真相
「魔王の娘、裏切りの少女、エビルニア・ヒルガーデン
彼女は200年前、とある理由で魔王を裏切った」
とある理由、それは所詮は利己的で、自己中心的な理由。
私はただ、勇者様に一目惚れして、家族を裏切った。
「彼女の境遇を考えれば、何故今まで裏切らなかったのか
それさえ不思議な境遇だったわ。彼女は他の姉妹達
私を含めて、彼女は徹底的に貶まれていた」
「何を! そんな事!」
「あなたは何も言わなくて良いわ」
急いで訂正しようとした、だって私はブレイズおね様に貶まれた
そんな風に思ったことは1度も無かったし、尊敬してたから。
だから、ブレイズお姉様からそんな言葉を聞いたとき、つい反応した。
その行動だけで、私がエビルニアだと分かってしまうと思う。
でも、そんなのどうでも良かったし、もうバレてるような物だ。
私はまた1人になる。それ位分かってるよ。
嫌われ者の魔王の娘である、私は…1人で無くてはならない。
「テイルドール、ミルレール…この2人にエビルニアは
何度も何度もその命を奪われ、また蘇っていた。
魔王の娘である以上、魔王が無事である限り蘇り続ける。
家事も何もかも全て、彼女がこなしていたわ。
勿論、彼女がその事で2人に評価されていたことはない」
「な、なんで…い、命をって」
「それでも彼女は成長を望み続けていたわ。えぇ、何度もね。
その度に打ち負かされ、それでもまた強くなろうと努力した。
だけど、魔物である以上、私達に成長なんて物は存在しないのよ」
それは事実だった、魔物である以上、正攻法で成長する手段はない。
それでも私は強くなろうとした、何度も何度も魔法を研究して
成長出来ないけど、知識を得ることは出来るのだから。
だからこそ、私はここまでのレベルで魔法を扱える様になった。
「だから、彼女は知識を欲し、ひたすらに知識を得ることにした。
とは言え、そんな恐怖しかない環境で成長なんて諦めるかもね。
だけど、彼女は諦めなかった、自分を慕う妹が生まれてきたから」
「い、妹…って」
「第5女、レイラード・ヒルガーデン。まだ出会ってないわよね?
それに、第5女が居るなんて事も、あなた達は知らないかも知れないわね。
それはそうよ、だって、彼女は全くと言って良い程に活動してないのだから」
「レイラード…話しに聞いたことはあるが、200年前から大した噂は聞かないな」
レイラードはずっと私に付きっ切りだった。
私の事を凄く慕ってくれて、だから誇れる姉になりたいって…
「彼女はエビルニアに取って、大きな心の支えになってたわ。
彼女はそんな妹に応えるために、ひたすらに努力をした。
成長しないのであれば、技術を身につける。
瞬間的に魔法を発動出来る、そんな技術をね。
一瞬の間に魔法陣を組み、少ない魔力であったとしても
最高の火力を出す方法を彼女は必死に模索した」
「…そ、その技術って…いや、確かにずっと変だとは思ってた。
あれだけの技術を…賢者であろうとも辿り着けないほどの技術を
何故、ただの兵士の娘である、エルちゃんが扱えてたのか…
生まれ出でて、僅か15年程度である筈の彼女が…」
「それは、彼女が魔王の娘、エビルニア・ヒルガーデンだからよ。
数十年だなんて、人の一生程度では辿り着けない程の技術。
数百年の時を生き、辿り着いた境地こそ彼女の魔法よ。
人の技術ではとても辿り着けない程の境地、彼女が強いのは当然」
私はそれしか出来なかった…レイラードに誇れる姉になる為に
強くなる為には…ただ知識と技術を極める事しか出来なかった。
私にはそれしかないから。それ程にまで私は弱かった。
「……」
「そして200年前、彼女はより強さを求めるために私達の元から離れた」
「……な、なんで」
「嫌気が差したのか、それとも何か目的が出来たのか」
「……強くなる為に、私は家族の元から離れた」
「え、エル…ちゃん…」
私がブレイズお姉様の問いに答えたことで全員が驚愕した。
私がこの問いに答えた事は私がエビルニアだと言うことを確かにした。
私はエビルニア・ヒルガーデン…魔王の娘、偽りの人間。
「私は…レイラードに相応しい姉になる為に、旅をしたいと思った。
そして、その旅先で…私は勇者様に出会ったの。
勇者様は私が魔王の娘だと知っても、私に寄り添ってくれた。
とても…とても、優しい…人だった…」
泣いてる自覚は無かった…でも、私はどうやら涙を流してるみたいだった。
「でも、私は勇者様を裏切ったの…私はただ、自分の為に…
死にたくなかった! 死にたくなかった! 色々な最後を見た!
大事な子供を残して死んだ母親を見た! 無意味な最後も見たよ!
山賊にお金の為だけに殺された人だって見た…
襲ってた人に不意を突かれ、返り討ちに遭った人も見た。
返り討ちにした人は発狂して、何度も何度も殺した人を刺して、刺して…
最終的に自分自身さえ、自分の手で殺した…そんな最後だって見た。
私は死ぬのが恐かった! 死にたくなかった! 死にたくなかったんだよ!」
私は死にたくなかった…死んだ後に残るのは悲しさしか無いって…
自分に接触した、全ての人をまとめて不幸にする事しか無いって。
私は死んだ人と、その周りの末路を見てきた…だから、死にたくなかった。
だけど、嫌な最後だけじゃなかった…筈なのに…
「……私は臆病だった、私の心は凄く弱かった…薄っぺらい意思しかなかった。
勇者様の他の仲間達は…勇者様に希望を託して死んだのに!
同じ様に何度も悲惨な最期を見届けたはずなのに…仲間達は…
勇者様に希望を抱いて死んだのに…私には、私にはそれが出来なかった!」
「……え、エルちゃん」
「だから、私はただの裏切り者…臆病な裏切り者…
自分のやりたいことさえ貫けない、弱い心を持ってる。
私はただの…」
「…エルちゃん、私は短い間だけど、エルちゃんと過ごした。
だけどね、私はエルちゃんを心が弱いだなんて思ったことはないよ!
だって、最初の時だって…死ぬのが恐いはずなのに…
ユミルを倒すために、必死に戦ってたじゃんか!」
「そんなの、死ぬって自覚が無かっただけだよ」
私は…私は弱い、とても弱い…勇者様を裏切るくらいに弱い心しかなかった。
魔王を殺す事で、自分自身も消えてしまう…だから、恐怖した。
その恐怖のすえ、勇者様を殺す事を選択してしまった。
そんな臆病で自分勝手な愚か者なんだ。
「…今の話で分かったでしょう? 彼女は正真正銘エビルニアの生まれ変わり。
あなた達が見てきた、エリエル・ガーデンという少女は
エビルニアだったのよ、あなた達人類が忌み嫌う裏切り者」
「……」
「そして、アンデッドの騒動の原因も全て彼女が原因よ。
あなた達から大事な物を奪った、その騒動もね。
彼女を蘇らせるために起った事なの」
「何を」
「それじゃあ、彼女は連れて行くわ…エビルニア、行くわよ。
1週間はライズ山脈の山頂で待機よ、その間にレイラードも来るわ」
「……うん」
「エルちゃん!」
「……リズちゃん、ごめんね、今まで騙してて…さようなら。
今度出会った時は…私を……殺して」
ブレイズお姉様に連れられ、私はその場を後にした。
リズちゃんの叫び声が後ろから聞えてきた。
だけど、私はその言葉を聞かないことにした…聞けなかったから。




