揺るがぬ覚悟
私達の到着で、ゆっくりと国は戦況を覆し始めた。
城内に侵入した魔術師達の魔法が無力化されている。
兵士達の間でそんな話が飛び交ってきてる。
理由は言うまでも無い、だって私が仕掛けたのだから。
相手が魔法を主体にして戦うのであれば
よっぽどの魔力量を持つ相手じゃ無い限り負けない。
それが私だった、ドレインフィールドという固有能力は
まさしく魔術師を倒すための能力と言える。
私は完全に魔術師の天敵だよ。
「魔術師達が魔力切れを起こし始めたのか?」
「さぁな…分からないが、状況が良くなったのは違いない」
ドレインフィールドの赤い線を隠して展開してる。
魔術師に弱点が見付からないようにと言うのもある。
クロノスとの戦いの後、ドレインフィールドを改良して正解だった。
強力だし、汎用性も高いからね、このドレインフィールドは。
力ある魔物の殆どが魔法を主力に扱うんだからね。
その魔法を無力化できるって言うのは実を言うと凄まじく強力。
最初は魔法を扱わない相手が多かったから霞んだけどね。
「魔術師の魔法が無力化できてる今なら、城から奴らを追い出せるか」
「あぁ、可能だろう…俺達はそれに賭ける事にした。
だがな、問題として…最上階はどうもそれが無いみたいだ」
「どう言うことだ?」
「最上階だけ…王族や貴族達が避難してる最上階だけは
魔術師達が魔法を扱うそうだ…」
「何!? つまり、最上階まで進まれたのか!?」
「そうだ…近衛達が突破されたが…まだ指令は下りてない。
俺達は俺達に課せられた仕事をするしか無いだろう…
出来れば、すぐにでも応援に行きたいが
命令も無いのに向ったらジェルさんが目の敵にされかねない
俺達の首が飛ぶだけなら、大した事は無いがな…」
「……そうだな、俺達はこのままこの場所を死守するか。
クソ、近衛の奴ら…プライドなんて捨てて応援を呼んでくれよ…
ここで王家が滅んだら、国は終りだ…姫と王子だけになる」
「何? 姫様と王子はここに居るの?」
「はい、避難所に。どうも父親の命令に従わない高飛車らしくて。
貴族連中と居るよりは市民と話をしたいとか言ってここに…
近衛も専属だけ連れてますよ…他は居ないってのが不味いが」
お、お姫様だけはここに居るの? どうして?
そんな無茶苦茶があって良いんだろうか…
「王子の方はかなりの姉っ子で…姉が来るなら自分も行くと」
「……そう、ならこのままだと…本当に王族はその2人だけになるかも…
国を滅ぼすなら、王を潰しに行くのは間違いないでしょうからね。
魔術師達の戦力の殆どは恐らく最上階…応援、さっさと呼んでくれないと」
「もう! そんなの待ってる場合じゃ無いよ! 助けに行こう!」
「で、でも、最上階に行こうとしたとき止められたよ!
も、もし制止を無視して私達が行ったら、怒られて」
「関係ないよ!」
「だが、目の敵にされるかも知れないんだぞ!?
いくら君が勇者候補だとしても、家族がただじゃ済まないかも!」
「か、家族が危ない目に遭うのは…い、嫌だけど。
死ぬかも知れないって人を助けに行かないのはもっと嫌だ!
変な風に思われるのが嫌だからって何もしない方が私は嫌だ!」
「……き、君は…国王を敵に回しても良いと…?」
「……リズさん、ちょっと…」
「何?」
ミザリーさんがリズちゃんに手招きをして耳を近寄らせた。
「…リズさん…あなたが勇者候補として出世するには…
このまま王家を滅ぼした方が良い…貴族も最上階に居ます。
恐らく勇者候補も居る、彼らが全滅すれば必然的にあなた方が勇者です」
私達が大きく出世するには、確かにその方法が1番だった。
このままだと私達はどれだけ頑張っても評価されないんだから。
私達は真っ当な評価もされず、最下位の勇者候補として存在し続ける。
でも、リズちゃんがそんな選択をする筈も無いんだ。
ミザリーさんだって分かってる筈なんだ…でも、伝えたと言う事は。
「そんなの関係ないよ!
出世だとか勇者だとかそんなのどうでも良い!
誰かを見捨てて勇者なんかになれるわけが無い!
そんなの勇者じゃ無い! ただの卑怯者だよ!
それにそんなのが勇者なら! 私は勇者なんかにならない!
私は勇者にならなくてもいい! 私は守れる人を守るんだ!
その為に強くなった! 守れるかも知れない人を見捨てるなんて
そんなの絶対に嫌だ! 私は誰かを見捨てたくなんて無い!」
リズちゃんは…利害なんてえ関係無しに…誰かを助けようとしてる。
その事がこの返答だけでハッキリと分かった。
だってさ、リズちゃんは自分達の利益に全く触れてない。
王様を助ける事が出来れば、きっと私達は重宝される。
それは間違いないけど、ミザリーさんはあえて試すように告げた。
この時の返事でもし…私が思ったことをリズちゃんが言えば…
きっと本気で止めたのかも知れないけど。
「……そうですか、分かりました。やはりリズさんは馬鹿ですね」
「馬鹿でも良いよ! 後悔するよりはよっぽど良い!」
「……後悔しても、その後に何かをすれば…後悔は拭えます」
…ミザリーさんの言葉はリズちゃんに向っている様に見えて
私に向って放たれた言葉だった…私にはそれが分かった。
「誰かを見捨てるって選択をして後悔が何かで拭えるわけが無い!
辛い毎日を過ごすことになる! ただのその場しのぎでしか無い!」
「であれば、その後悔の後…もう2度と後悔しない選択をすれば良い
それに、後悔しても理由がある後悔であれば問題は無いでしょう?」
「それでも良いかも知れない、だけどね!
王様達を見捨てるって選択に何の理由があるのさ!
ただ選んで欲しいから殺すの!? そんなのあり得ない!
私は絶対に助ける! 助けるんだ! 嫌われてもいい!
王様に嫌われようと、私が私を嫌いにならなければそれで良い!
私は、私自身が嫌いになるのが1番嫌なんだから!」
「……」
リズちゃんの返答に驚いたのがミザリーさんの表情から分かった。
リズちゃんからそんな言葉が出てくるとは思わなかったんだ。
「……そうですね、自分で自分を嫌うのが…1番、辛いですからね」
「そうだよ、だから私は自分が嫌いになる選択をしたくないの。
利害とか利益とか、そんなのどうでも良い!」
「……分かりました、ではもう何も言いません…
目の敵にされても知りませんよ?」
「良いよ、目の敵にされたって…誰かを救えるならそれだけで良い!」
大きな声で堂々とリズちゃんは自分の決意を宣言した。
リズちゃんの決意は本物だって分かる。
「……本当に大きな声で堂々と宣言しますね…ここは一応人前ですよ?
そんな大声で叫んで、恥ずかしくないのですか?」
「自分が思ってる本心を心の底から言ってるだけだよ、恥ずかしいわけ無い。
…て言うか、そうだったね、ここって兵士さん達の前だった。
あはは、ついついいつもの感じで話しちゃったよ。でも、本心だよ。
私は絶対に王様を助けて貴族の皆を助ける。誰も見捨てたりなんかしない!」
「……凄い決意だな、リズちゃん」
「うん! だから、兵士さん達…ここで皆を守ってね。
私は行くよ! 王様達を助けに!」
「……あぁ、分かったよ。絶対に守ってやる。
ここに居る、君を応援する全員を」
「うん! 私、皆の応援するの大好きだから! じゃあ、行ってきます!
……と、言ったけど…あはは、私、1人じゃ弱いんだよね…」
階段近くまで走ったリズちゃんが少しバツが悪そうに笑いながらこっちを見た。
「だ、だから…え、エルちゃん、リト姉ちゃん、ミリア姉ちゃん、ミザリー姉ちゃん。
その…い、一緒に来てくれる…かな? む、無理には言わないけど…その…一緒に」
「ふふ、何よそれ! くだらない質問ね! そんなの一緒に行くに決ってるわ!」
「あぁ、未来の勇者様に死なれては困るからな」
「えっと、私も入ってるんですね…いや、私要らないと思うんですが。
ま、まぁ、一緒に来いというなら行きますよ? それが専属受付嬢ですから」
「うん、絶対に一緒に行くよ、私はリズちゃんを裏切ったりなんかしない。
一緒に戦うって、決めてるから…だから、信じて欲しい…私を」
「信じる? 何でそんなに重そうに言うの? そんなの、当然だよ!」
リズちゃんの笑顔はとても眩しかった…全く何かを疑ってない
純粋無垢な笑顔だった…私の正体を知ってるのに
それなのに私に…こんな笑顔を向けてくれるなんて…
うん、もう絶対に自分に負けたくない…私は強く…強くなる!
 




