人の道
国民の皆さんに私達の事を大々的に発表された。
私達は国民の皆さんにとって、完全な英雄となった。
ロッキード王国の勇者達。勇者候補でしかなかったのに
いつの間にか1国の勇者と呼ばれるほどに成長した。
でも、本当に勇者なのかな? それは分からない。
だって、成長しているようにあまり感じないんだから。
成長してるのか分からない位、相手が強くなり過ぎてる。
強いて言えば、ただのゾンビが相手なら苦戦する要素がない。
最初からそんな感じだったけどね。
「う、うーん…凄く褒められたけど…私は何も出来てないのになぁ」
「私なんて、大将首を目の前にしながら、仕留め損ねた…」
「あれは仕方ないさ」
実際、自分の親友と家族が目の前に居て…
操られてるなんて…そんなの、何も出来なくなって当然だよ。
体も綺麗だし、まるで生きてるような…そんな姿で。
更にはもしかしたら…万が一でも…
助けられるかも知れないって…思ってたら。
「でも、私が勇気を出していれば…あのまま振り下ろしていれば…」
「過ぎた事を言わないでくださいよ、リトさん」
「…後悔はいつだって後に来る物よ」
「だが、一生分の後悔ではないだろう? その選択で大事な物を失ったか?
まだやり直せるし、お前はまだなにも失ってないはずだ」
「…それは、あなた達が居たからよ。私1人だったら…失ってた。
ミリア、あなたが来なかったら、私は…」
「だが、私は来た、誰も死んで無い。
過ぎた事だ、それに…あれは普通ならそうなるさ。
むしろ、あの場で躊躇いなく斧を振り下ろすことが出来た方が
私は恐ろしいと思うよ。
大事な親友と大事な家族の姿をした相手を
ただのアンデッドとして排除できたと言う事なのだから。
まるで復讐に囚われた悪鬼のように…当然、狂気を感じるだろう。
そんな風になってしまった方が、後悔する事になっただろう。
目的の為ならば犠牲も手段さえ選ばない…そんな化け物になる」
大事な親友や家族の姿をした相手さえ、容赦なく躊躇いなく倒し
相手を屠る…確かにそんなの、狂気しか感じないと思う。
おぞましい化け物にしか見えなくなると思う。
復讐の為に悪鬼となり、そのまま何処までも堕ちていく。
あの時、リトさんがそんな事をしていれば…
私達はきっと、リトさんの元から離れて行ったはずだよ。
「だが、お前は踏みとどまった。悪鬼に堕ちず
人として…今、壁にぶつかっただけだろう。
乗り越える事だって、まだ出来るさ」
「……あのまま振り下ろしていれば
私は過去を乗り越えたって事になってたんじゃ無いの?」
「いや、あそこで躊躇いなく振り下ろしていれば…
お前は過去を乗り越えたんじゃなく、逃げただけになる。
逃げて…自分の信念さえ捨て去った過去の亡霊となってたはずだ」
…心を殺して、なにも感じない様になって…
そして、自分の目的を果たしたところで…
ただ逃げただけ…そうなのかも…しれない。
「リト姉ちゃん、あそこで…もし躊躇わないで大事な人達を殺してたら…
きっとリト姉ちゃん、笑えなくなるもん。笑えないし幸せになれない。
だから、リト姉ちゃんは誰も幸せに出来なくなる…きっとそうなってたよ」
「……そうかもね、躊躇いなく悪鬼に堕ちてたら…そうね」
「あぁ、躊躇うのは当然なんだ。あんな場面、誰でも躊躇う。
躊躇うのが普通で…1度、失敗してしまうのはまた当然だろう。
だから、次は…次こそは乗り越えて、先に進むんだ。
辛い思いをして、葛藤して、仲間に支えられ、自分の心を鼓舞して
進む覚悟を決めて、そして過去を乗り越える。
過去を乗り越えるためには、きっと1度くらい失敗しないと駄目なんだよ」
「…まるで、自分に言い聞かせてるような台詞ね、ミリア」
「……あぁ、私はまだまだ乗り越えられそうには無いが
リト、お前は…お前なら乗り越えられるはずだ」
「そうだよ! だって、私達が支えるもん! リト姉ちゃんのこと!」
「絶対に一緒に乗り越えましょう…リトさん」
「……そうね、そうよね…そう、そうなのよね…辛いと時って…
本当、1人じゃなにも出来ないからね…私は…でも、私にはあなた達が居る。
こんなにも心強いことは…きっと無いわ…今度こそ、今度こそ乗り越えてみせる。
自分の過去を…自分の目標を乗り越え、その先へ進まないとね」
「うん! 支えるよ、リト姉ちゃん!」
「えぇ、お願い…今度こそ乗り越える。だから、信じて」
「最初から信じてますよ、リトさんなら乗り越えられるって」
「……ふふ、なら、その信頼に答えてこそお姉さんよね!」
リトさんが再び力強く拳を握った。
リトさんなら絶対に乗り越える事が出来る。
だってこの人は、こんなにも強いんだから。
「だがその前に、まずは体を休めるべきだな。
あの戦いで大分消耗しただろう。来たるべき戦いに備え
しばらくはゆっくりと過ごそう。その方が心にゆとりも出来るさ」
「えぇ!」
私達はしばらくゆっくりと過ごして、来たるべき決戦に備える事にした。
まだ先だろうけど、必ず来るであろうその時に備えて
どんな時でも万全な状態でなくてはならないからね。
不健康な状態じゃ、いざと言う時に戦えないんだから。
 




