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勇者の選択

ライズ山脈、ドラゴンが飛び交う危険な山脈。

人はまず近寄らないし、魔物しか周囲には居ない。

魔王の娘である私達が留まるには丁度良かった。


「エビルニア、何故私がここに連れてきたか、分かる?」

「…私を連れ戻すためでしょ…」

「そう、あなたを家に連れ戻すのが目的よ」

「…どうして、私にそんなにこだわるの?」

「理由はいくつかあるわ。まずはレイラードのこと。

 これは当然だけどね…何より、あなたの為でもある」

「私の…為? 何で?」

「……勇者は何故抵抗しなかったのかしらね?」

「…え?」


勇者様がどうして抵抗しなかったのか…そ、そんなの呆れたからとか…

そ、それか私が裏切ったのがショックで抵抗しなかったとか。

い、いや、勇者様が優しすぎるから私の事を案じて抵抗しなかったとか。

で、でも、それならどうしてリンカも抵抗しなかったんだろう…

勇者様が抵抗しないことを選んだから…そ、そうだよ、きっとそうで…


「そして、テイルドールとミルレールを倒したのは…誰だった?」

「……」

「どうやって、あの2人は倒されたの?」

「……そ、それは」

「何故、倒せたの?」

「そ、それは…それは、それは…」

「そして、どうしてあなたはお父様に致命傷を与えられたの?」

「あ、あぁ、あ、そ、それは…お、お父様がゆ、油断してた…からで…」

「あなたが勇者と仲間を殺したからでしょ?」


そ、そんなの…そんなはず…そ、そんな事…そんな…


「あなたは殺した相手から魔力を奪える。テイルドールを倒したとき

 相当の魔力を奪えたのかも知れないけど、テイルドールの凄いところは

 無尽蔵に魔力が発生するところであって、無尽蔵にため込むわけじゃない。

 当然、とんでもない程の貯蔵量はあるでしょうけどね。


 だけど、あの子はあなた達との戦いで魔力をかなり使ってたわ。

 すぐに溜まるでしょうけどね。

 

 そして、勇者と…天才の魔法使い、更には天才サモナー。

 相当な魔力があったはずよね…テイルドールほどじゃないにしても」

「……ど、どうして、あの時の事をお姉様が…」

「あなたも勇者も私を殺そうとしなかったじゃない」


勇者様は仕方ない場合を除いて、相手を殺そうとしなかった。

だから、ブレイズお姉様もレイラードもあの場面では死んで無かった。

ブレイズお姉様は私達と戦ったけど、加減をしてた。だから、勝てた。

レイラードはそもそも私と戦おうとしなかったんだ…勇者様は殺さない。


「見せて貰ってたわ、全てね…手出しはしなかったけど」

「……」

「テイルドールを倒したのも、ミルレールを倒したのも

 全て、あなたのオーバーヒートだったわね。強力な技よ。

 大量の魔力を消費し、蓄えただけ放てる大技。

 魔力量が少なくても、魔力を奪い多大に溜めることが出来るあなたが扱えば

 それはそれはとんでもない破壊力になるでしょうね」

「……」


わ、私がため込める魔力量は大分大きいはず。

テイルドールお姉様の魔力を奪い、多少であれば均衡を保てるほどに。

でも、自主的に作り出し、ため込むことが出来る魔力量は少なかった。

奪った魔力は沢山溜まるけど…自分の魔力はあまり溜まらない…


「でも、それ位しか決定打が無い。それだけ200年前の勇者達は弱かった。

 あなたが居なければ、城にさえ辿り着けなかったかも知れないくらいに」

「そ、そんな事は!」

「そして、今、あなたの仲間達はどう? まるで200年前と同じよね?

 リズという少女は優しすぎる。リトという女性も甘すぎるわ。

 あのエルフも同じ、無理に殺そうとはしない。

 

 仮にあのリズという少女が勇者だったとしても

 成長出来てないんじゃ無いの? でも、あなた達はきっと辿り着けてしまう。

 200年前と同じくあなたが居るから。あなたは強いわ。

 人間の姿になろうとも、その強さは衰えるどころかむしろ強くなってる。

 

 飽くなき研究と魔法の技術強化、きっとまだ強くなるでしょうね。

 だから、あなた達は恐らくお父様の元に辿り着けるわ。

 でも、お父様を倒せる方法は無い…一撃に賭ける以外に」


…あの時と、同じ…あ、あの時…わ、私は…裏切って…


「同じ後悔をあなたはもう1度する事になる。

 お父様を倒すためにはあなたは同じ事を繰り返すしかない。

 あなた達が優しすぎるから、あなた達は後悔を続ける事になる」


……あの時と同じ様に、あのままだったら私は…リズちゃんを…


「それが分かっていた、だからあなたを連れてくることに決めた。

 しばらくの間は状況を判断しようとしていたけどね。

 でも、可能性は感じてた。リトという女性の最後の決断。

 自分にとって、とても辛い選択を彼女は選んだ」


リトさんは最後…自分の親友や両親と一緒にクロノスを斬った。

そんな辛い選択をリトさんは選ぶ事が出来た。


「だけど、それはある意味では自分を犠牲にする選択が出来ると言う事。

 本当にあなたの周りは…優しすぎる人が集まってしまうわね。

 でも、あなた達以外は無能しか居ない。優秀なのも居るけど

 勇者候補だなんて無能を晒すような手法をとるなんて愚かすぎるわ」

「どう言う事?」

「…勇者候補だなんて、勇者の誕生を遅らせるだけに過ぎないわ」


そんな真実を私は知らなかった…勇者候補を増やすと言う事は

逆に勇者の誕生を遅らせる…ど、どう言うこと?


「魔王は人類の絶望によって力を得る。だからお父様は人類を滅ぼさない」

「……」

「なら、その真逆に近い勇者という存在は、どうやって生まれるのかしら」

「…まさか、人類の希望?」

「そうよ、人々の希望によって勇者は生じる。勇者候補だなんて言う

 人々の希望を分散させるような真似をしても、逆効果でしかない。

 人の希望を分散させてしまえば、当然だけど勇者の力は劣る。

 でも、あなた達はその人類の愚行さえ打破して、勇者になりかけてるわ。

 その対象は恐らくリズという少女よ」


ブレイズお姉様が考えるに、今回の勇者はリズちゃん…


「でも、彼女は優しすぎる。だけど、優しすぎるが故に彼女は状況を打破できる。

 あなた達は人間達のせいで窮地に追い込まれていると言える」

「……」

「リズ・ヒストリー、彼女は無意識のうちに周囲をまとめて行ってる。

 今回のアンデッド騒動でリズ・ヒストリーはより勇者に近付いた。

 ロッキード王国の希望をその優しさ故に彼女は背負った。

 恐らく彼女はもう少しで勇者として完全に目覚めることでしょう。


 でも、全く皮肉な話よね、優しい勇者は強くなれず死ぬのに

 優しくない勇者は自身の欲に飲み込まれ、最後は死ぬ。

 どう足掻いても、勇者という存在は死ぬ事しか出来ないなんて」

「どう言うこと!? ブレイズお姉様…それは」

「そのままの意味よ、この世界は勇者に何処までも残酷なのよ。

 ただ何もせず、守られることが…この世界では最も幸せなのだから」


そんな言葉を聞いて、私は動揺する…そんな事、ある訳がないって。

私は、そんな風に感じた…だけど、ブレイズお姉様が嘘を言うとは思えない…

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