魔術師の天敵
私達は急いで城から飛び出した。
…目の前に広がった光景は悲惨な物だった。
城門は何カ所も吹き飛んでおり、建物はボロボロだった。
「そ、そんな…」
「……城壁の上、あそこに魔術師が揃ってるわ。
あそこを叩けば、何とか状況は好転するんじゃ無い?」
「勇者の! 貴様ら! 何をのんびりしてる!
お前達は俺達の代わりに死んでこい!」
「誰?」
「ふん! 俺の顔も知らないのか!? 良いか! 俺は勇者に!」
「自慢話してる場合じゃないでしょが!」
私達に自慢話をしてくる勇者候補へ攻撃が飛んで来た。
リトさんが急いでその子を弾き飛ばし、飛んで来た攻撃を防ぐ。
「クソ! やっぱり数多いわね! ほら! 下がってなさいよ!」
「な! 勇者候補紛いの貴様らが命令するな!」
「はん! 文句垂れてないで下がりなさい!」
「撃ち込め! 勇者候補を殲滅しろ!」
「あぁもう! 攻撃しないで!
ドレインフィールド・スパイダーネット!」
周囲にドレインフィールドの線を複数展開する。
周囲から何発も飛んで来る魔法攻撃は
私が展開したドレインフィールドに吸われて行く。
そして、吸収した魔力は城門前に展開した魔法陣に集まる。
「何だ!? クソ、撃て!」
「ちょ、ちょっと数多すぎない!? 何人居るのよ!」
「30人は揃ってるな。魔術師は本気でこの国を滅ぼすつもりらしい。
そして、既に城付近まで追い込まれていると言う事か」
「クソ、クソ! 何で俺達を狙うんだよ! こ、こいつらを狙えよ!」
「急いで下がってよ! 代わりに狙われてあげるから!」
「こ、こんな、こんな事あって良いわけ無いだろ…お、俺達は…勇者…だ」
「勇者ってのは随分と勇気が無いのね? 良いから下がれっての!」
「クソ、クソ、クソ!」
「そう言えば、あんたの補助は?」
「死んだよそんなの!」
……この襲撃で何人死んだんだろう…いや、そんな事を考えてる余裕は無い。
まだ増えるかも知れないんだから、だから、戦うしか無い!
「クソ、何なんだよこの赤い糸は! 魔法が通らないぞ!?
防御魔法か!? こんな魔法、知らないぞ!」
「私達も一旦城に戻りましょう!」
「えぇ!」
「ま、待て!」
私達も急いで城の中に帰る。危ないからね。
「お、おい! この赤いの通れるぞ! 追え! 追え!」
「ふん! 魔法を防御するだけか、無駄な真似を!」
「え!? あの赤いの普通に通れるわけ!?」
「ま、魔法を防ぐだけですから…」
「そ、そう…ま、まぁ良いわ。迎撃すれば良いだけだし」
「いや、迎撃は必要ありません。私の能力は私が1番知ってますよ」
魔術師達がドレインフィールドを突破してくると同時に
私は自分の指を鳴らした。
「なん、うが!」
私が指を鳴らすと同時に、城の扉前に展開していた魔法陣が輝き
周囲に無数の魔力の弾丸を展開し、魔術師達を追尾して撃ち抜いた。
「これでお終いですね」
接近してこようとしてきた魔術師達を全て気絶させる。
「こ、こっち来たわよ!?」
周囲の魔術が倒れると、光りの弾丸は私達の方へ来る。
だけど、その弾丸は私に当り、全部吸い取り消える。
「ふぅ…よし、次行きましょう!」
「……エルちゃんは確かにいつも凄く頼りになるわ、えぇ。
でも、今回のエルちゃん…頼りになるってレベルじゃ無くない?」
「ふふ、エルの存在がどれだけ大きいか、ハッキリと分かるな」
「私は魔法に強いだけですよ。相性が最高過ぎるだけです」
「全く…こりゃ、私達マジ要らないわね、今回」
「私も強くならないと!」
「得手不得手はあるよ、私は魔法使いの相手は凄く得意なの。
でも、魔法を使わない相手にはそんなに強くない。
だから、そう言う時は皆に頼るから」
「でも、私もこう言うとき戦えるようになりたいよ。魔法使えたらな」
「あはは、むしろ今は魔法が使えない方が良いかもね」
「言えてるわ。よし、じゃあ急いで今度は国王とかに合流しましょう。
もう相当追い込まれてるみたいだし、城内を守った方が良いわね」
「はい、分かりました!」
私達は急いで国王様が居ると思われる場所へ移動した。
その道中に私は至る所にドレインフィールドを糸状にして展開した。
城内であれば、攻撃が出来る場所は決ってるからね。
相手は魔術師、魔法での攻撃が主力なんだ。
だから、周囲にこのドレインフィールドを展開すれば
それだけでとんでもない妨害になる。
兵士達はあまり魔法を使わないから効果は薄いしね。
「敵だ! 撃て!」
道中、何度か魔術師に見付かり、攻撃を仕掛けられた。
「な、消えた!?」
だけど、攻撃は全て私が複数展開したドレインフィールドに吸われる。
でも、糸状だし、フィールドじゃなくてラインの方が良いのかな?
「さぁ、眠れ!」
魔法をかき消されて驚いてる魔術師達は
ミリアさんが弓矢で無効化して進行できてる。
「こりゃ、マジで私達いらないわね、今回」
「いざと言う時に前衛は大事だぞ? 気を緩めるな」
「分かってるわよ、任せなさい。最悪の場合は絶対にカバーするわ」
何とか方々を回って、ようやく王様達が居る最上階へ続く階段に
「貴様ら! この先には進むな!」
「な! 馬鹿なの!? それどころじゃ!」
「進むな! 下々の者が通れる場所では無いのだ! 下層へ行け!」
「し、しかし…わ、我々は勇者候補です、実力もありますし」
「関係ない! ここは我ら近衛が守っている、勇者候補など不要だ!
全く、貴族の候補であればまだしも、貴様らみたいな市民上がりなど」
「わ、私達は強いんだよ! い、行かせてくれないと王様達が危ない…」
「ふざけた事を言うな! 我々を誰だと思ってる! 下がれ!
国王様からの命令もある、下々の者は決して入れるなとな!」
…は、入れなかった…最上階にだけは進むことが出来なかった。
ま、不味いなぁ…で、でもこのままだと敵対されるかも知れない…
それだけは避けないと…そ、それにこの人達も強いし、だ、大丈夫だよ。
「仕方ない…市民達の方を探しましょう」
「そうだね」
そして私達は再び下層に降りてた。
そこでようやく市民達が避難してる場所に辿り着いた。
「クソ! ここを突破させるな! 俺達の死は市民の死だ!」
「あぁ、分かってる! ジェルさんに任された以上は必ず守り通す!」
「そこをどけろ! 魔法も使えない兵士に何が出来る!」
「魔法が使えなかろうと! 俺達は兵士だ! そう簡単に倒せると思うな!
俺達には覚悟がある! 守るべき市民が居る!」
「ふん、覚悟だけは認めてやる、だが雑魚は雑魚!」
「壁になれ! あの魔法で扉を破壊させるな! 死んでも守り切れ!」
「絶対に守るぞ! 俺達が家族の盾だ!」
「脆い盾は意味が無い! 無駄な抵抗だ! 吹き飛べ!」
「無茶なのは間違いないし、無謀なのは確実だけれど
でもね、数秒の時間って言うのは無駄じゃ無いの」
「な…魔法が消えて…」
「うりゃぁあ! させないから!」
私が魔術師の魔法を吸収して、即座にリズちゃんが魔術師を制圧した。
「な…に…」
「勇者候補ここに見参! なんちゃって! あはは!
大丈夫? おじさん達、ありがとうね! ここを守ってくれて!」
「勇者候補…何故ここに、勇者候補は皆、国王様の元で一緒に守られて…」
「いや、あの姿は…ジェルさんの娘さん!? も、戻ってきたのか!?」
「お待たせしました、お父さんの方も無事です」
「…はは、こりゃ心強い。ジェルさんの娘さんが来てくれるなんてな」
「でも、お父さんそんなに有名人なんですね」
「あぁ、君のお父様は本当に素晴らしい方だ。
俺達はそんなジェルさんに付いていくと決めた。
ま、近衛兵とかそう言う貴族上がりの連中はジェルさんの事嫌ってるが」
「やっぱりエルちゃんのお父さん凄いよね!」
「えぇ、あの人は過去最も出世した方と言えますね。
貴族やそう言う、家系関係無しに出世したのは彼くらいでしょう」
「あぁ、それなのにあの人、得意気にしないしな。
俺達の相談にも乗ってくれるし、あんな人の下で働けるんだ。
下々の人間って方が兵士は楽しいかもな」
「冒険者やれば上下関係とか無いから楽よ?」
「いや、あの人の下に付いてるってのが嬉しいんですよ。
それより、話はここまでにしましょう。状況が悪すぎる。
…こんな事、兵士として言いたくはありませんが
一緒に、我々と戦ってくれますか?」
「愚問ね、私達の中にはジェルさんの娘さんが居るのよ?」
「はい、一緒に戦います!」
「ありがとう」
今はこの襲撃をどうにかして耐え抜かないとね!




