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犠牲を乗り越えて

そして、クロノスが撤退したことで状況は好転した。

城内に居たアンデッド達は全て姿が消えていて

外のアンデッド達も殆ど殲滅が完了していた。


兵士達の被害も甚大ではあったけど

それでもゾンビの大群を全て殲滅できた。


「…皆! 我らが故郷、ロッキード王国を覆っていた

 ゾンビ達は全て撃滅した! 我々の被害は甚大だ。

 何人もの同士達が死んでしまった…だが、我らはやり遂げた!」

「うおぉおおおぉ!」


合流して、しばらく共闘した後

あの金色の鎧を身を纏った兵士さんが城に続く階段の上で

兵士達に勝利を告げる、演説を始めた。


兵士さんの数は一緒に出てきた時の半分以下にまでなったけど

それでも、私達はこのロッキード王国を取り戻すことに成功した。


「彼らの死は! 決して無駄な死ではない!

 我らをこの勝利へと導くための死だった!

 我々はこれからも! 彼らの死を無駄な死にはしてはならない!

 このロッキード王国を再び蘇らせ! あの平穏な日々を取り戻す!

 その日々を取り戻し! 今まで以上の栄華を共に目指そう!」

「うおぉおおぉ!」


兵士達の歓喜の声が国を多い、空気を震わす。

犠牲者は沢山出たけど、それでもやり遂げた。

誰かの死を乗り越え、彼らが目指した勝利を掴んだんだ。


私達はその勝利を得たことをリリアン姫とロッキード国王に伝えた。

この勝利に国民達は大きな歓声を上げた。

だが、涙を流す国民居た…当然だ、死んでしまった兵士達には

残して行った、家族が居たのだから。


「…悲しむのは分かる…私もそうだ。

 愛すべき国民を…我々を守ろうとしてくれた勇敢な兵士を

 我々は失ってしまったのだ…だが、前を向いて歩もう。

 死んでしまった兵士達も我々が哀愁に囚われ

 その場に留まってしまうことを、望んではいないのだから。


 彼らは我らの幸せのために、その命を失ったのだ。

 ここで、我らが不幸になってしまっては、彼らに顔向けが出来ぬ」

「ですが…息子は…」

「あなたの息子さんは、立派な兵士でした。

 ゾンビの群れを前に、逃げる事無く勇敢に立ち向かい

 我々が勝利するための偉大な道を作ってくれた…」

「う、うぅ…」


完全勝利なんて、殆どの場合は存在しない。

とてつもなく力がある英雄が何人もいるならば

あるいは犠牲なんて出さなくても、勝利することが出来るのかも知れない。


でも、そんな英雄はそうそう生まれない。

よほどの意思がない限り英雄は生まれない…

だけど、きっと英雄は何処かに存在するんだ。

そんな英雄を、私達は勇者と言ってるんだと思う。


「……エルちゃん、私…もっと強くなりたい」

「リズちゃん…」

「私、とてもとても強くなって、色々な人を助けたい。

 辛い思いをする人を、1人でも少なくしたい。

 そして、いつになるか分からないけど…

 誰も辛い思いをしないで良いようにしたい。


 だから、私は強くなる…

 例え、勇者なんかじゃなかったとしても

 私は強くなりたい。1人でも多くの命を救えるように!」

「……リズちゃん、その意思があればあなたは必ず強くなれるわ。 

 私なんかよりも、凄く強い…そんな存在になれる」

「うん、私は絶対にリト姉ちゃんを越えてみせるんだから!

 そして、エルちゃんみたいに凄く強くなって、凄い勇者候補になって

 1人でも多くの命を救ってみせる! 辛い思いをする人を減らすために!

 私は強くなる。とてもとても強くなってみせる! 絶対に!」


リズちゃんが握った拳に確かな意思を感じた。

あの手の中に眠る、力強い確かな闘志を感じた。

リズちゃんは絶対に強くなる。私なんかよりも絶対に。


「私、強くなるから!」


力強い表情だけど、微かな涙がこぼれ落ちた。

涙を流す人達の姿を見て、彼女も涙を流したんだ。

誰かの不幸を本気で悲しめて、涙も流せる…それは優しい証拠。


だけど、その優しさはきっと…いつか自らを滅ぼしてしまう。

リズちゃんは優しすぎる…優しすぎるんだ。


「この悲しみで足を止めてはならない。我々は歩み続けねばならない!

 彼らの決死の覚悟が、我らの故郷を取り戻したのだ。

 これから向う、ロッキード王国はもはや前までの王国ではない!


 この国を愛してくれた、兵士達の最後の願いが込められた王国だ!

 彼らの願いを無下にしてはならない! 我らは再びあの場所で栄華を掴み!

 我らの笑顔を彼らへの手向けとしよう! さぁ帰ろう、我らが王国へ!」

「…はい、ロッキード王…必ずあの栄華を再び」

「再び笑い過ごすことが出来る、あの日々へ」

「あの子が必死になって取り戻してくれたんだ…

 親として、よくやったと…褒めてあげないとね。

 それに私達の為に命まで賭けてくれたんだ…

 笑顔で過ごさないと母親失格だ」


ロッキード王の言葉で悲しみに打ち震えていた国民達も

その涙を止め、ゆっくりと立ち上がった。


自分の大事な家族が死んで…それでも前を向いて歩けるのは

きっと、ロッキード王国の全国民が同じ思いを抱いているから。

同じ思いを抱けるのは、きっと国民達を導く王が素晴らしい人だからだ。


国民達に自分達が歩むべき道を確かに示し

共にその道へと歩み出す…凄い…王様だよ。

何より国民の事を想い、共に歩む…そんな優しい王様。


「…素晴らしい人物ですね、ロッキード王は」

「お父様は民の皆様に支持をされ、国王となったのです。

 お父様は国民の皆様のおかげで、王となった。

 故に、どのような事があろうとも民のために最善を尽くす。

 私の尊敬する偉大な父です」

「えぇ、私も尊敬します。あのような方が王であるならば

 必ずロッキード王国は栄華を取り戻し、更に先へ進むことでしょう」

「はい…そして、皆様…本当にありがとうございました。

 我々だけではとても為し得なかったことです…」

「いえ、兵士の皆様の奮闘があったお陰です。

 私達はなにもしてません」

「ご謙遜を、あなた方が敵の長を倒してくださったのでしょう?」

「いえ、私は敵の長を討ち取ることが出来なかった…敵の長を前に…」

「ですが、退けてくださりました。そのお陰で我らは勝利したのです。

 あなた方が居なければ、我々は国を取り戻せなかった。


 それだけじゃない、あなた方があの時、来てくださらなければ

 多くの国民達が犠牲になってしまったことでしょう…


 あなた方のお陰で、我らは国を取り戻し、再び再起することが出来た。

 本当にありがとうございます」


リリアン姫が私達に深々とお辞儀をした。

王族なのに、一切恥じることなく…深々と。

そんなリリアン姫の姿を見て、私は改めて実感できた。

やっぱり彼女もあの国王様の娘さんなんだって。


「あ、頭をお上げ下さい! わ、私達なんかにそんな!」

「いえ、あなた方は我々を救ってくれた英雄なのです。

 我々にとって、あなた方はもはや勇者候補などと言う存在ではない。

 英雄であり、勇者なのですから。本当にありがとうございます」

「そ、そんなに言われると、何だか恥ずかしいよ…

 私達はただ正しいと思ったことをやっただけなんだから」

「自身が正しいと思うことを、やり遂げることが出来る。

 それはとても素晴らしい才能であると、私は思います」

「……そ、そうかな…」

「えぇ、あなた方は偉大です。さぁ、勇者の皆様!

 共にロッキード王国へ向いましょう。

 国民達の前で、あなた方に感謝の意を」

「私達より兵士の皆に感謝して、私は大した事は出来てないよ…」

「いえ、あなた方は我々の希望になって下さったのです。

 希望がなくば戦いは勝てない。

 ですから、あなた方は我らを勝利に導いて下さったのです!


 皆様が居なければ、叶わなかった…ですので、お礼をしたいのです

 無論、亡くなってしまった兵士の皆様

 そして奮闘して下さった兵士の皆様にも感謝の意を伝えます」


私達は何度か断ろうとしたけど、リリアン姫は決して退かず

結局、私達が折れる形でロッキード王国へ向った。

相手への感謝を忘れないのも、本当に凄いよ。

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