかな。契約は。」
「……やはり、ハジメ様はそう考えるのではないかと思ってはいました。お優しいですからね。余計な提案をして申し訳ありませんでした。」
クロエは苦そうな顔で頭を下げた。
「ううん、むしろ助かるよ。俺はここの常識が分からないし、これからも何か気づいたことはどんどん言ってほしいよ!」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて心が軽くなりました。では、お休みなさいませ。」
「ああ、おやすみ。」
ハジメはクロエを見送った。クロエの提案は至って全うであったがハジメが断ったのは、決して肩透かしを食らったからではなく、そこまでする必要を感じなかったからだ。この世界の契約は非常に強大な力をもつ。それを簡単に行使することには懐疑的であった。