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過去も背負って

私達は一斉にアンデッド達への攻撃を開始した。

数は多いけど、1体1体はそんなに強くはない。

一部、強い相手も居るけど、勝てない相手じゃない!

警戒するべきはクロノスの近くに居るあの2人。


あの2人は正攻法で勝つのは難しいと思う。

心臓を後4回…頭もあと4回潰さないといけない。

弱点が1箇所だけなら、その1箇所を集中して守れる。

だから、弱点を攻撃するのは困難を極める。


「おぉ、やはり強いのぅ、主らは。凄まじいのぅ。

 これ程の手練れが揃っておるパーティー等レアじゃろうなぁ」

「はん! あんたに褒められても粉微塵も嬉しかないわ!」

「しかしのぅ、人類から主らの話はほぼ聞かんぞ?

 それ程の強さでありながら、不憫よのぅ」

「はん! あんた殺せりゃ、何だって良いのよ!」


飛びかかってくるアンデッドをリトさんは悉く撃退していく。

アンデッドはリトさんに満足にダメージを与える事が出来ず

ひたすらにただひたすらに殲滅されていく。


「クロノス! 覚悟しなさい!」

「くく、ほれ」

「くぅ!」


一気にアンデッドを殲滅して、一気に攻撃を仕掛けようとするけど

やっぱりクロノスはリトさんにあの3人を見せた。

倒すと覚悟を決めていても、躊躇いなく振り下ろせるわけもなく

リトさんの攻撃は少しだけ硬直してしまう。


「ミック、やれ」

「はい、リスデットさん、おさらばです」

「それを私が許すわけ無いだろう?」

「ん、ち、エルフ…」


リトさんに攻撃をしようとしたミックにミリアさんの矢が突き刺さった。


「それ、ラップよ、あの2人を止めよ」

「はい」

「うぅ!」


そして、ラップと言われた、もう1人の方が私達2人の前に立ちふさがる。


「……リト、この2人は私達がなんとかする…頼むぞ」

「……えぇ、任せて」


心配そうに私達の方を見ていたリトさんだったけど

ミリアさんの言葉を聞いて、クロノスを睨んだ。


「さぁ来い、リスデットよ。この戦いに終止符を打つとしよう。

 さて、どっちが先に死ぬかのぅ? お主か、あの3人か」

「先に死ぬのは、あんたらよ!」


私達はこの2人を何とかしないと不味い。

この2人を倒して、リトさんの援護に回りたい。

周囲のアンデッドはほぼ倒してる。

だから、これがまさに最終決戦。


「絶対に倒すんだから!」

「倒せる物ならば。実質我々は8人、対してあなた方は3人。

 人数差を覆せるのは質の差ですが、それも我々の方が遙かに上」

「後衛2人に前衛1人。その前衛は非常に弱く、また脆い。

 そんな脆弱な壁では、我々は止められませんよ。勝負は見えてます」

「勝負は質と量だけで決るわけじゃないぞ?

 最後に勝負を分けるのは質でも量でも無い

 絶対に負けないと言う、確かな心という奴だ」

「無駄です、心などと言う不確定な物では無意味です」

「なら、試してみれば良いよ! 私は絶対に負けない! エルちゃん」

「うん、絶対に勝とうね、リズちゃん」


私はリズちゃんの上げられる全ての身体能力を強化した。

普通の人がやれば、体が簡単に壊れちゃうくらいの危険な重ね掛け。

でも、リズちゃんなら大丈夫だって言う確信が私にはあった。


「私は1人じゃ弱い、凄く弱い。強くなろうと頑張ってるけど、まだまだ弱い。

 だけど、そんな私だけど得意だって胸を張って言える要素は沢山ある!

 私は1人じゃ弱くても、皆と一緒なら凄く強いって自信がある!」


2人に言葉を発すると同時に、リズちゃんは一気に距離を詰めた。

一瞬のうちに間合いを詰められたことで、あの2人も流石に動揺した。


「馬鹿な!」

「うっりゃぁぁあ!」


圧倒的な速度で繰り出された一撃はミックの胸を貫いた。


「お姉様! この!」

「ふん、心の強さというのは精神の強さでもあるんだ」

「な!」


すぐにミリアさんがラップに攻撃を仕掛けて動きを止めた。


「同時に3人居る方が、絶対に強いんだから! マジックショット!」

「いぐ!」


すぐに私は魔法を放ち、ラップの頭部を撃ち抜いた。

攻撃速度が私の最大の武器だけど、素早い相手に当てるのは難しい。

だけど、ミリアさんの攻撃で動きが止まってる相手なら簡単だった。


「一瞬でそちらは2人も倒されたな? クリムゾンデッド」

「……馬鹿な」


少しの間だ、動きが止まってる。今ならリトさんの応援に行けるはず。

だけど、私達は誰1人として、リトさんの応援に走らなかった。


「……この…」


リトさんは2人に拘束されていた。

だけど、私達には追い込まれているようには見えなかった。


「ふん! 見よ、仲間からも見捨てられたのぅ。助けに来ぬぞ?

 奴らは主の命なんぞより、自分達の命が大事だそうじゃ」

「……へ、あんたの目は…どうしようも無く節穴って奴よね…」

「あー?」

「そんなんだから、アンデッドしかあんたの元には集わないのよ!

 あんたの命令に従うことしか出来ない、従順な奴隷しかね!」


リトさんが拘束している2人を振り回し、地面に叩き付ける。


「く、まだ我々は…」

「もう起き上がったか、だが無駄な抵抗だ」

「無駄な抵抗? その前衛は相当な無茶をしていますね。

 身体強化、それも異常なほどの重ね掛け…死ぬのは時間の問題でしょう。

 あなた達は所詮、仲間などと謳いながら、仲間を捨て駒にしている」

「何を言ってるの? こう言うのは捨て駒じゃないんだよ?

 ねぇ、あなた達…信頼って言葉、知ってる?」

「信頼? くく、従順な相手に浴びせる言葉でしょう?」

「そうなんだ…残念だよ、知らないんだね…

 そんなんじゃ、私達には勝てないよ!」

「ふん! 信頼だの何だのとくだらない! あなたは捨て駒にされて居るだけ!

 もはや体も限界でしょう? それ程の強化魔法! 体が持つはずが無い!」

「体が持つって自信があるから、私はこうやって、強化して貰ってる!」


苦戦すると思ってた、私達は凄く苦戦するんだって。

それだけ、彼女達は強かったから。だけど…苦戦はしなかった。

全くと言って良い位に、今回の私達は苦戦をしなかった。


一時期、追い込まれていたはずなのに…今は相手になってない。

あの2人の必死の抵抗さえ、今の私達には遠く及ばなかった。


「……何故…これ程にまで…何故、体が…」

「言ったでしょ? 私は弱いけど、

 胸を張って凄いって言える得意もあるって!」

「まさか…だけど、魔法を掛ける方も…そんなの…」

「エルちゃんとミリア姉ちゃんは私を信じてくれた。

 だからエルちゃんとミリア姉ちゃんを信じてる

 信じる事、それが私が1番得意な特技だよ!」


胸を張り、堂々とリズちゃんはあの2人に宣言した。

2人は少しの間だ困惑しながら、ゆっくりと立ち上がる。


「そうですか、でも…私達も負ける訳にはいかない…

 クロノス様のご命令を遂行せねばならない」

「…なら、戦うな。戦えば次はお前達は死ぬぞ」

「……戦わなければ、あなた達はリスデットの元に行く。

 それだけは避けなくては、クロノス様のご命令なのだから」

「……なら、戦うな。私達はリトの元に行くつもり何て無い」

「な…」


リトさんはイブさんに拘束されている。

それでもその目には確かな戦意が残っていた。

あの時とは違う、絶望した表情なんかじゃない。


「リスデットよ、主の仲間は随分と薄情じゃなぁ

 主のピンチを救うつもりなど、毛頭無いそうじゃぞ?」

「…はん! ここで私を助けようって来る奴の方がよっぽど薄情よ!」


自分を羽交い締めにしている親友の腕を掴み、投げ飛ばした。


「リトよ、大事な親友と家族を随分と躊躇いなく傷付けるのぅ」

「…私の親友も、私の家族も…もう、死んだのよ」


飛びかかってくる3人を振り払いながら、リトさんはゆっくりと

クロノスの元に向って、進み始めている。


「く、何故躊躇わない! 主のせいで奴らはその様な状態になったのじゃ!

 そ、それに! わ、儂を殺せばそやつらは助かるのじゃぞ!?

 そんな風に怪我をさせてしまえば、蘇ったときに!」

「……言ったでしょ? もう、3人とも死んだの…私が殺したような物でしょう。

 私が居たから、私なんかが居たから、父さんも母さんもイブも死んだ。

 とんでもない親不孝者だと思うし、とんでもない悪友と言う奴よね。

 私を生んだから…私なんかの親友になったから…3人とも死んでしまった」


飛びかかってくる3人を躊躇いなく振り払いながら

大きな斧を引きずり、ゆっくりとクロノスの元に歩みを進めている。

表情はよく見えないけど、微かに頬を輝く物が滴り落ちたのが見えた。


「だから、私はこれ以上、3人に辛い思いをさせたくないのよ!

 自分達が大事だと言った奴が自分達のせいで前に進めないなんて!

 そんなの、私だったら辛すぎて辛すぎて、死んでも死にきれない!」

「や、止めろ! 見えぬのか! こ、この3人が!? こ、殺す気か!?

 わ、儂共々殺す気か!? こ、こやつらも完全に死ぬぞ!?」


リトさんが振り上げた斧が激しく震えているのが分かった。

それでもリトさんは止まる様子は無い。


「私は! あなた達の分まで幸せに生きてみせるから!

 あなた達が願ってくれたとおりに、私は幸せに生きてみせるから!

 だから…だから、天国で笑って見守ってて…


 さようなら、お父さん、お母さん…そして、イブ…ありがとう。

 私を助けてくれて、私を支えてくれて…そしてこれからも

 どうかこれからも、私を支えて……また、夢の中で会いましょう」

「止めろぉお!」


激しく震えていたけれど、とても力強く振り上げられた斧だったけど

最後には震えることはなく、真っ直ぐに振り下ろされた。

斧が振り下ろされた先にはリトさんのお父さん、お母さん。

そして、リトさんの親友であるイブさん。


…その3人の亡骸の中心には完全に両断されたクロノスの死体があった。

リトさんの斧は血に染まり、リトさんも激しい返り血を浴びていた。

物悲しげな表情だったけど、リトさんの目に後悔は見えなかった。


「り、リト姉ちゃん…」

「……」


私達の方を向いたリトさんからは、沢山の涙が流れていた。

少しだけ暗い表情だったけど、いつものリトさんの面影はしっかりあった。


「……クロノス…様…」

「……エルちゃん、リズちゃん…そしてミリア

 …ありがとうね、私を信じてくれて。

 お陰で自分の過去としっかりと決別できたわ」

「何を馬鹿な事を言ってるんだ? 決別なんて出来るわけないだろう?

 お前は過去をしっかりと背負う事にしたんだろう? リト」

「…そうね、それもそうか。私は過去と決別なんて出来ないか。

 それを受入れて、明日への糧にする…その方が私らしいわ。

 さぁ、今度からは視線を未来に向けるとしましょう…これからへ」

「……あぁ、私も必ず未来を見届けるために、過去を乗り越えてみせるさ」

「…あなたなら絶対に出来るに違いないわ。

 だって、こんな私でさえ出来たんだから」


リトさんはクロノスの周りで倒れている3人に視線を向けた。


「……だけど、もうちょっとだけ…ここに居させて欲しい」

「…あぁ」

「……リト姉ちゃん、な、何か辛い事があったら、わ、私に言ってよ!

 私なんかが何か出来るか分からないけど、出来る事を精一杯頑張るから!」

「…ありがとう」


私達はしばらくの間、リトさんの隣に寄り添う事にした。


「…イブ、私にも新しい居場所が出来たわ、大事な仲間達が…

 誰かと一緒に戦ったり、何かをするのは…本当に素晴らしいわね」

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