勇者が選んだ道
窓から外を見る…周囲はドラゴンが飛び回ってた。
非常に危険な山頂…私達はそこで過ごす。
「ブレイズお姉様…レイラードは?」
「1週間後に会えるわ」
「1週間後? どうして?」
レイラードが合流するまでここに待機するって事なのかな。
…そうなのかも知れない、私はそう解釈して夜空を見上げた。
とても…綺麗な夜空だった…星も綺麗に見える。
(えへへ、エルちゃんと友達になる事)
……何で、そんな事を思いだしたんだろう。
リズちゃんとの会話…私は別れるって決めたのに。
どうして私は……こんな事を思いだしてるんだろう…
私は裏切った、200年前と同じ様に裏切った。
最初から裏切ることになるって分かってたのに…
私は皆に付いていった…そんな罪深い…行動を…
許されるわけが無いって事くらい分かってたのに
それなのに一緒に付いていって、予想通り裏切っただけ。
……何で後悔なんてしてるんだろう、辛い思いをしたのは
私なんかじゃない、リズちゃんに違いない。
「……」
「たった1週間よ、待ちなさい」
「うん」
ブレイズお姉様の狙いはよく分からなかったけど
私は1週間、ここで過ごすことを決めた。
「ふぅ、久しぶりに食べたけど、あなたの料理はやっぱり美味しいわね。
私も何とか再現しようとしたけど、全く再現できなくてね。
ミルレールもテイルドールも料理下手だし、掃除も出来ないからね」
「…そうなんだ、あはは、全部私がやってたからね」
「えぇ、あなたが居なくなってあなたのありがたさが良く分かったわ。
本当、いつもありがとうね、炊事も洗濯も全部こなしてくれて」
「私にはそれ位しか出来ないから…役に立ててたなら良かったよ…」
「……でも、あの2人はろくに感謝もしなかったわね。
私もハッキリと感謝の言葉を伝えることも無かったし」
「そんな事、ブレイズお姉様はちゃんと私に色々とお礼を言ってくれてたし」
「私もこれが当然だと考えて、心の底から感謝はしてなかったわ。
本当に薄情な姉よね、私は」
「そんな事無いよ、ブレイズお姉様は私の大事なお姉様だから」
ブレイズお姉様が居てくれたから、私は頑張ろうと出来たのかも知れない。
レイラードが生まれるまでは、ブレイズお姉様の為に頑張ろうって。
「……ねぇ、エビルニア」
「どうしたの?」
「あなたはエリエル・ガーデンとして生きてた間だ、楽しかった?」
「……うん、とても楽しかった。
友達も出来て一緒に成長して支えて支えられて。
もう完全に成長してるって思ってた人の大きな成長も見れた。
私に足りない物だって分かって、毎日毎日…楽しかった」
全部新鮮だった、誰かに支えて貰うのは凄く嬉しかった。
誰かを支えているって言うのも凄く嬉しかった。
「…そう、ねぇエビルニア、あなたは…大事な仲間達はどうしてると思う?」
「え?」
「あなたの事実を知って、どう思ってると思う?」
「……裏切り者って思ってると…私は思うよ」
そう、私は皆を裏切ったんだ…裏切り者と言われるのは当然なんだ。
私は裏切り者なんだ、誰かを裏切ることしか出来ない…そんな屑なんだ。
私はどうしようも無い外道で…私は…
「そう、あまり自分を貶まない方が良いわよ、エビルニア」
「どうして?」
「あなたは自分を外道だとか屑だとか考えてるかも知れない。
だけどね、本当に外道だったり屑だったりする奴ってのはね
家族からも仲間からも誰からも最終的には愛されない物よ。
でも、あなたはね、少なくとも私からは今も愛されてる。
あなたは屑なんかじゃ無い、外道なんかじゃ無い。
そういう風に自分を思わないで、そういう風に思うって事は
私があなたの事を、本当の意味で愛してないって言ってる様な物よ」
ブレイズお姉様は…本当に優しいよ。
そして、何処か励ますのが下手って感じがするよ。
励ますと言うより、それじゃあ、まるで脅迫だよ。
でも、大事にされてるってのは…何となく分かった気がする。
「……うん、ありがとう、ブレイズお姉様…」
私はそんな毎日を少しの間だ、ブレイズお姉様と過ごした。
何だか凄く癒やされる様な時間だった…落ち着く時間だった…
「…5日目ね」
「うん、後2日で家に戻るんだね」
「そうよ」
「でも、どうしてここで1週間も過ごすの?」
「……そうね、窓を見れば分かるわ」
お姉様に言われたとおり、私は窓の外を見てみた。
窓を僅かに見るとほぼ同時くらいに巨大な影が落下する。
大きな地震が私達を包み、落下した影の正体が見えてきた。
それは、ドラゴンだった…ドラゴンが落下してきたんだ。
上空で喧嘩でもしてたのかな?
「エルちゃーん! 迎えに来たぁぁあ!」
「……」
ドラゴンの姿が見えて、少しして…大きな声が聞えてきた。
とても元気が良い、叫び声だった…どうして…
「だぁもう! たった1週間でここ登るとか苦労するってのにさ。
本当えげつない条件出しやがるわね、ブレイズって奴も!」
「まぁ、僅か5日で登頂できたんだし、丁度良かったんじゃないか?
私達への試練としては完璧に近いだろう」
「…どうして」
「……人って言うのは、本当に予想しやすいわね」
ブレイズお姉様が床に槍を突き立てると、私達が過ごしていた
小さな家が強い風に包まれて、バラバラになった。
「ッ…姿見せたわね」
「待ってたわよ、人間」
「エルちゃん!」
「…何で…どうして…」
私には理解できなかった、どうして裏切り者である私の為に…
こんな危険な場所に来たのか…分からなかった。
「エルちゃん! 助けに来たよ!」
「私は! あなた達を裏切ったのに!」
「はん、裏切った奴が泣きっ面を見せるもんじゃないわよ?
裏切ったってんなら、ドス黒い笑顔でも見せりゃ良かったのよ」
「ま、仮にそんな笑顔を見せられたとしても
お前にその笑顔は似合わないだろうがな、エル」
……私には分からなかった、どうしてここまでするのか…
私には分からなかった…




