残虐な手法
宴会の後、数日で事態は動いてしまった。
アンデッドの軍勢が、またロッキード王国に向けてやって来た。
向こうは絶対に私達に復讐するつもりだよ。
「…はぁ、攻めてくるの早すぎ…マジに潰す気ね」
「まぁそうだろうな、私達を倒すというのであれば
ロッキード王国が復興で手一杯な時に来るのが無難だろう」
私達を倒したいというのなら、それが確かに正しい判断だよ。
だって、兵士達は疲労してあまり動けない状態なんだから。
アンデッドの数もそんなに多くはないとは言え
疲弊してる国を潰すには十分過ぎる戦力だよ。
「数はどれ位なのかな?」
「望遠鏡で見た感じ、かなり少ないわね」
城壁の上から見ることが出来る距離にまで来てる。
接触まで、そんなに時間は掛らないはず。
望遠鏡で見える距離なのだから、数十分でやってくる。
「とは言え、城壁の上から攻撃をする場合に発生する危険性はいくつかある。
その中で非常に危険な部分はアンデッドの侵入を許す可能性。
ここから弓矢で攻撃したとしても、全部は倒しきれないだろうからね」
「兵士達はあまり動けないし、城門は開きっぱなし。
防衛戦となれば、私達はあまりにも不利すぎるだろう」
「だから、こっちから打って出るしかない。そして、そんな真似が出来るのは
私達くらいと言うのが現状。私達をおびき出し、倒すならこれが1番かしら」
「……でも、あちらは私達を侮ってますね。この距離なら先制攻撃が可能です」
私の攻撃であれば、この距離からだろうと狙撃は出来るよ。
距離が開きすぎてるから、正確なのは無理だろうけどね。
「あの数なら、私の攻撃で一網打尽に出来ます」
「可能性はあるけど…でもさ、妙だとは思わない?
あの程度の手勢じゃ、いくら疲弊しているとは言え
この国を完全に落とすのは困難じゃないかしら?
確かにミックとか、ヤバいのは居るけど。それだけでどうにかなるレベル?」
それは確かに思った。いくら疲弊しているとは言えこの程度の数じゃ…
流石に何かしら奥の手を隠してるんじゃないかって思っちゃう。
「聞えるか? リスデットとその仲間達よ」
「な! 何処から!?」
「なに、お主らが見ている場所に儂はおるぞ?」
望遠鏡でアンデッド達の方を見て見ると、そこに確かにクロノスはいた。
だけど、私達の方を見ている。精神に干渉できる黒魔術師。
こんな風に相手に語りかける能力があるのは知らなかった。
「よくもまぁ、儂をこれ程にまで辱めてくれたな?
じゃが、それもここまでじゃよ」
「はぁ!?」
「主らが勝つ方法はただ1つ。儂を倒すこと、それだけじゃよ?」
「……ッ! 兵士さん! 聞きたいことがあります!」
「な、何ですか?」
「戦争で死んだ…兵士達の死体は!?」
「彼らの遺体は死体安置所にて。身元の確認をしてる最中です」
「急いでそっちに! この距離で影響がある魔法を使えるなら
この距離からでも、死んだ兵士達を操れるかも知れません!」
「な! い、急いで!」
「もう遅いわ。さぁ、主らはどうでるかな?」
そんな言葉が聞えると同時に、激しい警鐘が響いた。
「クソ! やりやがった! クロノスの奴!」
「儂の魔法は範囲が広くてなぁ、この距離からでも問題は無いのじゃ。
クク、さて、何人死ぬかな? 死んだ兵士共は何人守った国民を殺すかのぅ
国を守る為に立ち回った兵士共が悪鬼となり、ひ弱な国民を嬲り殺す。
どんな気分じゃろうなぁ、体が勝手に動き回り、国民を殺すのは」
「ふざけやがって! あんた、あんたは人を何だと思ってんのよ! この屑が!」
「人を何だと、じゃと? くだらぬ問いじゃ。ただの虫けらよ」
「ぶっ殺す! 全員! 操られた兵士達を止めに行って!
私はあいつをぶっ殺す! 絶対にぶち殺してやる!」
「リト…気持ちは分かる。だが、冷静になってくれ!」
「……く、くぅぅうぅ…でも、でもでも、あんなの! あんな奴!」
「無謀に突撃しても…あの数は冷静に対処しないと無理ですよ!」
「でも、やることは変らない! あいつを殺す事。それが私達に出来る最善!」
「そうじゃ、儂を殺す事が主らに取って最善なのじゃ。
儂を殺す以外に方法は無いぞ? 儂を1秒でも早く殺す以外になぁ。
さぁ、来るが良いリスデット! そして、その仲間達よ!
儂は待っておるぞ? ここでのぅ。主らが来るしかないのじゃぞ?
儂を少しでも長く生かしておけば、それだけ被害は拡大するのじゃから」
「クソ…舐めるな! エルちゃん!」
「は、はい!」
私とリトさんは一緒に城壁から飛び降りた。
当然だけど、普通なら死んでしまうような行動だけど
落下の前にテレポートで私はリトさんと自分を転移させた。
これで落下の衝撃は緩和されるし、すぐに距離も詰められる。
流石に私は3人を同時に転移なんて出来ないからね。
「リト! エル! 私達もすぐに行くぞ! 待ってろ!」
「はい!」
「いや、私はすぐに行くよ!」
そう言って、リズちゃんも城壁から飛び降りた。
ちょ、ちょっとそれは! 流石に凄い速度で落下する相手を
即座に転移させる事なんて、私には出来ないよ!?
「うっりゃぁぁあ!」
だけど、リズちゃんは私の転移を期待はしてなかったみたい。
壁を走るようにして、降りてきてる。
一定間隔で落下の勢いを殺す為に障害物に手を掛けたりして
まるでアスレチックを降りてるような動きで、そのまま降りてきた。
「よし、成功!」
「む、無茶しないでよ! ゾッとしたよ!」
「出来る自信があったからね。それより急ごう!」
「う、うん…ミリアさんは出来ますか!?」
「私には無理だ! 徒歩で向う! リトのことを頼むぞ!」
「はい!」
私達は急いでリトさんに合流して、一緒にクロノスの元へ走った。
「クロノス! 今度こそ確実にあんたをぶっ殺す!」
「素早いのぅ、城壁から飛び降りる等という、恐ろしい真似をして
儂も驚いたぞ? 死なれては、主らの魂を綺麗に奪えなくなるのじゃからな」
「あんたなんかに私の魂はくれてやらない! 絶対にぶち殺す!」
「やれやれ、儂もあまり時間は掛けたくは無いのじゃよ。
レクイエムの奴と競争の状態じゃからな。奴が先に魂を見付けるか。
儂が先に完璧な疑似魂を作りあげるか。じゃから、時間が無いのじゃ。
本来であれば、万全の状態まで準備をしようと思ったのじゃが。
全く主らのせいで、特にあのエルフのせいで台無しじゃ!」
「あんたの事情なんざ1ミリだって興味無いのよ!
私はあんたを殺す! あんたにどんな事情があろうとも関係ない!
あんたは殺す! あんただけは絶対に殺す!」
リトさんから確かな殺気を感じた。正真正銘の本気だ。
リトさんは本気で心の底からキレてる…誰だって怒るよ、あんなの。
「そうかそうか、では儂を殺してみよ」
クロノスが指を鳴らすと
クロノスの周りを取り囲んでいたアンデッドが全員、道を空けた。
「あぁ?」
「リスデット、主だけ儂の元に来ることを許可しよう。
さぁ、来るのじゃ。そうすれば儂を1秒でも早く殺せるぞ?」
「はん、上等」
そう言って、リトさんはその道を進むような素振りを見せた。
「何て、そんなクソみたいな挑発に乗るわけが無いでしょ? 舐めないで」
「…ほぅ、冷静さを欠いていると思ったが、まだ冷静さは残っておったか」
「当然よ、この場であんたの元に行けば、あんたの思う壺だからね。
私は孤立している状態じゃ、あなたの術に対抗できない。
あなたの元に行けば、勿論エルちゃん達は私に接触できない」
「全く面倒事が増えた。まぁ良い、やることは変らぬ」
クロノスの合図で周囲のアンデッド達が一斉に臨戦態勢を取った。
「搦手が意味ないのであれば、正攻法で仕留めるまで。
この数、主ら3人程度にどうにか出来るか?」
「どうにかするのよ、あんたを速攻ぶっ殺すためにね!」
少しでも速くクロノスを倒さないと…被害は止まらない!
絶対に倒す。これ以上、好き勝手はさせない!




