諦めない想い
「エルちゃん、例えエルちゃんが自分の事を
裏切り者だなんて思ったとしても、私はそうは思わない!
私はエルちゃんの事を知ってる。酷い子じゃ無い事くらい分かる!
どんな理由があったとしても、私はエルちゃんを助ける!」
リズちゃんの表情は本気だった。
疑ってたり、迷ってたりもしてない…
躊躇いなく、私を救うと叫んでくれてる。
でも、私には…私にはその優しさを受入れる事は出来ない。
私は色々な人を巻き込んだ、そんな外道なんだから。
「私は裏切ったんだ! 恐怖に負けて勇者様を殺した!
私はどうしようも無い外道でどうしようも無い屑なんだ!
私なんかが居たせいで、色々な人の大事な物を奪った!
私なんかが居たせいでリトさんの親友や家族は死んだ!」
「それは、大事な物を取り戻す為に起った事…
勿論、許せないことも多いわ、あのクロノスは許せなかった。
自分の為だけに周りの大事な物を全部奪い続けたのだから。
でも、私はあなたを怨まない。あなたは私を救ってくれたからね」
リトさんは両手を組み、優しい笑みを私に向けてくれた。
皆…優しすぎる…私はずっと皆を騙してきたのに、どうして…
「どうして…どうして私なんかの為に…どうして!」
「誰もお前の事を、なんかなんて思って無いと言う事だ。
お前は私達の大事な仲間で、大事な親友だ。
今までお前の姿を見て、お前が救ってきた者は
必ずお前の事を救おうと動く筈だ。ロッキード王国の兵士も
私達に力を貸してくれたよ。全員、事実を知ってる」
「私が世界をこんな風に無茶苦茶にしたんだから!」
「そんなの関係ない! 私はエルちゃんを助けるって決めた!
私が私自身で選んだんだ! 絶対に助けるって!
例えブレイズが相手だとしても、絶対に助け出すって!」
リズちゃんは本気だ、本気で私を奪い返すつもりだ。
例え相手がブレイズお姉様だとしても…戦って奪い返すつもりだ。
「……良いわ、私もあなた達が来て素直に嬉しいと感じる。
私の妹が大事な仲間を手にして居ると理解できたのだから」
「え? もしかして…1週間待機って言うのは…」
「そうよ、あなたの仲間があなたの真実を知ってもなお
あなたを助けるためにやってくるか、それを試したまで。
勿論、ここは低レベルでは相手にならないくらいの危険地帯。
ここを突破できたと言うだけで、実力は十分許容範囲」
「私達を試すなんて、どうしようも無く無意味な事よね。
私達はエルちゃんが一緒に過ごした、大事な仲間よ。
200年前、何があったか詳しくは分からないけどね
その程度の事で見捨てるような、そんな薄情な連中じゃ無いわ!」
「私は、私の親友を見捨てること何て、絶対にしない!」
全員、ブレイズお姉様に向けて武器を向けている。
皆、本気で戦うつもりなんだ…ブレイズお姉様と。
「はぁ、はぁ、はぁ…あ、あのですね皆さん、わ、私の事を守って。
って、あれ? 私、登場のタイミング間違ってます?」
「…ミザリー、締まらないタイミングで来たな」
「……ふ、その子も来たのね。これは予想外だったわ。
良いでしょう、あなた達に最後の試練を与えましょう」
ブレイズお姉様が槍で地面を叩き、周囲に音を鳴らす。
同時に地面が激しく揺れ始め、大きな影が私達を包んだ。
「な…これは…」
「最大のドラゴン、ジーラス。最強のドラゴンよ。
あなた達に与える最後の試練、こいつを倒しなさい」
「ブレイズ、舐めるなよ!」
ジーラスはブレイズお姉様の呼びかけに応えたはずなのに
ブレイズお姉様に大きな手を振り下ろした。
「……従いなさい」
「ぐ、が!」
でも、ブレイズお姉様に振り下ろされた腕の方が砕け散る。
ブレイズお姉様は一切動いて無い…
「な…」
「ぐぅ…おのれ、ブレイズ…」
「あなたが私に勝てるはずが無いでしょう? さぁ、従いなさい」
「く…必ず殺してやる」
ブレイズお姉様に腕を破壊されたジーラスは
仕方なくブレイズお姉様の指示に従った。
「あのドラゴンの腕を一切動かずに破壊するなんて…
そりゃぁ、私の斧なんて簡単にぶっ壊される訳よ」
「ふん、貴様らを殺す事は造作ない」
「どれだけ大変な相手だろうと、エルちゃんを助けるためなら!」
リズちゃんは短刀では無く、剣を握っていた。
それも、パッと見ただけでも匠の技で打たれたと分かる程の剣。
鏡の様に磨き上げられた刀身が凄く綺麗だった。
「そうね、やりましょうか」
リトさんが取り出した斧も、非常に精巧な鋼だった。
普段持ち歩いてた斧よりも遙かに鋭く見える斧だった。
あんな武器を皆、いつの間に手に入れたんだろう。
「さぁ、行くぞ!」
リトさんとリズちゃんが一気にジーラスとの距離を縮めた。
ジーラスはすぐに2人を迎撃しようと攻撃するけど
2人はその攻撃を避けて、一気に距離を詰めて攻撃する。
半端な攻撃ではドラゴンの鱗は貫けない。
だけど、2人の武器はジーラスの鱗を貫いた。
「く…何だ、この武器は…」
「ロッキード王国の技術の粋を集めた武器よ!
早々手にすることが出来ない、最高の逸品!」
「皆、協力してくれた! エルちゃんを取り返すことに!」
「……」
「これが、努力の結果と言う事になるのかしらね」
ドラゴンは国を滅ぼすほどに危険な存在だったはず。
だけど、リズちゃん達はそのドラゴンを追い込んでる。
「…予想よりも遙かに早く…目覚めたのかしらね、勇者が」
「クク、ただの人間が大した実力だ、だが!」
でも、相手は最強のドラゴン。一時期追い込んでは居たけど
ゆっくりとリズちゃん達は巻返されていった。
「く、やっぱり楽じゃ無いわね…」
「でも、負けないんだから…!」
リズちゃん達はゆっくりとだけど、確実に追い込まれている。
このままだと…皆、やられちゃうかも知れない…
「ふん!」
「うぐぅ! クソ、流石ドラゴン…ったく!」
「決定打を与える事が出来ないな…」
強固な鱗に阻まれて、決定打は全然与えられない。
攻撃は与えられず、確かな一撃だって入らない。
このままだとジリジリと削られて、負けてしまう。
そんなの、見てるだけでも分かった…
「ふん、人間風情が侮るなよ」
「一撃を叩き込めれば勝算はあります、リトさん!」
「分かってるわよ! うわ!」
リトさんは即座にジーラスに迎撃されて、弾き飛ばされる。
致命打では無いにしても、あの一撃は相当応えるはず。
「リト姉ちゃん! この!」
「無駄だ」
「いぐ!」
「リズちゃん!」
リトさんのカバーに入ろうとしたリズちゃんが…
結構な怪我だけど、致命傷では無い筈…だけど…
「はぁ、はぁ…はぁ、はぁ…う、うぅ…はぁ、はぁ…」
「リズちゃん、出血が酷いわ! 一旦下がって!」
「いや…下がらない…」
リズちゃんの利手はしばらく使える状況じゃ無い。
強力な一撃を受けたんだ…満足に立ち回れるはずも無い。
あの出血じゃ…流石に動き回るのは…
「私は絶対に! エルちゃんを助けるんだぁ!」
「くだらん…死ね、小娘」
リズちゃんに向けて、ジーラスが巨大な手を振り下ろした。
「防げるか!? クソ、やるしかない!」
ジーラスの攻撃を止めるためにミリアさんが防御魔法を発動した。
だけど、その防御魔法は容易に砕かれてしまった。
「クソ! リズ!」
「私は…負けないんだから…負けないんだ! エルちゃんを助けるって!
私はそう決めて、ここに来たんだ! 死んでたまるかぁぁあ!」
振り下ろされた手に向けて、リズちゃんは剣を振るった。
……勝てるわけが無いんだ、リズちゃんだけの力じゃ
あの巨大なジーラスの攻撃を受け止めることは出来ない。
「何!?」
だけど、リズちゃんの攻撃はジーラスの腕を切断できた。
……あぁ、やっぱりそうなのかも…やっぱりリズちゃんは…
「…私は、1人じゃ弱いけど…2人だったら凄く強い!
エルちゃん! そうでしょ!?」
「……エビルニア、それがあなたの選択であり
彼女達の選択…そう言う事で良いのよね?
あなたはまた後悔する事になるかも知れない」
そうかも知れない、私はまた後悔するかも知れない。
勇者様を殺したように、私は…リズちゃんを殺す事になるかも知れない。
優しすぎるリズちゃんは…きっと弱いままお父様と戦う事になる。
だけど…そんな事を考えても…やっぱり私は…
「……私はもう…裏切れないよ…」
「そう…ジーラス、ここまでよ」
「……ふざけるな、この俺にこれ程の傷を負わせたんだ。
この娘は殺さなければならない!」
「……そ、じゃあ何も言わないわ。私はあなたを助けない。
ジーラス、あなたは死ぬわ。もうあなたに勝算はない」
「ふん、抜かせ!」
「エルちゃん! 一緒に戦おう!」
「……うん、リズちゃん」
もう裏切れない、裏切りたくない…だから、後悔するかも知れないけど
でも、もう裏切らない、私はリズちゃんを助ける!
 




