事務系女騎士
9月も半分が終わると、バルヴェニの第2集落も囲いが完成した。夏の終わりには雨が多く、アイザックたちの土魔法がうまく機能しなかった。そのため予定よりも時間がかかってしまったのだ。
しかし、悪いことばかりではない。以前に買った家畜は順調に育ち、その中の1匹は妊娠していることも分かった。動物への魔法が使えるマーカスは動物の変化も把握することができるので、ハジメが鑑定すると名前の横にハートマークが浮き上がっていた。
また、鉄器の生産も順調で、村民の武器だけでなく、農具もほぼ鉄で用意ができていた。行商人とのやり取りで、他の地域の需要も知ることができ、村の資金も潤沢である。
その日、ハジメは馬に乗っていた。馬は優雅に歩く、ハジメが軽く足で腹を押すと馬は歩みを速めた。段々速くなる速度にハジメの心拍数も上がる。
「…お、おお、ちょっと、速いぞ~!」
「ドウドウ!」
マーカスが速度の上がりすぎた馬をなだめ、静まらせる。
「やっぱりちょっと、まだ怖いな」
「仕方ないですよ。でも領主様もお上手になられましたよ。」
「ありがとう、マーカス。おっと、そろそろ仕事に戻らないと。」
ハジメはここ2週間は乗馬の練習をしている。マーカスの魔法とクロエの指導もあり、それなりに乗っていられるがまだ恐怖心がある。早く乗馬に慣れて、森を馬で歩いてみたいと思っている。
夜には、ドナルドとクロエを家に呼び、会議をもった。
「ジャガイモはどんな感じですか?」
「順調です。病気も早くに気づけたので、魔法で対処できました。被害は極小さいものです。」
「ありがと。」
ドナルドは農業に関して本当に頼もしい。今ではすっかり任せっきりだ。
「ですが、ハジメ様。今のまま食べ続けるとジャガイモの10月には在庫はなくなります!」
クロエがノートを見ながら進言する。
「収穫は11月だから…やっぱりパンを多く買っておくのと、狩猟も定期的に行かないとな。」
「この頃、周辺のき物がこの村の存在に気づいて、少し離れた所に移動しているような気がするとブレイクさんが言っていました。」
「うーん、塩漬け肉も作ってもらうようにお願いしなきゃな。クロエ、今のパンと塩の在庫はどうなってる?」
「パンは全員で3食食べたら1日でなくなります。塩は、ツボに2つですので…いつもバーバラが使う量を考えると牡鹿3頭分で使いきることになるかと。」
「今度の行商からは、多目に買うようにしとくか。」
ハジメは、残金の確認をクロエに依頼した。ふと気づくとドナルドはニマニマとしている。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ。ハジメさまもすっかり領主様が板につきましたなぁと、思いましてね。ははは。」
「やめてくださいよ。みんなに教えてもらいながら、その通りに決めているだけじゃないですか。」
ハジメは照れ臭そうに笑った。
「いや、それに。クロエもすっかり村の経理をできていてね。」
「得意なんですよ!えっへん!」
クロエは鼻高々だ。食料の在庫やお金の管理はクロエに任せてある。村民が24人にもなり、村の物資の管理が頭だけではもうどうにもならなくなった。この村では読み書き計算ができる者が少ないので、クロエに台帳を与え、全てを記録してもらっている。
「いい奥さんになるだろうな。」
「お、お、お、奥さんだなんて!そんな!私はまだ…」
クロエは顔を真っ赤にして、ゴニョゴニョ言っている。
「別に誰の奥さんとは言ってないでしょうに。おかしな人だ。ははは。」
ドナルドは愉快そうに笑う。ハジメもこの幸せに浸っていた。
次の行商で買う物を確認して、二人を家に帰した。
ベッドに横たわると、村の成長に思いを馳せた。村ができて半年足らずで20人近くが集まるのは、それほどまでにこの地では住居を追われるのが普遍的であることを意味している。国々の衝突や狂暴な魔物など、危険はいつ降りかかる分からない。ハジメは領主としてできることを考えながら眠った。
そして、深夜。悲鳴で目を覚ます。




