明かされる真実
何処から聞えたのか分からないくらいの小さな声。
だけど、私達全員、その謎の声に気が付いた。
「まだ、アンデッドが居るとでも?」
「いや、何処にも…こんな見通しが良い場所で…」
私達はすぐに背中合わせになって、周囲を警戒する。
何処からの声? クロノスみたいに距離があるのに会話が出来る
そんな感じの能力でも持っているの?
「探すのに苦労したのよね、魂を呼び戻そうにも
どうも、既にその魂が転生したようで見付からなかったし」
何処なの!? 何処にも姿は見えない、何処からの声かも分からない。
こ、こんな事って…そんな魔物が居るなんて…
いや、待って…姿が見えない魔物…私はその魔物を知ってる!
「クソ! 何処に居るのよ! 出て来なさい!」
「私は何処にでも居るし、何処にでも居ない。
私は何処でも漂ってる存在だけど、確かにここに居る。
不確かで形は変幻自在に変えられて、確かな形さえない。
人の手により、その姿は容易に変化し、変わり続ける存在」
「何処なのよ!」
「ぜ、全然見付からない…ど、何処に居るの?
こ、これじゃあまるで…ゆ、幽霊だよ…」
「……声が聞えるのに姿が見えない魔物…
リズ、お前の言うことは間違ってないな」
「え!? 幽霊!?」
「幽霊なんて酷い酷い、まぁ幽霊とも言われるかな。
私は死んだけど死んで無い、蘇った存在。
蘇りし者、その長にして最初の死者である、レクイエム」
強い風が吹き、周囲の砂埃が私達の背後で渦巻く。
背中合わせにしてる中心から唐突に。
「なに!?」
私達はすぐにその場から離れ、その渦巻く場所を見た。
しばらくの間だ、砂埃は点在し、唐突に風が止む。
「こんにちは、あなたは私が何に見える?」
「…イブ?」
「え? ち、違うよ…この人は…お母さん? え!? お母さん!?」
「……違う、こいつは蘇りし者、見る人物により姿が変る存在だ」
「その通り、私は蘇りし者。
私は決った姿は無いけど、確かに存在する」
蘇りし者、死んだはずの生命の魂が変化した存在と言われてる。
その姿は完全に死んではいるけれど、確かに存在する。
幽霊という風に呼ばれているけど、実際は魔力により体を構成してる。
だから、魔力がある限り彼女は何処にでも姿を見せるはず。
「あぁもう! 折角クロノス倒したってのに新手だなんて!」
「安心して、私はあなた達に興味は無いのだから。
私が興味あるのは」
レクイエムが唐突に姿を消した。私達はすぐに周囲を見渡す。
だけど、いつでも実体化できる彼女を目で見付けるのは困難で
「ただ1人…あなただけよ、白髪の魔法使いちゃん」
「ッ!」
ゾッとする様な冷たい手が私の頬をなぞった。
急いで背後を振り向くけど、そこにレクイエムの姿は無い。
「ふふふ、私が興味あるのは、ただあなただけ」
「この! エルちゃんに手出しはさせないわ!
てか! 何でこの子を狙うのよ!」
「威勢が良いね、ほら来なよ」
「上等!」
リトさんがレクイエムの挑発に乗り、攻撃をする。
リトさんの攻撃はレクイエムを確かに捉えた…けど、当らない。
「な…空振り!?」
「ふふふ」
「この! エルちゃんに近寄るな!」
すぐに近寄ってきたレクイエムにリズちゃんが攻撃をする。
リズちゃんの攻撃は確かにレクイエムを捉えていたはずだけど
その攻撃は当らず、リズちゃんは大きくバランスを崩した。
「うぅ! あ、当らない!? 何で!?」
「ふふふふふ、無駄だよ。
だって私に物理的な攻撃なんて無意味なのだから」
「嘘…」
「だが、魔法は当るだろう?」
ミリアさんが基礎魔法を扱い、レクイエムを狙う。
だけど、ミリアさんの攻撃さえレクイエムには当らない
「いいや、魔法さえも当らないのよ? 私の場合は…ね?」
「く…蘇りし者が厄介なのは分かってたが…魔法も当らない…だと」
「とにかく離れて!」
私達は急いでレクイエムから距離を取る。
「それで良いの、だって離れてた方が捉えやすいのだから」
「あ…」
レクイエムの手が私のお腹を貫いた。
痛くはないけど、力が抜けて…
「エルちゃん!」
「大当たり、うふふ、やっぱりあなただったのね。
エビルニア・ヒルガーデンの転生体は」
「あ、あぁ…」
不味い、い、急いで離れないと魂を引き剥がされる!
「こ、この!」
「ん? な!」
すぐにドレインフィールドを発動して彼女の腕を奪う。
「はぁ、はぁ…」
「……魔力を奪う力…話しに聞いたドレインフィールド…
ブレイズ様の情報通り、私の天敵かもね」
「ブレイズ!? ま、魔王の長女…まさかあんたも!」
「その通り、私も幹部になるために必死なのよ。
その為に必要なの。200年前に死んだ魔王の娘
エビルニア・ヒルガーデンの魂を持つ転生体の魂が」
「ど、どう言う…事…」
「エビルニア…何でそこでエビルニアの名前が出てくるのさ!
エビルニアは200年前に死んだのに!」
「その亡骸が、綺麗なままで残っていたら…どうかな?」
わ、私の死体が…綺麗なままって…ど、どう言う…
「何を…どう言うことよ!」
「200年前、魔王の娘エビルニア様は魔王を裏切り魔王を殺そうとした。
その時にミルレール様の手で阻まれてね、死体は残ったんだよ。
本来、魔王の娘である以上、魔王を殺しきれなかったんだから
当然、エビルニア様は蘇る筈だった…それが何故か、蘇らなかった。
200年の間だ、魔王と共にエビルニア様は謎の死を遂げた」
「え、エビルニアが魔王を殺そうとしたって…どう言う!
え、エビルニアと魔王は勇者様の力が」
「そんなの人間の戯言でしかないさ、事実は違う。
エビルニア様は勇者を殺し、魔王様さえ殺そうとした。
理由は本人に聞かないと分からないけど、それが事実さ」
「……」
「エビルニアの死は彼女の事を心酔していた5女レイラード様を狂わせた。
彼女はエビルニア様の死後、一切部屋から出ようとせず
彼女の遺体を部屋に置いた。綺麗なまま維持して、涙を流して。
そして、100年前ブレイズ様はエビルニア様の蘇生の為に動き出した」
……じゃ、じゃあ…じゃあ、り、リトさんの親友やご両親が死んだ理由は…
他のアンデッドに襲われて、犠牲になった人達は…
「私とクロノスに声が掛り、エビルニア様の蘇生に動いたんだ。
クロノスは完全な擬似的な魂を作り出し、エビルニア様を擬似的に蘇らせ
レイラード様の心を救う事を考え、疑似魂の研究を始めた。
そして私は、転生しているかも知れないエビルニア様の転生体を探した。
エビルニア様の亡骸を確認させて貰って、その魂を探す事にしたのさ。
そして今、見付けた…エビルニア・ヒルガーデンの転生体を!」
私が…私が…私のせいで…また、私のせいで余計な犠牲が…
「……私が悪いんだ、わ、私が…全部私が悪かった…
私が…私が居なければ、誰も犠牲にならなくて…」
「エルちゃん! 耳を貸さないで! あなたはあなたよ!」
「そうだよ! 転生体って言うのはよく分からないけど
エルちゃんはなにも悪くないよ!」
「違う、違うの…全部私が、私が悪いの!」
「さぁ、その魂…いただこう!」
「エルちゃん!」
「動け! エル!」
私は動けなかった…自分が全て悪いという事実を伝えられて
私は…私のせいで色々な人の大事な物を奪う事になった。
私が居なければ、リトさんは親友も家族も失わなかったんだ…
「エルちゃん!」
「レクイエム、そこまでだ」
だけど、レクイエムの手は私の魂を奪う前に止まった。
同時に少し大きな地震が私達を襲う。
「こ、今度はなに!?」
「……ぶ、ブレイズ様!」
「……レクイエム、今は私に免じて退いて」
「し、しかしブレイズ様、よろしいのですか?
彼女はエビルニア様の転生体、彼女の魂を抜き取り
エビルニア様のご遺体に移せば、エビルニア様は…」
「えぇ、分かってる。でも、ここからは私が預かるわ。
あなたは大人しく引いて頂戴。安心して、幹部にはしてあげる」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあ、時が来たら、また呼ぶかも知れないから」
「はい、それでは」
レクイエムの姿は崩れ、風に流されるように何処かに消えた。
「…何なのよあんた! 今度はなに!?」
「……あなた達に真実を教えてあげる。構わないわね?」
「……」
「真実だろうが何だろうが関係ないわ! エルちゃんから離れなさい!」
「無駄よ、だから聞いて」
「な、うぁ! 斧が! それに完全に弾かれるなんて!」
リトさんの攻撃はブレイズお姉様には届かなかった。
届くわけがない…正攻法でブレイズお姉様は倒せない。
「リト姉ちゃん!? どうしていきなり跳び帰ってきたの!?」
「…は、弾かれたのよ…一切動いてないのに、どんな方法を!
私の斧まで簡単に砕くだなんて…」
「その斧を砕いたのは私じゃないわ、あなた自身よ」
「はぁ!? 何を言ってるのよ!」
ブレイズお姉様は攻撃を完全に跳ね返す事が出来る。
どんな攻撃だろうと、一定の魔力で全て跳ね返せる。
だから、テイルドールお姉様であろうともブレイズお姉様には敵わない。
「まぁ聞きなさい、そう殺気立たないで…彼女に危害は加えない」
「エルちゃんに危害を加えないなんて保証がないよ!」
「……」
「そこのエルフは大体察してるようね、エルフは長生きだものね。
あなたもあの子には会ったことがあるでしょうし、気付くのも不思議無い」
「ど、どう言うこと? ミリア、何か知ってるの!?」
「……推測でしかないが」
「安心して、私が教えてあげるから…あなた達が仲間だと言っている少女
エリエル・ガーデン…彼女の正体は、私の妹、エビルニア・ヒルガーデンよ」
「……はぁ? て、転生体ってだけで、え、エビルニア本人じゃ!」
「いいえ、彼女は紛れもなくエビルニア本人、その記憶さえ継承してる
理由は分からないけど、彼女は前世の記憶もあるのよ」
「……どう言うこと!? エルちゃん!」
「……」
私は何も答える事が出来なかった…その言葉に何も…
そんな私を余所に、ブレイズお姉様は話を続けていった。




