それぞれの役割
食事が済んだ頃に、ハジメはみんなに話し出した。
「これから、明日からの動きについて話したいんだけど、その前にそれぞれが自分ができることを話してほしいんです。」
(俺だけ鑑定魔法で知っておけばいいかとも思っていたけど、これから協力することを考えたら、共有してた方がいい情報だ)
「まず、俺は鑑定という魔法を持っています。これは人や物の能力、状態を知ることができます。食べ物の安全性も確認できます。それと、実はかなり田舎の出で、この世界の常識をあまり知らない。だから、些細なこと聞くことがこれからもあると思うのでよろしくお願いします。」
「鑑定…珍しい魔法ですわね。」
「それで、私がヒール持ちだって分かったんですね。」
次にドナルドから話し始める。
「私は、元々農夫なので、畑仕事が得意です。栽培魔法と水魔法が使えるので、土壌改良や散水も可能です。」
「水魔法はどのくらいの量を出せますか?それとそれは飲めますか?」
「量を測ったことはありませんが、2ヘクタールほどの畑全体に水をまけます。時間はかかりますが。」
(2ヘクタールって…どのくらいだっけ?とりあえず結構広そうだな)
「魔法の水も飲めますが、それよりも、川の水を浄化した方が効率がよいかもしれません。それなら時間もかかりません。」
「浄化もできるんですね。」
(川の水もこれで飲めるぞ!)
「では、わたくしですわね。私は、しがない料理人ですわ。魔法は火と水です。水はドナルドさんより劣りますが、水の浄化もできます。火は種火を起こすくらいですわ。」
「料理人だったんですね。」
バーバラの次は、ダネルが話す。
「俺は鍛冶屋だ。ここじゃあ、鍛冶も出来ないし、狩猟と解体、力仕事を任せてくれ。魔法も鍛冶にしか使えない。」
「あ!じゃあラヴィの皮をどうにかできますか?」
「あぁ、魔獣でも動物でも何でもいけますぜ。ただなめすのは、道具がないとどうにも。」
「なめす…なめし革ってやつですね。」
ダネルは息子のヒューゴも簡単な手伝いをさせてくれと言った。そして、そこで魔法は15歳になってから指輪を与えられ使えるようになることを知った。
その後も、クロエは火とヒールが使える戦士、ニックは裁縫などもできる器用な青年であることが分かった。
また、みんなは、王都の出身ではなく、それぞれの村は戦争や魔物の襲来で壊滅し、なんとか難民として王都に逃れてきたが、当分の食料と寝床の提供の代わりに今回の領土拡大計画に協力することになったというのだ。
「魔物ですか?」
「はい、魔力が強い魔獣は魔物になります。魔獣は魔力を持ってしまった動物だと言われています。魔物と魔獣は話すか話さないかで分かれます。」
(話すのが魔物、話さないかのが魔獣か)
「いや、しかし、明日からは当面食料の確保が問題になりそうですな。」
「はい、ですので、ダネルさんとクロエには狩猟、バーバラさんには野草採り、ニックとドナルドさんには、水を運んでもらうのと、畑作りをお願いします。俺は使えそうな木材を集めます。」
「ハジメ様、まだ体の調子が悪いのですから、無理をしないでくださいね。」
「ああ、ありがとう。」
こうして、それぞれが役割を与えられ、明日に備えるようにした。ハジメは、テントでゆっくりとこれからのことを考えた。
(新天地での生活はこれからだけど、まだまだ欲しいものがある。コロニーシムで考えたら、まずは食料の安定供給、その次は、各種道具の生産、そして村の拡張のためには人員を増やさなきゃならない……ゲームだとバコバコと人を産むけど、実際はそうはいかない。そんで、トイレの紙とか水の安全とか魔法の限界とか、思ったよりも現実的で、どうにもゲームみたいに簡単にはいかないな……)
そんなことを考えている内にハジメは眠りに就いていた。
翌日、朝からみんなは働いた。ヒューゴも朝には、起き上がれるようになり、ダネルと共にハジメに礼を言いにきた。顔色も良さそうだが、あとは寝ておくように言った。畑にはジャガイモを植えることにした。本当は小麦を植えたかったが、ドナルドの話では、この地域には春に植える小麦はないとのことだった。それにジャガイモの方が、収穫が早く、管理もしやすいとドナルドに言われた。
狩猟に行ったダネルとクロエはウサギを4羽取ってきた。ついでに簡単な罠を仕掛けてきたそうだ。
午後には、ニックには粘土でツボ作りを頼み、ドナルドとハジメは木材を使って、建築を始めた。
「これは何を作るんですか?」
「集めてきた枝を使って、作業所に屋根を付けようと思うんです。」
「それはいいですね!」
「まずは台所になってる焚き火の近く、それにトイレ、あとは適当に屋根を設けておいて、何かのときに使えるようにしましょう。」
「はい、木を留めるには釘を使いますか?それともロープにしますか?」
「釘の方が扱いやすいですが、鉄は貴重なので、ロープにしましょう。」
こうして二人で協力しながら、小さな屋根を各所に取り付けた。しかし、枝を組んだだけなので、隙間も多く、雨を防ぎきることはできなさそうだ。それでも、何もないよりはましだ。
少しずつだが、軌道に乗り出したような手応えを感じ始めた。