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異世界に来たのに無双できないの?

見知らぬ土地で開拓任務を与えられたハジメが、まず何よりも最初に行ったのは……

「えーっと、みなさん、これからよろしくお願いします。俺はクニミ・ハジメって言います。」

荷物の前で手もちぶたさに立っている5人と1人の子供はキョトンとしている。

「……ボク、ヒューゴ!ヒューゴ・ライマン!」

小学生ほどの男の子が元気に答えてくれた。だが、ヒューゴの隣にいた筋肉質な大男は、バシリとヒューゴの頭を叩いた。

「コラッ、勝手にしゃべんな!」

男の子は、いっ!っと声を出し、頭を押さえた。

「い、いや、いいんですよ。ぜひみなさんも自己紹介してください。」

大人たちは戸惑っている様子だったが、年長者であろう50歳ほどの小太りの男が名乗り始めた。

「私は、ドナルド・リバーズです。」

ドナルドに続いて、ややふくよかな40歳ほどの女が甲高い声で話す。

「アタシは、バーバラ・スプライト。気軽にバーバラと呼んでいただいて結構ですわ。」

「僕は、ニック・ストーンです。」

細身の青年がか細い声で続いた。

一瞬の沈黙の後、ドナルドに促されて、若い金髪の女が名乗る。

「く、クロエ・マーティン。」

最後に大男が渋々名乗る。

「……ダネルだ。」

「ヒューゴくん、ドナルドさん、バーバラさん、クロエさん、ダネルさんですね。みんなで頑張っていきましょうね!」

名前は鑑定魔法で分かってはいたが、自己紹介をすることで、少しでも距離を近づけたいとハジメは思っていた。

しかし、シーンと静まり返る。風の音だけが聞こえるほどに。

(なんだこの空気は、ボケてもないのに滑ったのか?)

堪りかねてドナルドが口を開く。

「申し訳ありませんが領主様、我々は奴隷として連れらたものとして、覚悟していたので、その…なんというか、領主様の行動に驚いているのです。」

(そういうことだったのか。)

「我々は、過酷な労働や厳しい条件の契約を交わされることに怯えているのです。」

「いや、そんなことしないですよ。俺はただここでなんとか協力してみんなで生活していきたいだけなので、別に奴隷が欲しいわけじゃないので。」

(まぁ、奴隷って響きがなんか怖いし、抵抗感あるだけなんだけどさ)

「それは…なんとも……」

ドナルドは喜びにも困惑にも似た表情をしている。突然ダネルは話し出した。

「へっ!口ではなんとでも言えるぜ。どうせ俺たちが領主に逆らえないように契約されてることを知ってんだ。人気取りのためにいいように言ってんのさ!」

「ダネル。そんなこと言うもんじゃない。」

ドナルドが諭す。

「いや、いいんです。ドナルドさん。皆さんの境遇は分かりませんが、ここに連れて来られて不安だろうし、そもそもいきなり信じろっていうのも無理だと分かってます。」

「領主様……」

「だから、そんな領主様なんて呼ばなくていいし、ハジメでいいです。ここでみんなが生きるために必要なことにさえ協力してもらえれば、あとは自由にしてもらって、いいですよ。」

「ほ~ん、言ったな。じゃあ、俺らは好きにさせてもらうぜ。」

ダネルはわざとらしく、グッと顔をハジメに近づけ、嫌味ったらしく言った。

「はい、どうぞ。」

ハジメはできるだけ相手に反感をもたれないように、愛想よく、しかし堂々と言った。その反面心では。

(こんな出だしでホントに大丈夫なのか……?)

と、不安いっぱいだった。


ハジメは手始めに荷ほどきをした。御者が荷物を降ろしながら、何があるかを説明していたが、初めて見るものもあったので、なかなか覚えきれなかった。荷物を開けて、ハジメが手を着けたのはテントだった。

「最初に寝床を確保しましょう。食料はとりあえずの分はあるみたいなので。でもテントは4つだけみたいですね…」

テントの数が人数分ないので、荷物の木箱や布を素材に簡易的なテントでも作ろうかと考えていたとき、ドナルドが進言する。

「領主様、何か問題でも?」

「あ、さっきも言ったみたいに、領主様なんて、呼び方はやめてくださいよ。そんな身分でもないので。ハジメとか、せめてハジメさん、でお願いします。」

「は、はぁ、領主様の要望とあらば、従います。しかし、そうなるのであれば、ハジメさんも我々に対してそのように丁寧な言葉使いをしないで、いただけると、その…バランスが取れると思うのですが。」

「うーん、そうきたか…分かりました。できるだけ、フランクに話すようにし、するよ。」

ドナルドの誠実な姿勢に、ハジメも提案を飲み込まざるをえなかった。

「煩わしい要望で申し訳ありません。して、何を悩んでいらっしゃるのですか?」

「足りないテントをどうしようかと思って。」

「それならば、ハジメさん、私とニック、ライネル親子ダネルとヒューゴ、女性二人がそれぞれ1つずつ使えばよろしいのでは?」

「いや、俺だけ1つを使うなんて…」

「立場上それが一番争いを生まないかと。」

(それもそうか…。この世界は身分の制度が厳しいのか、ドナルドさんが古風な考えなのか……)

周囲を見ても特にドナルドの案に異論はなさそうだった。ダネルさえも。

「分かった。ありがたくそうさせてもらおう。じゃあ、ここの近くにテントを立てよう。女性二人は、近くに食べられる木の実なんかがないかを見てもらえると助かるけど…」

ハジメは、バーバラとクロエを見た。すぐにバーバラは

「お安いご用ですわ。」

と会釈をした。クロエも頷いた。

「何があるか分からないので、我々の声が聞こえるくらいの距離までを見てもらえれば大丈夫です…だ。」


男たちはすぐにテントを立て始めた。5つの支柱につぎはぎの布を被せたような簡素な作りで、大雨でも来たらすぐに壊れそうだ。ハジメが驚いたのは、ダネルもテントを立て始めたことだ。

(反感はあっても、やることはやってくれるのか、助かる)

ハジメも自分のテントを立てようと支柱を地面にさしていると、ドナルドが慌てたかけてきた。布を被せる途中だったのか、広げた布が風に舞って、ニックに絡まっていた。

「ハジメさん!そんなことなさらずともよいのですよ!」

「そんな血相変えて……いいんですよ。私もここの一員なので、これくらいの肉体労働は一緒にやりますよ。」

「そ、そんな…」

ドナルドはショックなことでも言われたかのような顔をしていたが、自分達の立てていたテントを後回しにして、ハジメの手伝いをした。ダネルは横目でそれを見ていた。

テントを立てながら、ハジメは次に何をするべきか考えた。

(これで野ざらしで寝る心配はなくなりそうだな。次は…荷物を整理して、食料と建築資材とかに分けとくか、これだけいたら同時に焚き火の準備もできそうだな。……あ~、周囲の資源も確認しなきゃ……って……これってさぁ……なんだかコロニーシミュレーションゲームみたいだよな!)

ハジメは、社会人になってから、パソコンゲームに興味をもち始め、特にコツコツ作業をするコロニーシミュレーションゲームにはのめり込んでいた。現実は厳しい状況だが、ゲームだと思えばなんだかやっていける気がしたし、なぜかうまくいく自信があったのもそのせいだと気づいた。

(あ、でも実際にコロニー作るから、コロニーシミュレーションじゃないか、リアルコロニー運営ってとこか?)


テントは一時間ほどで全て建て終わった。バーバラとクロエも戻ってきて、赤い木の実を山盛りにかごに乗せていた。

「よし、1回ご飯にしましょう。」

ハジメは全員に聞こえるように言った。わーいと言ったヒューゴだが、なぜかダネルが無言でヒューゴの頭を叩いた。

ハジメは、朝から何も食べずいたので、とても空腹だった。この世界の人は1日に2食しか食べないことが普通のようで、3食きっちり食べていたハジメはまだそのサイクルには慣れていなかった。

バーバラはハジメにパンと塩漬け肉を使ってよいかを聞いてから、サンドイッチを作った。それを木の皿に乗せ、横には採った赤いベリーを一掴み分添えた。ドナルドは空いた木箱をテーブル代わりに使えるように用意してくれた。

ハジメはドナルドに言われるがまま座り

、サンドイッチを食べた。塩漬け肉はこの世界に来て、何度か食べたが、保存のために強く塩を効かせているため、少しでも舌が痺れるほど濃い。しかし、今食べた物はそれほどしょっぱくはなく、初めて肉の味を感じられた。

「おいしいよ、バーバラさん!」

「あら、どうも。お口に合ってよかったですわ。」

「塩漬け肉って苦手だったけど、なんだか今まで食べた物と違うみたいで。」

「あの御者がハジメさんに渡してたのは、塩抜きもしてない物だったんですね、きっと。うん。」

(塩抜きか。てっきり家事スキルが高いからそれのせいかと…いや、そういうことができるから家事スキルが高いのか)

切ったり焼いたり程度の自炊ができるハジメの家事スキルが4だったのに対して、バーバラは11だった。

サンドイッチを半分ほど食べたところでハジメは違和感を感じた。それは、やけに寂しい食事のせいだった。食べ物のことではない。

「……あの、バーバラさん、みんなの分は?」

「え?」

「だから、みんなの分は作ってくれないのかなって…」

「えー!?私達も同じものを食べていいんですか?」

「もちろんだよ!俺だけ食べるなんておかしいでしょう?」

みんな驚いている。ヒューゴはご飯だぁ!と跳び跳ねている。10分ほどでバーバラはみんなのサンドイッチを作った。

「ありがとうございます!頂きます!」

みんなよろこんで食べている。

「みんなはご飯を食べるのは普通じゃないんですか?」

ハジメはドナルドに聞いた。

「もちろん我々もお腹が減りますが、このような関係であれば、領主様と同じものを同じタイミングで食べるということは珍しいですな。一般的には。」

(そんなことにも主従関係が出てくるのか)

「みんな、ここではみんな同じものを食べていいし、食事に格差をつけるつもりはないから、気にしないで食べてください。」

クロエやニックの顔も明るくなる。ダネルすら目を見開いて驚きを隠せていない。ヒューゴはサンドイッチに夢中だ。

昼食を済ませると、ハジメは午後の作業を割り振った。

「まず、ドナルドさんは、今の物資の在庫を数えて、記録してほしい。紙やペンはあるかな?」

「荷物の中にありましが…紙を使ってしまってよろしいのですか?」

「ん?」

(あ、そうか、ある意味紙も貴重な資源か。現代日本の感覚がまだ抜けないな)

「はい、大事なことなので。あ、それと…」

ハジメはドナルドの耳に顔を近づけた。

「こういう場合、トイレ、特にそのときの紙はどうするといいと思いますか?」

「あ~…この森の中におそらく大きな柔らかい葉の植物があると思いますので、それで拭くしかないかと。」

「じゃあ、ニックはトイレ用の葉っぱを集めてくれ。」

「ダネルさんは、穴掘りをお願いします。」

「………必要だからやる。」

ダネルは耳をほじりながら素っ気なく答えた。

「バーバラさんは、食器の片付けと、調理用の焚き火を作っててください。あと、クロエは俺と近くの調査に付き合ってほしい。」


拠点から500mほど離れると、川があった。水質もよく。また近くの崖の土は粘土質で陶芸に使えそうだ。ハジメは、紙に簡単な地図と資源をかき記した。方角は適当に。他にも、山の麓には建材に使えそうな大きな石があった。途中で食べれらる青いベリー(鑑定魔法で確認)があり、持ってきた袋いっぱいに詰めた。しかし、その作業中、ハジメとクロエはほとんど会話をしてない。

(気まずいな…何を話そう…)

「あ、そういえば、クロエは何歳なの?」

「あ、はい!」

クロエな突然話しかけられ驚いたようだ。

「22です。」

「そうなんだ、若く見えるよ、高校生くらいかなって思った。」

「高校生?」

「あ、いや、気にしないで。若いってこと。」

「はい、ありがとうございます。」

「……ん?待てよ?……あのさ、ドナルドって何歳か知ってる?」

「性格には分かりませんが、私の父と同じくらいだと思うので、80歳前後かと…。」

(やっぱりだ!)

ドナルドの見た目は50歳ほどで、どんなに高く見積もっても60歳は越えない。

「あのさ、当たり前のことだと思うんだけど、1年に1歳、歳を取るよね?」

「は、はい。そうですね。」

「じゃあさ、長生きの人って何歳くらいまで生きてる?」

「うーん、町のおじいさんが163歳で1番長生きだった気がします。」

「163歳!?……じ、じゃあ大人って、何歳からかな?」

「15歳くらいからは大人扱いで、仕事を始めることが多いですが、私としては25歳にもなればもう大人かと思います。」

「そ、そうか、最後にヒューゴくんは何歳に見える?」

「元気でハキハキしているので、10歳ほどに見えますね。」

ヒューゴはハジメから見てもそのくらいの小学生くらいに見える。

「分かった。ありがとう。」

クロエは質問の意図が分かっていないような顔をしている。

(この世界の年の取り方と寿命はかなり特殊だな。たぶん、ある程度大きくなったら、老化がゆっくり進むんだな、某戦闘民族みたいに。それで長生きもする。これまで鑑定で見れたみんなの名前の横にあった数字は年齢だったんだな。俺の思ってた年齢とかけ離れてたから、レベルか何かなのかと思ってた。)


周囲の探索を終え、拠点に戻る途中、森の中のから、中型犬ほどの大きさのウサギのような生き物が出てきた。

「うわ!」

突然のことで声を出すハジメ。

ウサギ(?)は威嚇している。

「魔獣ですね。」

クロエは持たされていた短剣を抜いた。

「待ってくれ。俺がやってみる。」

ハジメが長剣を抜いた。これも荷物の中に一本だけあったものだ。念のために自分が持っておいたのだ。

(こういう転生だと、大抵自分は最強。俺のステータスは別に高くないけど、戦えば目覚める何かしらタイプかもしれない!)

ウサギ(?)は、飛びかかってきた。ハジメは剣を降る。

スカッ。

ウサギ(?)は軽々と避けて、ハジメの脇腹に突撃した。ハジメの体は1mほど飛ばされた。腰を着いたハジメの右腕にウサギ(?)が噛みつく。

「うわっ!」

思わず剣を離してしまった。腕を大きく降りると、遠心力に耐えられず、ウサギ(?)が離れた。

「ハジメ様!」

クロエは素早く駆け寄り、ウサギ(?)とハジメの間に入る。ウサギ(?)がまた飛びかかると、宙に浮いているウサギ(?)の体側に短剣をつきたてた。 ピギィと悲鳴を上げて、ウサギ(?)は地面に落ちた。

「ハジメ様、大丈夫ですか?」

ハジメの腕からはドクドクと血が流れている。痛々しい歯形がはっきり分かる。

(ヤバイヤバイ、痛い痛い痛い!)

「クロエ、ヒールを!」

「は、はい!」

クロエは、ハジメの腕に手をかざした。同時に温かな光が腕の傷口を照らす。すぐに血は止まり、数分で傷はほぼ塞がった。それを見て、ハジメも冷静さを少し取り戻した。

「すごい回復力だ。脇腹も頼む。」

クロエはうなずいて、脇腹に手をかざす。ハジメがクロエを連れてきたのは、入植者の中で1番の戦闘力(戦闘スキルがクロエは8、ダネルでも6、ハジメは2)で、回復魔法と思われるヒール持ちであったからだ。

(漫画だと、骨折れても戦うとか、血だらけで切り合うとかあるけど、あんなのは作り物の世界なんだな……最強チート能力もなけりゃあ、女の子にも戦闘で劣るなんて……異世界来たのに無双できないの?)

5分ほどで、脇腹の痛みも軽くなった。一応鑑定魔法で自分のステータスを確かめたが、感染症もなさそうだ。しかし、立ち上がろうとしたら、軽い頭痛とふらつきを感じた。クロエが支えてくれた。

「ヒールでは、流れた血の分は戻らないので、戻ってもしばらくは安静にしてください。」

「そうなのか、教えてくれてありがとう。あ!あのウサギ(?)は拠点に持って帰ろう。」

ハジメとクロエはゆっくりと拠点に戻った。日がもう暮れ始めた。何やら拠点はざわついている。近づくとヒューゴがテントの中に寝かされている。ヒューゴの顔色が悪く、吐いた後がある。

「どうした!?」

「ああ、ハジメさん!たぶん、毒のある木の実を食べたんです。それでこのように…」

ドナルドが答えた。ダネルは顔を青くして、ヒューゴを見つめている。

「昼ごはんのベリーが!?」

「いえ、あれではなく、ヒューゴが森の中で見つけたのかと。これがポケットに。」

そう言って、ドナルドは青い木の実を見せた。見た目では、分からないが、鑑定してみると、「毒性(中)」と表示されている。

「ちょっと見せてくれ。」

ハジメはヒューゴの隣に座り、鑑定魔法でステータスを見る。体力が半分ほど減り、激しい腹痛、食中毒と示されている。

「クロエ、ヒールを!」

「申し訳ありません、ヒールは外傷を治すだけで、このような場合は効果は…。」

「はい、キュアを使える者がいればよかったのですが…」

(ヒールは万能じゃないのか)

「じゃあ、医薬品は!?在庫にはなかっんですか!?」

その言葉に、ダネルもドナルドも驚きの表情を見せる。

「確かにいくつかありますが、どれが効くかは……それに、貴重な医薬品を使ってもいいのですか?」

「子供が苦しんでいるんだから、迷ってる暇はないだろ!持ってきてください!」

「は、はい!」

ドナルドは走ってきれいに並んだ木箱の中から、医薬品が入っていると思われる袋を3つ持ってきた。中には丸薬が10個ずつ入っていた。

「たぶん、これかと。」

すぐに鑑定すると、1つが食中毒に効くことが分かった。

「これだ!1つすぐ飲ませてあげてください!」

「はい!」

ダネルは優しくヒューゴの体を起こし、薬を飲ませた。ヒューゴのステータスに「薬剤治療中」という表記が出た。そして、警告するかのような赤い文字での「食中毒」も黄色になった。

「とりあえず、よくなったとみたいです。時間をおいて、様子を見ましょう。夜にまた薬を飲ませるとよいようです。」

これ以上はできることがないため、ダネル以外はそれぞれの作業のために、ヒューゴのテントから離れた。暗くなる前にバーバラは食事の準備を始めた。ハジメは、持ち帰ったウサギ(?)を鑑定した。

「ラヴィの死骸、か。え!?これって食べられないのか?」

品質に「不可食」と出ている。

「ああ、これは魔獣ですからね。肉は食べられた物ではないですよ。毛皮は何かにできるかもしれませんが。それなりに知識のあるものが捌かないといけませんね。」

ドナルドが説明してくれた。残念ながら、ドナルドは小さい動物の解体はできても、魔獣の皮を加工することはできないようだ。

(魔獣は動物とは違うのか……微妙に難しいんだよ。この世界は)


夕食は焼いた塩漬け肉と野草の炒め物とパンだ。焚き火を囲んで、食事にした。ヒューゴの容態も落ち着き、ダネルも腰を下ろした。しばらく無言で食べていたが、唐突にダネルが口を開く。

「ハジメの旦那、さっきはありがとう。あんたは息子の命の恩人だ。」

「命の恩人だなんて、ただ薬を飲ませただけですよ。それにみんなも看病してくれたし。」

「確かに他のみんなにも感謝してる。でもこの生活の中でいかに医薬品が貴重かはバカの俺でも分かる。」

ダネルの言葉は静かだ。

「俺はあんたを誤解してた。あんたは他の領主とは違う。俺らを同じ人として見てくれている…………今までの無礼を許してくれ。」

ダネルが頭を下げる。

「いいんですよ!頭を上げてください!こんな生活を急に強いられたら、不満に思うのも当たり前ですから。」

「ホントにあんたって人は…」

ダネルの目に涙が溜まってるように見える。

「これからは、旦那の役に立てるように頑張るよ!なんでも言ってくれ!」

「それは心強いです。よろしくお願いします。」

ハジメは手を差し出し、力強くダネルは握った。


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