先人の足跡
探索を始めて2週間が過ぎたとき、ハジメの班は森の中に廃屋を見つけた。
「壁に苔がむしてますし、最近の物ではないですね。」
クロエに周囲を警戒させながら、家の中に入る。天井は崩れ、動物が出入りした跡もある。
「熊の寝床になってたら、たまらないな。」
食料か売れそうな物があれば拝借しようと思っていたが、期待はできなさそうだ。だが、ハジメは土埃をかぶったテーブルの中から、紙を見つけた。紙を広げるとテーブルほどの大きさだ。少し字が消えかかっているが、かろうじて読めた場所には。
「測量……図?」
「測量図!?どこの地図ですか?」
「いや、これ……ここの地図だぞ!」
山の配置や川の雰囲気など、バルヴェニ村の周囲の地図で間違いなさそうだ。地図には、所々に小さく文字や印が書いてある。
「もう少し探そう!」
アイザックとクロエとハジメは部屋を片っ端から探すと、日記が見つかった。日付から約60年前の物だと分かった。ハジメはそれらを村に持ち帰った。
知識ステータスが高いクロエ、ブレイクと一緒に、地図にある記号や文字の意味を考えた。
「この二重丸は食料でしょうかね。ベリーを採ってたのはこの辺りです。」
「三角は巨木だろう。あれは目立つ。」
「怪しいのはこの二重四角かな。」
「それは思いました。山の辺りの地形ですからね。」
地図には四角を2つ重ねたような形が山の部分に7ヶ所ほど書いてある。
「ですが、ここの二重四角には何もなかったはずです。」
「関係ない可能性もあるけど、もう取り尽くした可能性もあるかな。」
「ですが、残りのマーク部分を探す価値はありますぞ。」
「はい、そう思います!明日はこのマーク部分を目標にして探しましょう。」
翌日は小雨が降っていた。しかし、ハジメは探索を急いだ。ハジメたちの班は1番遠い場所に行くことにした。メンバーが全員若いことに加えて、地形を操作して目印を作れるアイザックがいるので、遠出には向いている。ハジメたちは、2時間ほど山を森を歩き、地図の示すであろう位置に来た。
「ここは怪しいな。」
そこは小高い山になっており、山肌がむき出しになっている。土の色も少し違う気がする。
「周囲を探そう。」
ハジメたちは、分かれて、手当たり次第に掘ってみた。しかし、掘っても掘っても出てくるのは、ただの石だ。
10分ほど転々しながら掘っていると、アイザックの声が響いてきた。
「こっちに来てください!」
少し焦りを感じさせる声だ。ハジメは走って向かう。
(魔獣か!?)
アイザックのもとに向かうと、そこには、山の肌が露出し、崖のようになっている場所が小さな洞窟のようになっている。
「これって……」
「誰かが掘ったんだ。」
人3人分ほどの幅の穴は側面や上部に木の枠があり、明らかに人為的な建築の跡だ。
「入ってみよう。」
魔石に火を灯し、松明がわりにして中に入る。魔石は魔法の効果を覚える。火の魔法を魔石に1度使うと、魔石はろうそくか炭のように、柔らかく燃えるようになる。水の魔法を使えば、水の浄化に、土の魔法を使えば、粘土のようになる。
「思ったより深いな。」
洞窟の中を100mほど進むと、開けた場所に出た。魔石の松明を高くあげ、周囲を照らす。
「ここはっ!?」
周囲の壁は黒い光を反射している。
「採掘場じゃないか!」
これまで見ていた石とは明らかに見た目が違った。ダネルの教えられた鉄鉱石の特徴に合致する。ハジメたちは背負っているかごいっぱいに掘り、持ってかえった。かごはずっしりと重いが、その重さが当たりであることを保証しているようにさえ思え、うれしかった。
帰り道は休憩を多く挟み、3時間かかった。すっかり日が暮れてしまった。村に着くと、すぐにみんなが迎えてくれた。
「ずいぶんかかりましたね。お怪我でも!?」
「いやいや、これのせいなんだ。」
ドスンと背負ったかごを降ろす。
「おおーー!」
ダネルが飛びつく。 一欠片を手に取り、夕日に照らす。
「間違いねー!鉄鉱石だぞ!!」
「やった!」
「それもかなりの上物だ!これならいいもんが作れるぞ!」
「苦労して運んできたかいがあったよ。」
「他のみんなどうだったんですか?」
「こ、こっちは何もなくて……」
ニックは申し訳なさそうに話す。
「でもさ、こっちは!」
ラリーは石の積まれたかごを見せる。
「これって、魔石じゃないですか!」
「はい、しかも掘ればまだまだあると思います!」
魔石は鉄鉱石よりも珍しい鉱物だ。今村では、初めの物資に入っていた3個の魔石を全てろうそくがわりに使っている。これがあれば色々と便利だ。
「ちなみに魔石ってどのくらいで売れますか?」
「はい、この量なら4000ゴルドほどになるかと。」
「4000!それはいい!」
(いいぞ、かなり追い風だ!)
「これで必要な物のありかは見つかった!ガンガン掘って、ガンガン稼ごう!」
「おおーー!」




