最後の別れ
リトさんは今、自分の過去を乗り越えた。
そんな何処か物悲しいけど、力強く大きな姿を
私はすぐ近くで見させて貰った。
自分の手で大事な人を倒し、未来を選んだ。
リトさんはとても難しく、とても誇らしい選択をした。
…私には出来なかった、そんな選択を。
「……」
ミックとラップの2人はあの後、自ら死を選んだ。
戦意を失っただけではなく、戦う理由さえ失った。
そんな彼女達は…だから、彼女達は自分達の死を選んだ。
「……この子達に他の選択は無かったのかしらね」
自ら命を絶った2人を前に、リトさんは小さく呟いた。
彼女達にはまだ他の可能性はあったのかも知れない。
だけど、彼女達は選べなかっし、探る事さえ出来なかった。
クロノスと共に過ごすことしか出来なかった、彼女達には…
「……」
私達は立ちすくみ、色々な可能性を考えた。
だけど、考えたところで結果は変らないんだ。
彼女達の選択の末にあったのは、この結末だったと言うだけ。
私達は2人の死体を燃やし、彼女達の冥福を祈るしか出来なかった。
でも、彼女達2人だけじゃない、冥福を祈るべきなのは。
クロノスが言ってたことは全て嘘であり、彼女が操っていた
体が綺麗なアンデッドの人達は誰1人として蘇らなかった。
私達は彼女達の身元を確認した後、彼女達の遺体も燃やした。
身元を証明するための証明書や衣服などを一部いただいて…
そして、最後に…勿論、この時が来るのは当然だった。
最後に残ったご遺体は3人、イブさんとリトさんのご両親だった。
リトさんはクロノスの死体は躊躇いなく燃やしたけど…
3人を燃やすことは躊躇っている。
「リトさん、無理に燃やさなくても…」
「……いいえ、折角あんな呪いから解放されたのに
私のわがままで3人をまたアンデッドなんかには出来ないわ」
リトさんは非常にゆっくりとした動きで火を起した。
リトさんに取って、3人の遺体を燃やす事は辛い選択なんだ。
3人を自らの手で両断したのも辛いのに、更に燃やすことだって。
「……」
「リト、燃やすのは私達がやっても良いんだぞ? 無理にしなくても」
「いや、最後の別れくらい、しっかりと私自身の手でやりたいの」
そう呟きながら、火をおこした…そして、3人の遺体を触り
3人の髪の毛と、服の布を切り取る。
「あ…」
イブさんの所持品を探ったとき、リトさんは何かに気が付いた。
それは…ひまわりの髪飾りだった。
髪の毛に隠れて、小さな髪飾りは見えなかった。
付けてあった場所もあまり目立たない場所だった。
「……イブ…髪飾りは…見えるところに付けなさいよね…」
リトさんの声は震えていた…涙も流れ落ちている。
ゆっくりと震える手をその髪留めに伸ばし、取った。
「……イブ、この髪飾りは…預かっておくわね…
また、あの世であなたに…手渡すから」
小さく呟いた後、リトさんは髪飾りを自分の髪の毛に付けた。
涙を流しているけれど、リトさんは笑っていた。
とても暗く、いつものような笑顔ではないけど。
それでもその笑顔は…いつも見たいな、とても優しい笑顔に見えた。
「さようなら、イブ…さようなら、父さん、母さん…
私はもしかしたら、天国には行けないかも知れないから。
私が死んだら、迎えに来てね。その時にお別れとお礼を伝えたいから。
……お休みなさい、また夢で会いましょう…その時に紹介するから。
私に出来た、新しい仲間達を…さようなら、本当に…ありがとう…」
振り絞るような小さな声でリトさんは何度もお別れとお礼を伝えた。
その後、しばらくの沈黙の後、1人ずつ遺体を運び
小さくお礼と別れの言葉の後に燃やした。
「……リトさん」
「…………こんな事、言うのはおかしいと思うし不謹慎かも知れないけど。
私は本当に幸せ者だって思うの…
辛い時に支えてくれる仲間や家族がいつも居た。
イブに救われて、父さん母さんに救われて…
そして今、あなた達に救われた…私は色々な人に救われてるわね。
でも逆に、私は誰かの救いになってるのか、疑問に思うの」
リトさんはそんな事を思ってたんだ…謙虚だよ。
だって、リトさんは色々な人を救ってきた。
それなのに自分はなにも救えてない何て疑問に思うだなんて。
「リト、お前が誰かに救われたと思うなら
きっとお前も誰かを救ってるんだ。
誰かを救うなんて事は大体、いつの間にかやってるものだ。
私はお前に、お前達に出会えて良かったと思うし
救われたとも思ってるよ…エルフ達だってそうだ。
そして、お前を姉と慕う大事な妹達だって」
「うん! 私、リト姉ちゃんに出会えて良かったって思う!
絶対リト姉ちゃん以外だったら、私は変ってなかったもん!
誰かの為に何かをやりたいなんて思わなかっただろうし
誰かの支えになろうともしてなかったかも知れない。
リト姉ちゃんに出会えて、一緒に過ごして…私は変ったよ」
「はい、私もそうだと思います。私だってリトさん以外だったら
大事な何かに気付かずに過していたと思います。
リトさんが私達に出会ってくれたお陰で…私達は成長出来ました」
「……それは、私の台詞よ。あなた達に出会ってなかったら
私はこうやって、成長出来てない…ずっと過去に囚われて
アンデッドを怨むだけの人生だったかも知れない…」
私達はリトさんに救われた。そして、リトさんも私達に救われた…
誰を助ければ、自分もその誰かに救われるのかも知れない。
「そうね、胸張って生きましょうか。そうよね、私は誰かを救ってる。
そして、私は誰かに救われてる。そうよね、堂々と生きましょう。
誰にも救われて無い人間なんて、誰も救ってない様なものだしね!」
リトさんが元気よく立ち上がり、大きく背伸びをした。
「さぁ、進みましょう! 先へ! 暗いのは私らしくないわ!
誰かを救いたいなら、まずは自分が幸せにならないとね!
そうじゃなきゃ、私を救ってくれた人達に申し訳が立たないわ!」
「うん、これからも一緒に頑張ろうね」
「えぇ! もう過去とはお別れ…いや、違うわね。
過去も一緒に背負って、私は前に進んでやるわ!
笑って生きて、幸せになって幸せにする! それが3人への恩返し!
生き残った私が出来る、唯一にして最大の恩返しなんだから!」
「あぁ、そうだな、先に進もう、一緒に」
「えぇ、ミリア、次はあんたの番ね」
「あぁ、必ず乗り越えて見せるさ! まだ少し先になりそうだがな」
私達は立ち上がり、ロッキード王国へ向う為に足を進めた。
「ふふ、見付けた」
「え?」
戻ろうとした時に何処からか小さな声が聞えた。




