拡張計画始動
翌日から、バルヴェニ村の人々の動きは少し変わった。大きな役割の1つは採掘。荷車を引き、鉄鉱石を堀りに行く。もう1つは村の拡張。前日の夜に、ハジメは村民に提案をした。
「そろそろ村を大きくしようと思ってる。みんなはどう思う?」
「いいと思いますよ!畑も広くできるし。」
「人も多くなることを考えると頃合いですかね?」
「建材置き場も狭くなってきたんだ。」
概ね賛同の雰囲気だ。だが、アイザックの顔は苦い。
「また堀か……」
「あぁ……」
(そう、問題は堀だ。これが1番時間を食う)
村の周囲に堀を作ることで防御性は高まるが、労力が凄まじい。
「だから、今回は、堀を作らないでやってみようと思うんだ。」
「!?」
「堀がなかったら、そこから入ってくださいって言ってるようなもんじゃないのか?」
「いや、みんなが考えてる拡張とは違うやり方にしようと思うんだ。」
「?」
「たぶん、一般的な拡張は、村の囲いを広げて、安全な場所を広くするんだと思うんだけど、今回は、近くに別の集落を作るようにしようと思うんだ。」
「つまり、村が2つになるようなことですか?」
「はい、そうとも言えます。」
「それはいろいろと大変なんじゃ……ご飯とか、移動とか……」
「多少の不便はあるかと思いますが、その方が堀をまた埋める必要がないのが、利点ですね。」
「じゃあ、それがいいですよ!」
アイザックは堀の埋め立てがないことを絶賛する。
「ただ、この場合は、新しい方には塀や壁を作る必要があるんだ。」
「そうですね。」
「でも、それもアイザックたちの魔法があれば、どうにかなると思うけど、どうかな。」
「うーん……壁は厚みによりますが、あの堀ほどの土は動かさないだろうし……少しは楽ですかね。」
デュアンもうなずく。
「それに、壁は、人の高さまではある程度厚くして、それ以上は、そんなに厚くしなくていいんだ。」
「そ、それでいいんですか?」
「あ!それなら低労力で、見た目の防衛が高く見せられますね!」
クロエは手をポンと叩く。
「なんだからいけそうな気がしてきましたわ!」
「うん、悪くねーよな。」
こうして、10人ほどで村のすぐ隣に第2集落を作るための壁の建造が始まった。ハジメもその作業を手伝う。
7月も下旬となり、だいぶ暑くなってきた。汗をたらしながら、木を運ぶ。まずは予定地をぐるりと1mほどの高さの柵で囲むつもりだ。これで壁の強度が増し、同時に壁も建てやすくなるらしい。1日に作れる壁の長さは30m分ほど、2週間ほどは、この作業を続けることになりそうだ。




