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勇者の可能性

最上階に至るまでの道中で遭遇した魔術師は

私の罠もあって、全く相手にはならなかった。

そもそも攻撃が届かないんだから脅威になるわけが無い。


「うーん、しかし付いていくと決めたは良いですが

 やっぱり全員で行く必要は無いかも知れませんね」

「どうして?」

「大体の相手はエルさんとミリアさんが倒すからです。

 ですので、ここは1つ提案があります。別行動をしましょう」

「え?」


道中でミザリーさんがふと何かを思い出したかのように呟いた。


「最上階の魔術師達だって恐らく、エルさんが居れば完封可能です。

 ですので、別行動をして、別の目的を目指しましょう」

「で、でも」

「私にも考えがあります。と言う事で、リトさん付いてきてください」

「何? 私が一緒に行くの?」

「はい、お願いしますね」

「…はぁ、まぁあんたの考えてることはよく分からないけど

 ビビって逃げようとしてるって訳じゃ無さそうね。

 逃げるなら、わざわざ私を連れて行こうとしないだろうし」

「あのですね、私だってリズさんに付いていこうと選んだんですよ?

 そんな臆病風に吹かれて尻尾を巻いて逃げるわけ無いでしょ?」

「ま、それもそうね。と言う訳だからリズちゃん」

「うーん、分かったよ! 王様達は私たちが助けるね!」

「えぇ、お願いしますね」


私たちは別行動をするという選択をした。

ミザリーさんは何かを思い付いたんだろうね。

意味が無いことをするわけが無いんだから。

とにかく私たちは先を急ごう。王様達が危ないからね。


「よし、最上階!」


私たちは急いで最上階まで走り込んだ。

最初、私たちを追い出してた近衛の人はもう居なかった。

見張りなんて何処にも居ない、兵士さんは何処にも居ない状態。


「凄い豪華だね」

「殆どがボロボロで、もう見る影も無いがな」


ようやく到着した最上階だけど、豪華絢爛なのは間違いない。

だけど、既に至るところがボロボロで、見る影なんて無い。


「急いで…あ、へ、兵士さん!」


最上階に上がって、少し周囲を探索していると

体中から血を流している兵士さんが倒れていた。

顔をよく見てみると、その兵士さんは私たちを止めた兵士さん。

鎧は至る所が破損している…刃物で切られたような破損状態。


「これ…風の魔法…」

「もう少し私達が早く来てれば…」

「そんな事を考えてる場合じゃ無いぞ。

 今も戦闘が行なわれてるんだ、このままだと被害が広がり続ける」

「……そうだね、急ごう」


私たちは急いで奥へ進む事にした…その道中、兵士の死体を沢山見た。

焦げてる死体もあったし、お腹を貫かれたような死体もあった。

死屍累々…って言うのは…こう言う状況を言うんだよね…


「……」


リズちゃんは辛そうな表情をしている。

それでも、必死に足を進めていった。

私もそうだ…昔の思い出が蘇り、辛いけど…進んだ。

進むしか無いんだ…私たちは進まないといけない。


「この光景を見ると、本当にエルの存在がどれだけデカいか…分かるな」

「そうだね…お城の中で戦った魔術師さん達を強いって思わなかった…

 でも、こんな光景を見たら…本当は凄く強くて

 エルちゃんが居なかったら…私たちも死んでたかもしれないって…」

「そんな事無いよ…怪我は沢山してるかも知れないけど、死んで無い」


私の能力は魔術師の天敵…魔法を主力に扱う魔術師は

魔法を全て吸い取るドレインフィールドの前では無力。

身体強化魔法やそう言った、補助魔法までは簡単には吸えないけど

魔法陣を展開し、そこから魔法を射出するような攻撃は容易に奪える。


「…私たちが無理矢理にでも最上階に上がってたら…

 エルちゃんがあの技を使ってくれて…こんな事には…

 無理矢理にでも上がれば…止められても、上がってれば」

「それは結果論でしか無いだろう。上がったとしても

 私たちが兵士達に制圧され、殺されてたかもしれない。

 そうなっていれば、市民達も死んでただろう。

 だから…そう悔むな、仕方ない事…だったんだ」

「……それでも、そんな風に受入れる事は出来ないよ…」


リズちゃんはまた後悔をしている。

だけど…何か大きな選択をした後に後悔をするのは…

きっと、当然なんだ…そしてその後悔はずっと拭えない。


「どんな選択だろうと、きっと何処かに後悔は生まれるだろう。

 その後悔を受入れて、前に進むんだ。その後悔はきっと力になる。

 もう2度と、同じ過ちは繰り返さないという決意にもなる。


 リズ…後悔を背負って、前を向いて進むんだ。

 まだ、全てを失った訳じゃ無い。私たちに出来る事は沢山あるんだ。

 足を止めるな、時間が惜しい…後悔しようとも、時間は待ってくれない」

「……うん、私…進むよ」


後悔を背負ってでも、リズちゃんは前を進むことを選んだ。

私も一緒にリズちゃんの後に付いていく。

同じ後悔はしたくないから…あんな思いは嫌だから…


「な、何をしている近衛だろう!?」


扉の向こうには魔法陣から伸びた鎖の様な物で

完全に拘束されている国王と沢山の貴族達。

そして、逃げようとしている近衛達や少数の貴族の姿があった。


「諦めるんだな、国王様…あなたに忠を誓う兵士はこの場には居なかった。

 ふふ、仮に近衛に居たとしても、そんな兵士は皆既に死んでるよ。

 この場にまで逃げ帰ってきた兵士は所詮、名誉の奴隷でしか無い。

 命を賭けてでも、あんたを救おうとする兵士は居ないんだよ」

「ふ、ふざけるな! わ、私は王だぞ!」

「敗北した国家の王なんて、ただの器にもなれない。

 この国は私が支配する。魔術師の長である、この私、カーミラが!

 まずは手始めにお前を屠り、我が国の人柱にしてやろう。

 過去の王はこの場で消えるがいい」

「止めろ、止めろぉ! 勇者候補! 盾になれ!」

「勇者候補? ふふ! そいつらは怯えて動けないのさ。

 勇気ある勇者は既に死んでるだろう。成り上がるために

 勇者候補等と言う、甘い言葉に踊らされた貴族など造作ない。


 力ある勇者や勇気ある勇者は既に、貴様らが直々に殺した。

 手を下したのは我々だが、殺したのは君達だよ、貴族王族の諸君

 さぁ、勇気ある聖者を屠った悪魔に鉄槌を!

 ふふ、本当に君達は魔物よりも魔物だよ、権力の犬!」

「止めろぉぉ!」


状況が凄く悪いのは分かった! また何とか間に合った!


「もう誰も死なせないんだぁ!」

「な! ぐぅ!」


リズちゃんが扉を蹴破り、すぐに魔法陣を構えて居た相手を蹴った。


「この!」

「いぃ!」

「リズちゃん!」


リズちゃんが蹴飛ばした魔術師は即座に攻撃対象を切り替え

リズちゃんに向けて魔法を放とうとした。

私はすぐにテレポートでリズちゃんの前に転移し

魔術師が放った魔法を吸い取った。


「な!?」

「え、エルちゃんありがとう!」

「魔法は任せてよ!」

「く…その姿、勇者候補…確か他の勇者候補からも名を聞いたぞ。

 最下位の勇者だ。実力があり、勇者として相応しいはずなのに

 国王や貴族など、他の愚者の手により貶まれている勇者候補」

「そうなんだ、知らなかった」

「だが、良いのか? 折角のチャンスだぞ?

 国王を屠り、他の貴族連中を屠り

 お前達を見下した愚者共に目に物を見せるチャンスだぞ?

 我々に力を貸せば、国王達は死に、貴様らも日の目を見るだろうに」

「そんなのどうでも良いよ、私は誰かを守りたいんだから」


リズちゃんは本当に変った…昔よりも、凄く優しくなった。

最初の方は自分で何もしようとしない人を助けるなんて嫌だって言ってた。

それなのに今は、自分達を貶んで、更に自分達では何もしようとしない

そんな人達を守ることにさえ、一切の躊躇いが無くなってる。


「き、貴様ら! 来るのが遅い! 何故早く来ないんだ愚か者!

 そんなんだから、お前達は!」

「はん、負け犬の王が。援軍が来ると同時に随分と威勢が良くなったな。

 何故そこまで彼女達を貶む? 彼女達は恩人だろう?」

「ふん! 下々の者が王を守るのは当然だ! さぁ、守れ!」

「そ、そうだ! お前達は俺達の壁なんだ! 守れ!」

「……」


ミリアさんの手が激しく震えている…怒りを堪えてるのが分かる。

普段、あまり表情を見せないミリアさんに確かな怒りが見えた。


「王様…私は勿論は皆を守るよ!

 私は何も出来ない人も守るんだ!」

「な、何も出来ないだと!? 国王に向って! 貴様ふざけてるのか!」

「な、何も出来ないから私たちに守って欲しいって言ってるんだよね?

 大丈夫、戦い以外の事で王様達が何かしてることは分かってるよ!

 でも、恐いから何も出来ないんだよね? 大丈夫だよ! 任せて!」

「貴様…ふざけるな! 王に向って、何と言う言い草!」

「くく、くはははは! 最高だ! 最高だ勇者候補!

 王に向って、凄まじい口振り、良いぞ、気に入った!

 お前のような奴こそ、勇者に相応しいんだろうな!


 権力に媚びへつらうこと無く、自分の信念と言葉を信じる姿!

 子供だ、実に幼い子供! だが、だからこそ言葉に意味がある!

 裏と表を使い分けられないが故に、その言葉に真の意味がある!」

「私は皆から色々と教えて貰ったの! そして私は考えた!

 自分が嫌いになる選択はしないって! だから全部守るの!

 守れる物は全部守るの! 例え何も出来ない人だとしても守る!」


本当にリズちゃんは…さらっと恐い事を言っちゃうよね。

当たり前の様に国王様を挑発しちゃって。

でも、リズちゃんの言葉を聞いたミリアさんの震えが止まった。

さっきまで怒りの表情が見えていたけど、今は何だか微笑んでいる。


「本当にお前は…あんな事を言われても怒りを覚えないなんてな」

「怒り? 何か起る所あった? 助けてーって言ってただけじゃん。

 王様はハッキリ言うのが恥ずかしかったから、あんな風に言ったんだよ!」

「前向きな奴め。だが、それでこそリズだな。

 国王、私が信じる勇者の言葉だ、あんたを守ってやる。

 だがな、彼女達は貴様らの盾では無い!」

「な! エルフ…貴様! 失礼だぞ!」

「失礼なのはお前らの方だ、まぁ良い…どうせ全て終われば分かる。

 何もしない者と何かを成し遂げようとする者…どっちが正しいか」


ミリアさんが微笑みながらカーミラの方を向いた。

カーミラの方も少しだけ嬉しそうに笑ってた。


「テイルドールにより、壊滅的な被害を受け

 勇者候補という存在に絶望し、希望を全て捨てた。

 勇者候補の可能性などゼロであり、全て滅ぼし

 自分達だけでも生き残ろうと、私たちは選んだ。

 テイルドールの命令で国を制圧し…拠点にしようとな」

「テイルドールが来てるの!?」

「さぁな、奴は我々に国を制圧しろと命じただけだ。

 その後は知らない。私たちはその指示に従い

 妹の奪還も兼ねて、国を襲ったんだよ」

「妹…」

「そうだ、妹…勇者候補に負けたときいたときは驚いた。

 あいつが力の無い勇者候補程度に負けるはずがないとな。

 だが、負けたのがお前達だったとすれば…納得出来る。


 そしてもしそうなら…妹もお前達に希望を抱いたことだろう。

 姉としては嬉しい限りだが、長としてはお前達を放置は出来ない。

 魔王様の障害になり得る、力ある勇者候補は…ここで始末する!」


カーミラの周囲に大量の魔法陣が召喚された。

大量の償還された魔法陣は部屋全部を覆うほどだった。


「これ、不味いよ!」

「任せて!」


私はすぐにドレインフィールドを周囲に展開した。

線のようにして、周囲を全て守るように無作為に展開した。


「死ね!」

「無駄だよ!」


カーミラの攻撃が放たれる前に周囲に展開することが出来た。

私が展開したドレインフィールドがカーミラの魔法を奪う。


「な、何…これは、下層でも…まさか…あの謎の現象はお前が!」

「既にこの部屋も私の術中にあります。あなたの魔法は無力です」

「天敵が居るというのは不運だったな。

 私も彼女が敵だったらと思うとゾッとするよ。

 魔法が全て無力化されるだなんて、手も足も出ない」

「魔法を無力化する…そんな芸当が…あぁ、なる程…これは勝てない。

 まさしく私たちの天敵だな…勇者の仲間よ」

「エルちゃんも勇者候補だよ?」

「そうなのか? ふ、通りで強いわけだ…だが、抵抗するぞ。

 長として、魔法が使えないからと負けを認めるわけには!」

「姉さん…降伏してよ」

「……その声は」


カーミラがまだ抵抗しようとすると、扉が開き

そこからあの魔術師さんが姿を見せた。


「リング…ど、どうして!」

「はい、私たちが連れてきました」

「な、ミザリー! き、貴様! 私の許可無く!」

「許可は得ましたよ? ちゃんと王族の方からね。

 私の考えを話したら、私の考えに賛同してくれると」

「他の目的ってのが何なのかと思ったけど

 まさか、こいつを連れ出すこととは思わなかったわ」

「姉さん、降伏しようよ、今すぐ国を襲ってる魔術師達

 全員に降伏の命令を出して…分かったでしょ? この子達と戦って」

「……」

「私たちにも希望があるって…気付いたでしょ?

 勇者は本当に居る…勇者に相応しい奴はちゃんと居ると」

「……あぁ、その通り…だな…分かった、そう指示を出そう」


リングさんの言葉を聞いたカーミラは小さく微笑んだ後

組み掛けていた強大な魔法陣を消した。


「勇者達…私たちは降伏する…君達に賭けよう」

「…うん!」

「何を言っている! 今すぐ殺せ!」

「な!」

「聞えなかったのか!? 殺せ! そいつらは我々を!」

「…抵抗する気が無い人を殺す訳無いよ。

 そんな事、私には出来ないから」

「貴様ふざけるな! 国王直々の命令だぞ! エルフ、殺せ!」

「私が信じた勇者が殺さないと選択したんだ…殺す訳がない」

「貴様…冒険者!」

「はいはい、勿論殺さないわよ? 無意味な殺生は嫌いなの」

「クソ…近衛! やれ! 命令に反したんだ、これには従え」

「わ、分かりました…」


近衛の人達が何人も剣を持ってカーミラさんの元に走る。

私はドレインフィールドを全て解除することにした。


「……殺そうというなら、抵抗するぞ…

 私は勇者達に降伏しただけであり

 お前達に降伏したつもりは毛頭無い!」


カーミラさんがかなり手加減した魔法で近衛達を攻撃した。


「うぅ!」

「な、何故魔法を! さっきは!」

「単純な答えだろう。魔法が使えなかったのは

 この勇者達の力…私が降伏すると伝えたことで

 臨戦態勢を解除しただけだろう」

「な…き、貴様ら! 反逆罪だぞ!」

「た、戦おうとしてない人を殺そうとするなんておかしいよ!」

「ふざけるな! この!」

「もう良い、眠れ」


カーミラさんが少し大きな魔法陣を展開して国王達を覆った。

魔法陣に覆われた国王達は全員、目を瞑り眠る。


「殺しては居ない…君達に降伏したんだ、殺すわけにはいかない」

「姉さん…ありがとう」

「…さぁ、この襲撃を終わらせよう…その後、私をどうするかは…

 君が決めてくれ、勇者…保身のために人々を殺め続けた私をどうするか。

 君達の意見であれば、私は従うと約束するよ…勇者様」


カーミラさんが率いる魔術師達は全員、降伏した。

他の魔術師と戦ってた父さんが率いる兵士達は

降伏した魔術師達を殺す事はせず、全員を拘束した。

被害は甚大だった…だけど国は辛うじて耐えたといえる。

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